<重要なポイント>
- 「4%ルール」は、退職後のポートフォリオが順調に進んでいるかどうかを素早く、ざっくりと判断する上で便利ですが、いくつかの欠点もあります。
- 若いうちに退職する人は、退職当初の取り崩し率を4%より少し控えめに設定した方がよいでしょう。
- 生涯の支出について柔軟に対応できるのであれば、引き出し開始額を高く設定することも可能です。
- 住居、交通、旅行といったライフスタイルの変化は、早期退職を検討する際の判断材料としてよく考える必要があります。
- 退職後も何らかの仕事をする意思があれば、その収入がポートフォリオの経済的な持続可能性を大きく改善するでしょう。
- 遺産を残したいか、あるいは資産をすべて使い切ってこの世を去りたいか。その選択は、退職後の生活で支出を左右する要素です。
- 退職後の人生の「ソフト面」について、仕事から得られるお金ではないポジティブな要素のうち、退職後も維持したいと思うものについて考えておくべきです。
マーガレット・ジャイルズ:こんにちは。モーニングスターのマーガレット・ジャイルズです。多くの方は、早期退職が可能かどうかを判断する基準として、ポートフォリオの価値や資産額といった資金面だけを考えてしまいがちです。しかし、モーニングスターのクリスティン・ベンツは、早期退職を目指す人は、他にも考慮すべき要素があると考えています。今回はその重要なポイントについて、クリスティンを招いて聞きたいと思います。
クリスティン・ベンツ:マーガレット、よろしくお願いします。
早期退職プランで「4%ルール」を用いるデメリット
ジャイルズ:早期退職を目指す人の中には、退職後の資金が十分かどうかを判断するためにいわゆる「4%(引き出し)ルール」を参考にしている人もいます。これは良い出発点でしょうか?
ベンツ:何も目安がないよりは間違いなく良いことです。退職後のための資産形成が順調に進んでいるかどうかを素早く大まかに把握するには良い方法です。ただ、いくつか指摘しておきたい欠点があります。
一つは、4%のガイドライン――ウィリアム・ベンゲンの初期の研究に基づく古典的な4%引き出しというガイドラインですが――これは市場の過去のデータに基づいて、「最悪のタイミングで退職した場合、30年間で最大いくら引き出せたか?」という基本的な問いだということです。そのため、私たちの調査では、株式の現在のバリュエーションや債券利回り、インフレ率などを反映して、市場の将来についての見通しを織り込んだリターン予測を組み込んで毎年見直しています。これが、4%ガイドラインを基にするにせよ、発展的に考えるべき理由の一つです。
そして、若い退職者にとってのもう一つの大きな理由は、私たちのチームや他の機関が行ってきた「安全な取崩し率」に関する研究の多くが、主に25年または30年という、いわゆる標準的な退職後の期間を想定しているということです。
若い退職者は、もう少し保守的な姿勢で長い期間を考えるべきです。例えば、55歳で今後40年間退職生活を送る予定の場合、他の条件が同じであれば、当初の引き出し率は4%より少なく抑える必要があります。私たちの2025年の退職後の支出に関する調査を見ると、40年間の期間でみると、安全な最初の引き出し率の基本シナリオは3.3%でした。期間を35年間にすると3.5%、30年間にすると3.9%になります。これは大きな違いであり、退職後の期間が長い場合は、初期の引き出し率をもう少し保守的に設定した方がよいことを示唆しています。
柔軟な引き出し戦略で、安全な取崩し率を最大化するには
ジャイルズ:なるほど。つまり、引き出しに関して、どれだけ柔軟に対応できるかという点も、考慮すべきだということですね。なぜそれがそれほど重要なのでしょうか?
ベンツ:ええ、これは非常に大きな要素です。私たちの退職後の支出に関する調査でも、生涯の引き出しに柔軟な対応ができる人、具体的には、市場が下落している時は引き出し額を減らし、上昇している時は増やすという変動を厭わない人なら、退職後の環境に合わせて軌道修正していくことを前提に、当初の引き出し額を高く設定できることが分かっています。
エイミー・アーノットが、調査でこの部分を担当しています。こうした柔軟な戦略を用いた場合、安全な初期引き出し率の上限は6%近くまで高くなったはずです。もしあなたが、そうした調整を実行できる退職者なら、より高い引き出し率でリタイアメント後の生活を始められます。ただし、自分の予算を見直し、必要に応じて実際に調整を行う余裕があるかどうかを必ず確認しておく必要があります。
早期退職に向けたライフスタイルの変更
ジャイルズ:なるほど。ところで、早期退職を考える上で、ライフスタイルの変更も重要な要素です。早期退職を考えている人は、どのような変更を考えるべきでしょうか?
