インフレ期には株式と債券の値動きが連動しやすくなりますが、それでも債券は大きな分散効果があり、ポートフォリオの安定とリスク低減に重要な役割を果たします。
これは、先日発表したレポート「2026年 分散投資の展望」の重要なポイントの一つです。
クリスティン・ベンツ、デビッド・レイナ、ジャック・シャノン、そして筆者は、過去数年間に各資産クラスが示したパフォーマンス、相関関係の推移、そしてそれらの変化が、広範な分散投資を目指す投資家やファイナンシャル・アドバイザーにとってどのような意味を持つのかを分析しました。
また、景気後退、高インフレ、金利上昇といった圧力がかかる市場局面での、主要資産クラスのパフォーマンスも検証しました。こうした環境には、それぞれ固有の課題があります。
さらに、こうした環境の局面に伴い従来観測されていた相関関係が往往にして変化するだけでなく、特定の資産クラスがより良好な値動きを示す傾向があることもわかりました。
以下に、本調査の主な結果をご紹介します。
株式と債券の相関関係:インフレ期はどうなる?
株式と債券の動きがどれほど連動して動くかを知り、管理することは、投資家として最重要な基本の一つです。株式は、請求順位が低い残余資産(residual assets)という性格上、債券より大きな上昇余地を秘めていますが、同時により高いリスクを伴います。一方、債券は、早期から比較的確定したキャッシュフローを受け取れる上に、通常は満期時に元本が返還されるため、より高い安全性を備えています。
株式と債券は構造が異なるため、一般的に値動きは連動しません。1960年以降でみると、株式と債券の相関係数は平均で約0.08と長期的にみると低水準です。資産分散の観点では、債券は値動きが比較的小さいだけでなく、リスク低減効果をもたらす資産と言えます。
しかし、株式と債券の相関関係は常に小さいわけではありません。インフレ率が低い時期には株式と債券の相関関係が低く、最も分散効果を発揮します。たとえば、2000年11月から2020年にかけては、インフレ率が平均を下回っていたこともあり、3年間の移動平均相関係数は一貫してマイナス(またはゼロを若干上回る程度)でした。
しかし、2021年5月からのインフレ再燃により、市場環境はかなり厳しくなりました。サプライチェーンの混乱、労働市場の逼迫、ウクライナ戦争、強力な経済成長などが複合的に作用して、それまで穏やかだったインフレ率を押し上げました。消費者物価指数は2021年末までに前年比7%以上上昇し、2022年半ばには9%に達しました。 その後、インフレ圧力は2023年から2025年にかけて緩和したものの、インフレ率は依然としてFRB(連邦準備制度理事会)が目標とする2%を上回っています。
その結果、株式と債券の相関関係は2021年以降急激に上昇しました。最近の相関関係の上昇は稀に見るような変化ですが、前例がないわけではありません。過去にも、インフレ率が前年比5%以上上昇し、6か月間以上その高水準が続いた「高インフレ期」には、株式と債券の相関関係が正の値を示すことが幾度となくありました。
インフレ期の相関係数、リターン、リスク、シャープレシオ

上の表が示すように、株式と債券の相関関係は、インフレ期の一部で上昇しましたが、すべてというわけではありませんでした。一般的に、相関が最も高くなったのは、インフレ率が高く(2桁台)、かつ長期化(少なくとも3年間継続)した時期でした。第二次世界大戦後、戦時中の賃金・物価統制の解除と多数の兵士の帰還により、インフレ率は異例の急上昇となりましたが、物価上昇は1年ほどで収まりました。もっと最近では、2007年と2008年に中国の急成長が消費者物価を押し上げましたが、インフレ率は6%を下回り、期間も1年未満にとどまりました。
最も劇的に相関が上昇したのは、1966年2月~1970年1月(低失業率と経済成長の急拡大が要因)と、1977年2月~1980年3月(原油価格の高騰、原油禁輸措置とそれに伴う価格ショック、金融緩和政策が要因)の期間でした。いずれの時期も、相関係数はそれぞれ0.26および0.28と、最終的に同程度の水準で落ち着きました。最近の金利とインフレの両面で情勢が急速に変化によって、株式と債券の相関係数の上昇傾向はさらに顕著なものとなっています。
インフレ期の資産クラス別パフォーマンス
本調査では相関関係の特性に加え、資産クラスごとのパフォーマンスの傾向についても詳しく分析しています。インフレ率の上昇は、原材料、部品、賃金、その他の経費が上昇して企業の投入コストが拡大するため、株式に逆風をもたらします。調査対象としたインフレ期では、米国大型株の名目リターンは平均約3%(年率)でしたが、これは同期間の平均インフレ率を大きく下回っています。インフレ率が非常に高い場合や予想外のインフレが発生した場合には、株式のパフォーマンスはさらに悪化する傾向があります。たとえば、1972年7月~1974年12月の累積インフレ率は24%を超え、大型株は年率13%以上、小型株は22%以上下落しました。
インフレ率の上昇は債券にもネガティブな影響をもたらすことがありますが、通常、株式とは異なる経路で影響を受けます。インフレ率の急上昇は、多くの場合FRBに利上げを促し、債券価格の下落と株式と債券の連動性が高くなる状況を招きます。下の図表で示したインフレ期において、コア債券の年率名目リターンは約2.2%となり、長期債のリターンはそれよりやや低いものでした。いずれの資産クラスも、2021年6月~2023年3月までの直近のインフレ期のリターンが最も低くなりました。金利は上昇するしかない上に、債券には金利上昇を相殺する利回りというクッションの余地が以前ほどなかったからです。
インフレ期における資産クラスのリターン(%)

インフレ環境と市場構造の変化
他の資産クラスを見わたすと、高インフレ期にパフォーマンスが概して最も悪くなったのは、先進国株式と新興国株式でした。これは、高インフレ期にはしばしば金利が上昇し、それが米ドル高を招くことが一因です。ドル高は、米ドル建て換算の非米国資産のリターン低下のみならず、ドル建て債務を抱える新興国の負担増にもつながります。また、REIT(不動産投資信託)も、インフレ上昇に伴い賃料を引き上げられるとうたわれているものの、ほとんどのインフレ期でパフォーマンスが低迷しています。
一方、金やその他のコモディティは、高インフレ期に好調なパフォーマンスを示す傾向が強いものです。とはいえ、1980年代後半には債券利回りが上昇したため、保有しても利回りを生まない金の価格は停滞しました。その他のコモディティは、相対的により高いインフレ耐性を示す傾向があります。その理由の一つは、原油や天然ガスなどは個人消費の大きな割合を支えており、インフレ率の上昇に応じて価格が上昇する傾向があるからです。より広い視野で言えば、強力な経済成長の時期にはコモディティの需要が増加する傾向があり、それがインフレを加速する要因となり得ます。
ポートフォリオへの示唆
これらのパターンから導き出される、重要な教訓があります。インフレ期には株式と債券の連動性が高まりますが、それでも債券には十分な分散効果が期待でき、ポートフォリオの安定化やリスク低減に重要な役割を果たします。特に、米国物価連動国債(TIPS)は、実質利回りがプラスの場合、インフレリスクをヘッジするための有効な手段となり得ます。◇
※ 本稿はモーニングスターの「How Portfolio Diversification Works in Inflationary Periods」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

