シンプルなステップで、近づくリタイアメントに備える

現金の「バケツ」は、ギリギリまで待たずに準備しておこう!

パソコンとメモ帳を持った投資家のコラージュ。背景には図形やアイコンが配置されています

クリスティン・ベンツは、退職後の資産管理プランに役立つ「バケツ戦略ポートフォリオ」について、様々な機会に説明しています。リタイアメント後に向けた資産ポートフォリオを3つの「バケツ」に分けて管理するという考え方で、基本的なバケツ戦略ポートフォリオは以下のようなものです。

  • 1つ目のバケツ:今後1~2年分の引き出し見込み額を現金資産で保有し、
  • 2つ目のバケツ:5~8年分を高格付債券で保有し、
  • 3つ目のバケツ:それらの残りを長期で成長が見込める運用商品、主にグローバルに分散する株式のポートフォリオで保有する、

今回はこの中の「1つ目のバケツ」について主に取り上げます。

「バケツ戦略ポートフォリオ」の利点は、退職者が常に黒字の資産クラスから生活費を引き出せることです。2025年の株価上昇を受けて、多くのリタイアメント・ポートフォリオは「株式の保有比率を調整する」時期を迎えています。一方、2022年に金利上昇が株式や債券市場を揺るがした際には、バケツ方式を採用していた退職者は、値下がりしている株や債券ではなく、現金資産から必要な資金を引き出すことで、長期投資をそのまま維持することができました。

2025年の分散投資と資産間の相関についてのホワイトペーパーで指摘した通り、過去数十年にわたって現金と高格付債券は株式に対する優れた分散投資手段となってきました。株式が下落する年であっても、通常は、残る2つの資産クラスのいずれか、あるいは両方が堅実な成果を維持します。

退職までの年月では、ほとんどの退職資金向けポートフォリオは株式や債券に配分して運用されていますが、多くの人は(株式市場が長期で好調だったこともあり)、緊急時の備えとして必要な額以上の現金を保有していません。そのため、退職までの期間が2、3年に迫っても、医療保険の加入計画や仕事からの引退準備だけでなく、現金(流動性資金)による備えを確保することが重大な課題として残っている場合も多々あります。現金は、いざ退職した際の生活資金源となるだけでなく、予期せぬ事情により予定より早く退職することになった場合などにも、緩衝材としての役割を果たす効果があります。

現在、現金を積み増す上で朗報となるは、金利が引き続き良好な環境であることです。現金の保有は何年か前までのような「全く増えないお金」ではなくなりました。また、幸いなことに(少なくともごく最近までは)株式資産クラスのパフォーマンスは概ね良好だったので、現在、多くの投資家は値上がりした株式ポートフォリオを一部売却することで、少なくともある程度現金資産の比率を増やすことができます。

バケツ戦略ポートフォリオを構築するために、現金あるいはそれに類似する流動性資金(短期債など)をいくら確保するか、どこからその資金を持ってくるか、そしてどこにその資金を置いておくかについて、いくつかの指針をご紹介します。

「バケツ1」の適正規模はどのくらい?

筆者はいつも、「バケツ1」に当たる現金など流動性資産は生活費全額ではなく、ポートフォリオから引き出す額をベースに1~2年分を用意すべきだと説明しています。というのも、リタイアメント後の生活費の少なくとも一部はポートフォリオ以外のところ、例えば社会保障や個人年金、年金保険などから賄われる可能性が高いからです。そして、こうした資金源の構成は、退職後の生活を通じて時間とともに変化していくことが多いからです。

最初に「バケツ1」を設定するにあたっては、退職後の最初の数年間の資金源についてよく検討しましょう。例えば、66歳の方が2年後に退職する予定で、その時点で150万ドルのポートフォリオから、年間合計8万ドルを支出する必要があると想定している場合を考えてみましょう。この人は、社会保障給付の受給開始を70歳まで遅らせたいと考えているため、退職後の最初の2年間は、支出のすべてをポートフォリオから賄うことになります。その後70歳以降は、支出の約半分は社会保障給付から賄われることになります。

もしこの人が保守的な資産管理プランを描くなら、1年目と2年目のポートフォリオからの引き出し額合計16万ドルを、現金・流動資金として「バケツ1」に確保することになります。さらに、「バケツ2」では高格付債券など安定的な資産を保有し、8年分のポートフォリオからの引き出し額を保有することになります。ただし、その時点での年間引き出し額は、社会保障給付金などを総支出額8万ドルから差し引いて仮に4万ドルとなるとしましょう。すると、資産額150万ドルから16万ドル(8万ドル×2年分)と32万ドル(4万ドル×8年分)を差し引いて、残りの110万ドルは「バケツ3」として、長期で成長が期待できる世界的に分散された株式ポートフォリオに充てることができます。

資金をどこで保有すべきか?