ベンツ:そうですね、大小さまざまな変更を検討できます。典型的な例としては、車での通勤がなくなったり、運転する頻度が減ったりすれば、車両やガソリンなどに関わる費用を節約できるでしょう。
また、もっと大きな出費に関わる要素がいくつか考えられます。最近、北東部の高コストな都市部から、南部の比較的コストの低い田園地帯に引っ越したばかりの若い退職者と話す機会がありました。引っ越しによって、住居費や固定資産税などで大幅な節約を実現できたと言います。生活の基盤を移し、新しい場所へ移住することには、大きなトレードオフを伴います。それでも、退職を考える人々にとって、生活費を抑えるためにどのようなライフスタイルの変化を受け入れることができるかを見極めることは、非常に有意義なことでしょう。
退職したばかりの人の中には、頻繁に旅行するなど、実際には支出が増えるようなライフスタイルの変化を考えている人もいるでしょう。こうした選択によっては、一部の退職世帯では、支出が増加する可能性も否定はできません。
ジャイルズ:そうですね。つまり、どちらの方向にも変化する可能性があるということです。
ベンツ:その通りです。
早期退職でも仕事が鍵になる
ジャイルズ:クリスティンは、リタイアメントについて考える時、退職後に仕事を持つ効果について真剣に考慮すべきだと指摘していますね。ちょっと矛盾しているようにも聞こえますが、具体的にどのようなことを検討すべきでしょうか?
ベンツ:ええ、退職後の柔軟な引き出し戦略は、大きな強みになりますが、多少なりとも収入を得られる力も同様に退職後のパワーとなります。中には完全に仕事から解放されたいと考える人、「仕事はもう真っ平だ」と言う人もいると思いますし、その気持ちはよく分かります。しかし、契約社員やパートタイムの仕事など、負担の少ない仕事で何らかの形で働く意思があれば、ポートフォリオの経済的な持続可能性という点で大きな違いが生まれます。
収入でカバーしつつポートフォリオからの支出を減らすことができれば、すべてが楽になります。確定拠出年金などに追加拠出をしなくても、支出を減らすだけで状況が一変する可能性があります。ただし、注意も必要です。私は時々、退職後も働き続けている方と話す機会がありますが、誰もが自分はその仕事をずっと続けられると思っているようです。しかし、気力や体力が衰えることもありますから、それを絶対条件として計画に組み込むのは危険です。長く働き続けることができない場合に備えて、代替案を用意しておく必要があります。
遺産か、すべて使いきるか
ジャイルズ:たしかに、考えるべき点ですね。ところで、一生でどうお金を使うか、どう残すかも、重要な要素だとお考えですね。それはどういうことですか?
ベンツ:はい、それは私たちの退職後の支出に関する調査で、明確に示されています。遺産を残す強い動機を持たない人は、柔軟な引き出し戦略を選択すべきです。なぜなら、その引き出しシステムは、生きている間により多くの資産を使う気持ちにしてくれるからです。ですから、ちょっと立ち止まって退職後の生活で何を成し遂げたいのかを考えてみてください。もしあなたが、いわゆる「最後は有り金を使い果たす(last breath/last dollar)」とか、「何も持たずにあの世に行く(die with zero)」という考え方を持つなら、退職生活を通じてより多くのお金を使うことができる柔軟な支出戦略を採用すべきです。それによって消費だけではなく、退職後により多くのお金を寄付したり、生きている間に愛する人々のために資産を使たりすることもできるかもしれません。
これはちょっとパズルのような複雑な面もありますが、人生の最後に資産をたくさん残すか、それとも何も残さないかという最終的なあなたのお金のゴール地点は、退職後の支出についての議論の重要な要素となるはずです。
お金だけではない、退職に向けたプラン
ジャイルズ:その通りですね。最後に、退職後の生活についての「ソフト面」も考えるよう勧めておられますね。具体的にはどのようなことを考えるべきでしょうか?
ベンツ:仕事から得られるもの全てについて考えるべきです。お金だけでなく、仕事から得られるポジティブな側面についても考えましょう。たとえば、人や社会とのつながり、適度な運動、知的な刺激、そして生き甲斐などです。もちろん、その仕事を永遠に続ける必要はありませんが、退職を考える際には、そうした良いものをどのように補うかをよく考える必要があるということです。
仕事から得られなくなったそれらのものを、どのように手に入れるのか?退職者からよく聞くのは、レジャーや余暇活動をしたいという強い願望が沸き上がってくる、と言う話です。今こそそれらに取り組む絶好の機会ですが、しかし、私の著書の中でマイケル・フィンクが述べているように、リラックスすることも必要です。何かに取り組んで成し遂げた後で、その分一層リラックスして楽しむような、バランスの取れた日々こそが最高なのです。
ジャイルズ:その言葉で締めくくるのはとても素敵ですね。クリスティン、今日は来てくれてありがとうございました。
ベンツ:こちらこそ、ありがとう、マーガレット。
ジャイルズ:モーニングスターのマーガレット・ジャイルズでした。ご視聴ありがとうございました。◇
※ クリスティン・ベンツとマーガレット・ジャイルズによるその他の記事については、「ポートフォリオでリスクを取りすぎていませんか?」をご覧ください。
※ 本稿はモーニングスターの「What You Need to Consider Before Retiring Early」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

