今回の『The Long View』は、1986年にモーニングスターの初代ファンドアナリストとして入社し、現在はマネージング・ディレクターを務めるドン・フィリップスを招きました。投資文化や、スチュワードシップとセールスマンシップの違い、ファイナンシャル・アドバイザーの選び方などについて聞いてみましょう。
以下では、モーニングスター・スタイルボックスやモーニングスター・レーティングなど、今では業界標準となった独自の指標の開発に携わったフィリップスとの対談のハイライトを紹介します。
プライベート・クレジットは『個人投資家のことを理解していない』
エイミー・アーノット:最近、話題になっているのがプライベート資産、つまりプライベート・エクイティ(非上場株式)やプライベート・クレジット(非公開債権)です。プラン・スポンサーがこうした資産を401(k)プランに組み入れやすくするための動きに拍車がかかっています。退職金プランによるプライベート資産への投資をさらに広めることについて、どのようにお考えですか?
ドン・フィリップス:こうした動きは今後ますます増えていくと思いますが、私は、現状にはいくつかの落とし穴があると思います。たとえば、Blue Owlの件を見ても、金融業界と投資家が責任を擦り付け合うような応酬をしています。先日、当社のある幹部がプライベート・クレジットのカンファレンスに出席したのですが、戻ってきてこう言いました。
「彼らは、『個人投資家がいかに間違っているか』ばかりをずっと話していた。『個人投資家はプライベート・クレジットをまったく理解していない。何が悪いっていうんだ? こうした(解約制限の)規制は、彼ら自身の保護のためのもので、良いことだというのに』とね」。また先日、あるテクノロジー企業の幹部は、「問題は、個人投資家がプライベート・クレジットをまったく理解していないことだ」と言っていました。
しかし、逆の側面もあります。プライベート・クレジットもまた、個人投資家のことを理解していません。個人投資家が手にした過去100年間の運用商品を見ると、ユニット・トラストからクローズド・エンド型ファンド、オープン・エンド型ファンド、インデックス・ファンド、ETFへと移行してきました。この一連の商品の変遷は、投資家により広い分散、より低いコスト、あるいはより高い流動性を提供してきました。
ところが、ここにきてプライベート資産を見ると、この3つの流れすべてに逆行しています。コストは上昇し、流動性は低下し、集中度も高まります。幅広い市場インデックスのような分散投資はできません。過去40年、50年かけて個人投資家が学んで定着した、分散・低コスト・流動性の確保といったポートフォリオ構築の基礎を、今や金融業界はすべて逆方向に巻き戻しているのです。そして業界は『なぜ投資家がこれに備えていないのか?』と不思議がっているのです。
Blue Owlで起きたことを理解するために、債券市場を振り返って現在との関連を見てみましょう。そもそも投資信託における債券投資のルーツは、マネー・マーケット・ファンド(MMF)に遡ります。1980年代には、個人貯蓄の大部分は銀行や通帳預金口座に預けられており、金利は5.25%でした。そしてMMFが2桁の利回りを提供できるようになった時、初めて人々は銀行から投資信託へと資金を移すようになったのです。MMFは、多くの投資家の資金を投資信託へと引き入れる導入商品でした。その後、MMFの利回りが10%を下回ると、投信業界は満期がはるかに長い国債ファンドへと投資家を誘導し、さらに社債ファンド、やがてはハイイールド(低格付)債券ファンドへと移行させました。これは常にリスクがより高くなる方向への誘導でしたが、投資家は「これはMMFのようなものだ」という認識のままでした。
これには債券ファンドのネーミングも一役買っており、ファンド名はたいてい最も安心感を与える側面を強調しています。つまり、ファンドの最も重要な特性を表した、たとえば「低格付債券ファンド」などという名前のファンドは、誰も買ったことがないでしょう。皆さんが購入するのは「ハイイールド(高金利)・ファンド」です。 また、「投資適格債券ファンド」という名称でも、実際にはA格が中心の商品を婉曲的に表現しているケースもしばしばあります。多くの投資家は、A格、その上のAA格、更に上のAAA格といった格付けの違いを詳しくは知りません。つまり、「投資適格債」という言葉が示すのが、格付の中で中位にあたるという認識はないのです。そこが問題です。
また、金融業界はマーケティングで、安全・安心を強調します。債券ファンドを例に挙げましょう。たとえば「米国債ファンド」の目論見書や販売資料の表紙には、国旗や議事堂の写真が掲げられ、いかにも安全そうに見えます。それなのに突然、あなたはそのファンドで信用リスク(元本割れリスク)を負うことになります。もちろん、信用リスクを承知の上で買うならば、リスクそれ自体には何の問題はありません。しかし残念ながら、金融業界は、投資家が知るべき重要な情報を、あえて軽めに伝える傾向があります。