流動性資産の規模を検討するだけでなく、その「置き場所」についても検討する価値があります。現金を課税対象口座に保有するか、非課税口座に保有するか、あるいは両方に分散して保有するか、といった点です(※米国ではIRAで現金やMMFを保有できるが、日本では一端DCやiDeCoから引き出した現金の置き場所としての非課税枠は無い。一方、退職所得控除について吟味し、退職金や確定拠出年金、iDeCoなどの受け取り方を検討することで、税効率を向上させることができる)。

この疑問に答えるためには、退職後の引き出し順序を考慮する必要があります。課税対象口座は、非課税口座に比べて継続的な税負担が高いため、退職後の引き出しにおいて優先的に利用されることが多いのです(※米国の課税口座では、1年以上保有した値上がりした銘柄を売却した場合、長期キャピタルゲイン税の優遇措置を受けることができるが、通常の所得については、より高い通常の所得税率が適用される)。しかし、将来の必要最低引き出し額や税負担を軽減することを視野に入れ、退職初期に税制優遇口座から資金を引き出す方が有利な場合もあります。

ファイナンシャルプランナーは、退職後の全期間にわたって税金を削減するための資産取り崩し戦略をモデル化するために、高度なソフトウェアプログラムを活用していることも多いです。したがって、この段階では、ファイナンシャル・アドバイザーや税務アドバイザーからアドバイスを受けるのが良いでしょう(※日本では個別の税務アドバイスは税理士資格保有者に限られる。ただし、税理士ごとに資産運用や老後設計への知見には差があるので、常に十分なアドバイスを得られるとは限らない。一方、資産運用の知識を持つそれ以外のアドバイザーは、一般的な制度上の比較等のアドバイスのみが可能となる)。

退職後の初期段階でどこから必要な支出を行うかという知識を身につければ、流動性予備資金をどこに保有するのが最適かを見極めることができます。

流動性資金はどこから調達すればよいか?

どのくらいの現金を確保し、どこに保管するかを決めたら、次はそれをどのように増やしていくかを考えます。理想を言えば、退職直前に急いで資金を充当するのではなく、数年かけて現金の残高を増やしていくのが良いでしょう。退職を迎える多くの人には、現金の比率を増やすためのいくつかの選択肢があり、その中には以下のようなものがあります。

追加の貯蓄:まだ老後資金を貯めている最中のリタイアメント間近の人にとって、流動性資金を増やすための合理的な方法は、新たな拠出金を現金に振り向けることです。例えば、前述の例とした退職者が、確定拠出年金プランの拠出上限額である32,500ドルを拠出し、さらに8,600ドルをIRA(個人退職勘定)に拠出しているとします。これら2つの口座への2年分の拠出金を現金に振り向けることで、退職を迎える頃には、目標とする現金資産配分のほぼ半分(目標160,000ドルのうち82,200ドル)に達することができるでしょう(※日本の企業型確定拠出年金の上限は55000円、この額(確定給付年金と併用の場合はDC、DB掛け金の合計)に満たない場合は、差額を20000円などを上限として個人でiDeCoに加入して運用することが可能。ただしiDeCo掛金の上限は条件によって異なるなど、DCやいDeCoの制度は複雑なため、詳細は個別に確認が必要である)。

ボーナスや相続財産、保険金など退職までの数年間で、誰もが思わぬ臨時収入に恵まれるわけではありません。しかし、もし最近、予期せぬまとまった資金が入ったのであれば、その資産は手元資金を増やすための理にかなった手段となります。おそらく、それらは現金として課税対象の口座に入ってくることになります。

ポートフォリオのリバランス:もう一つの確実な選択肢は、値上がり幅の大きい資産クラス、たとえば米国株の保有比率を引き下げて(一部を売却して)、現金の比率を高めることです。最近は株式市場の変動が激しくなっていますが、多くの米国投資家は依然として株式への投資比率が高すぎる状態にあります

株式を一部売却し、その資金を現金や債券に振り向けることは、リタイアメントを間近に控えた人にとって一石二鳥の効果があります。保有資産のリスクを軽減できるだけでなく、退職後の最初の数年間の生活資金の確保にも役立つからです。ただし、このような売却は場合によっては税金の支払いにつながる可能性があるので、税務アドバイスを求めるか、あるいは税制優遇口座でリバランスを実行することで、その影響を軽減することを考えましょう。

リスクの高いポジションの縮小:ポートフォリオの資産配分を見直す必要がない場合でも、ポートフォリオ内に問題のある保有資産が残っている可能性があります。例えば、減らすべきだと分かっている自社株、投資信託の構成銘柄と重複している個別株のポートフォリオ、あるいは低コストの上場投資信託に比べて十分なリターンを上げていない割高なアクティブ・ファンドなどです。こうした保有資産は、現金準備を積み上げる際の理想的な素材となり得ますが、課税対象口座から売り出す場合は、税務上の影響に十分ご注意ください。◇

※ 本稿はモーニングスターの「Take This Simple Step as You Approach Retirement」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針