だからこそ、人々はBlue Owlの件で本当に驚いたのだと思います。彼らの期待は、「これはMMFのようなものだ。元本割れなどするはずがない」というものだったからです。
さて、プライベート・クレジットの関係者は、「まあ、大した問題じゃない」と言っています。MMFでも同じことが言えるのではないでしょうか?1ドルが99セントになることがあります。世界の終わりではありませんが、元本割れを起こしたのです。それは自らが交わした約束や、投資家の期待を破ったということです。しかも、これはお互いにとって初めてのデートのような機会でした。個人投資家はプライベート・エクイティに不慣れです。一方、こうしたプライベート証券の発行側も、個人投資家の考え方をあまり理解していません。
そして、私たちがただ願うこと、そしてモーニングスターが取り組んでいることは、どうすれば投資家の成功確率を高められるか、ということです。なぜなら長期的には、投資家が成功しなければ、双方が苦しむことになるからです。ですから、最も重要なことは、まず投資家の成功体験を築き、それを土台としてビジネスを発展させていくことだと私は考えています。それは、できるだけ手っ取り早く投資家の資金をこの市場に誘導するか、とは対極にある考えです。
「透明性の高い市場こそ投資家にメリットがある」
クリスティン・ベンツ:神経内科医から投資アドバイザーになったビル・バーンスタイン氏は、プライベート資産への投資が個人投資家に開かれて行く過程で、「質の低い業者が個人投資家向けの商品提供に向かい、より優れたプライベート資産の運用者は(機関投資家や富裕層向けという)現状に留まり、リテール向けには参入しないだろう」と主張されましたが、どうお考えですか?
フィリップス:確かにその可能性はあります。ヘッジファンドで何が起きたか、そして大勢のファイナンシャル・アドバイザーがイェール大学のモデルを真似ようとしたことを考えれば明らかです。彼らはイェール大学基金のCIOデビッド・スウェンセン氏が利用していたような質の高いヘッジファンドには手が届かず、より質が劣っている可能性があり、確実により高い手数料を取られるリテール向けの運用商品を購入していたと述べています。
ですから、常にそうした可能性や、イノベーションがどこで発生するのかを見極める必要があります。バーンスタイン氏は、こうしたことに関してはほとんど常に正鵠を射ています。それは鋭い洞察だが、いずれそうなっていくことが心配です。こうしたことが実際に起きるのを目にすることになるでしょう。
プライベート資産への投資をめぐる熱狂や、人々がSpaceXや類似の案件に何とか投資したいと思っているこの状況について、私が少し懸念していることがあります。私たちが忘れかけているのは、公開市場がいかに優れているか、そして投資家にとってどれほど有益であるかということです。
モーニングスターが上場する前に、創業者のジョー・マンスエトがそのことについてこう言っていたのを覚えています。「もし米国市場で上場すれば、私たちは地球上で最も高いレベルの透明性と説明責任を受け入れることになる。米国市場は最も公正で、最も透明性が高く、投資家はこの照明の行き届いた市場からメリットを受けるのだ」と。そして今、人々はこう言っています。「プライベート・エクイティが個人投資家の資金を受け入れられる道を拓き、上場企業と同様のメリットを享受できるようにしなければならない」と。
しかし私は、公開市場サイドでも何ができるかを検討すべきだと考えています。たとえば、上場し易くして、より多くの企業が上場を希望するように、報告義務の負担を少し軽減するなどです。なぜなら、投資家や投資コミュニティにとっての究極の目標は、現状のように、多くの企業がますます日影や舞台裏へと隠されているのではなく、むしろこぞって「日当たりの良い」公開市場で鎬を削ることです。
とはいえ、プライベート資産への投資の波は何らかの形で実現し、金融機関も個人投資家も一定の妥協を迫られると思います。しかし、確実に起こることの一つは、投資家の選択肢が拡大していくことです。それは良いことですが、同時に、新たに登場する資産クラスをどう扱っていくかという難題と向き合うことでもあります。
「すべてがAIやテクノロジーを中心に回っている」
アーノット:モーニングスターが常に重視してきたのは、ファンドのポートフォリオの中身を実際に確認することです。かつては、人々がファンドの情報を探してもごくわずかしか見つからず、結局リターンに注目してしまう傾向がありました。ポートフォリオの実際の中身にこれほど重点を置いたのは、モーニングスターが本当に草分けだったと思います。
フィリップス:モーニングスター以前のファンド分析の大部分は、実際にはテクニカル分析の一種でした。ファンドを外側から見て、基準価額や分配金、そしてそれらの変動状況を見ていました。しかし、その背景にあるパフォーマンスの要因を理解し、ファンドが実際に何に投資しているのかを掘り下げる仕事なしに、逆風や追い風を理解することはできません。なぜこのファンドがある時点で成功し、別のファンドが別の時点で成功したのかを理解できなければ、賢明なポートフォリオを構築することもできません。
もし、単に最近成功したファンドをいくつか購入するだけなら――例えば、昨年の運用成績上位リストからまとめて購入するなら――あなたがやっていることは単に『分散投資をしているという錯覚』を生んでいるだけです。異なる運用会社の色々な名前のファンドをいくら積み上げても、すべてが同じ時期に良い成績を挙げたものなら、本質的に同じものに投資している可能性が非常に高いのです。
その結果、分散投資をしているという誤った感覚を得ますが、実際には単に保有する商品数を増やしているだけなのです。そして、それが私が今、プライベート・エクイティについて非常に懸念していることでもあります。
先日、弊社社長であるクナル・カプールがハリス・アソシエイツのCIOビル・ナイグレン氏との懇談について話してくれました。ナイグレン氏は、「我々はS&P 500について、幅広い市場指数だと考えていますが、実際には「マグニフィセント・セブン」企業群に代表される特定のセクターの、ほんの一握りの企業が市場を支配しているため、非常に集中化が進んでいます。今日のS&P500は歴史的に見て、かつてないほど集中した賭けになっています」と指摘したそうです。そして、今、皮肉なことに多くの個人投資家や、おそらくファイナンシャル・アドバイザーまでもが、「大勢の人がS&P 500のような従来型の広範な市場に投資をしていますが、もっと分散する必要があります。それでは、プライベート・エクイティへの投資を始めましょう」と言っていることだと思います。
プライベート・エクイティの取引は上場資産とは異なるかもしれませんが、プライベート・エクイティの世界は群集心理によって形作られています。プライベート・エクイティ・ファンドで、具体的な特定企業を買う人はいません。それらのファンドはすべて、AI・テクノロジー関連に偏っています。ですから、今プライベート・エクイティに投資すれば、実際には、上場市場でS&P500がすでに行っている賭けに、さらに同様の集中を上乗せすることになる可能性が高いでしょう。ここでも『分散投資をしているという錯覚』に陥っているのです。
繰り返しになりますが、意図してより集中したポートフォリオを運用すること自体に問題はありません。問題は、実際には集中しているのに、分散していると思い込んでしまうことです。もうひとつ、歴史的に見て投資家は集中型ポートフォリオをあまりうまく活用できないことが分かっています。集中投資ではパフォーマンスは極端になる傾向があり、そのため高値で買ってしまい、下落すると安値でも売却したいという誘惑に駆られやすくなるからです。
さて、非公開市場と公開市場の融合に関する議論についてですが、ワシントンや規制当局と接している当社の担当者に話を聞くと、当局は流動性やコストに非常に重点を置いています。しかし、私たちが真剣に考えなければならないことの一つは、集中化の問題だと思います。
集中化リスクはプライベート・エクイティに内在するリスクであり、その背景には群集心理があります。セクターへの集中がはるかに高くなり、おそらくはSpaceXのような、指数を支配するごく少数の企業への集中化もさらに進むでしょう。こうした集中化は、投資家が日常的に対処しにくいことを私たちは知っています。投資家は、集中型のファンドをうまく活用できていません。
そして、投資家のリターンを分析してみると――エイミー、あなたはファンドのリターンと投資家のリターン(インベスター・リターン)を比較するリサーチで画期的な仕事を行ってこられましたね――、急騰したかと思えば急落するような、集中度の高いファンドのいくつかは、投資家が実際にはうまく活用できていないことが示されています。中には素晴らしいリターンを挙げたファンドもありますが、少し深く掘り下げてみると、そうしたファンドに投資をした人々は買い時/売り時のタイミングが非常に悪い傾向があるため、実際には投資家のリターンは非常に貧弱であることが分かります。
アーノット:また、プライベート・エクイティの場合、投資という面では集中化が問題ですが、この分野のファンドを眺めわたすとパフォーマンスに極めて大きなばらつきがあり、上位4分の1のファンドと下位4分の1のファンドの間には大きなギャップがあります。そのため、投資家にとっては、さらに悪い結果につながる可能性もあります。
フィリップス:重要な指摘です。◇
※ この記事の執筆には、ヴァレンティーナ・ジェリョセヴィッチが協力しました。
※ 本稿はモーニングスター「Private Equity May Not Diversify Your Portfolio Like You Think」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。


