今回の『The Long View』では、退職後の資産設計の研究で知られるビル・ベンゲン氏に、インフレが退職後の資産に与える影響や、資産の引き出し率の考え方、プライベート資産投資が必要か否か、そして長寿に備えたライフプランを立てないことのリスクについてうかがいます。
ベンゲン氏は2025年に『A Richer Retirement: Supercharging the 4% Rule to Spend More and Enjoy More』を上梓されました。独立系の投資顧問会社「ベンゲン・フィナンシャル・サービス」を1989年に立ち上げた前オーナーであり、MITで航空宇宙科学の学士号を取得されています。2013年にアドバイス業務からはリタイアしましたが、その後も退職プランや資産の取り崩しについての研究の陣頭指揮をとり続けておられます。
<今回の対談のポイント>
- 4%引き出しルールを見直すべき理由。
- インフレは退職後の最大のリスク。
- 自分に最適な引き出し率を決めるアプローチ。
- 長寿、税金、相続を考慮に入れる。
- 資産配分の管理と、リバランスの外部委託。
- 4%ルールは万人向けの真理ではない。
本稿では、1994年の研究で「4%ルール」と呼ばれる概念を生み出し、安全な資産取崩し率探求の先駆者となったビル・ベンゲン氏との対談から、いくつかの抜粋をご紹介します。
※ フルバージョンの対談は以下からお聞きいただけます。
インフレの悪影響を考慮してポートフォリオを守る
クリスティン・ベンツ: あなたはインフレが安全な取崩し率に与える影響について分析されてきました。実際、ジェフ・プタックと私が前回あなたとお話しした時は、インフレが急上昇していた時期でした。その際、高水準のインフレが長期間続いた場合、特に退職者への負の影響について、あなたがかなり悲観的だったことを覚えています。 退職者がインフレにどう対処すべきか、また、現在のインフレ率2.4%、2.5%前後の水準が続く場合退職者は心配すべきでしょうか。それとも、もっと大幅に上昇し始めた場合にのみ、本当に懸念すべきでしょうか。
ビル・ベンゲン:現在の水準で悩む必要はありません。懸念されるのはその傾向です。マクロ経済データには、インフレ率が少しずつ上昇し始めているという兆候が表れています。そして、私が過去30年間続けてきた研究では、インフレこそが退職者にとって最大の敵であると明確に示されています。
インフレになると退職者は引き出し額を増やさざるを得ないため、結果として積み上げてきた資産が損なわれるからです。ですから、人々はインフレ率上昇の傾向に対して注意を払う必要があります。もしインフレが1960年代、70年代のように、10年以上も平均して二桁台が続く状況になれば、おそらく私たちは皆、資産を守るために引き出し額を大幅に減らさなければなりません。さもなければ、資金が底をついてしまうでしょう。
プライベート資産への投資?「あわてず、しばらく様子をみましょう」
エイミー・アーノット: プライベート投資について、ご意見を伺います。多くの資産運用会社が、ポートフォリオの一部をプライベート・エクイティやプライベート・クレジットに充てるべきだと提言しています。あなたは、人々が実際に資産配分すべき分野だとお考えですか?
ベンゲン:オルタナティブ投資商品は、単なるプライベート・クレジットやプライベート・エクイティにとどまるものではありません。自分が理解でき、不安を抱かない資産に投資すべきだと思います。私自身、プライベート・クレジットやプライベート・エクイティについて十分に理解しているとは言えず、投資を試みるのは時期尚早だと感じています。また、プライベート・クレジット分野には現在、多くのリスクが潜んでいると思われます。この分野については、あわてずに少し待つ方がよい時期かもしれません。
肝に銘じておくべき本当に大切なことは、取崩しについて計画を立て、例えば5.5%と引出率を決定したとしても、それで終わりではないということです。基本的に、その計画は30年、35年、40年、あるいはそれ以上続くことを想定したものです。その期間中には様々なことが起こり得るので、計画の見直しが必要になることもあります。
ですから、まず計画通りに進んでいるかを確認するために、運用実績を年ごとに評価する基準となるベンチマークが必要です。また、株式市場が下落して、一時的に取崩し率が恐くなるほど高くなる可能性があることを理解しておく必要があります。たとえば、 引き出し率は5%から10%、あるいは11%に跳ね上がるかもしれません。しかし、単純な弱気相場に対する最善の戦略は、おそらく何もせずに成り行きを見守ることです。そうすれば、その後の市場回復によって、引き出し計画は当初の意図通りに戻る可能性が高いからです。
一方、1970年代のような長く続く高インフレの場合は、まったく逆の論理が当てはまります。1960年代初頭に退職した人々は、退職から10年後にその種のインフレに直撃され、大きな打撃を受けました。ここから、私が得た教訓は、高水準のインフレが数年間続く可能性が高い時期に入ったと思ったら、たとえ生活が圧迫されても、資産を守るために直ちに引き出し率を減らす必要があるということです。そうすれば、少なくともいくらかの資金は残せます。
資産ポートフォリオに対するインフレの潜在的な破壊力を想像すると、本当にぞっとします。
退職者はインカムを補うことができるでしょうか?
アーノット:私たちは市場のリターンや今後の行方を心配して時間を無駄遣いしがちですが、ある意味では、インフレの方がさらに危険だということですね。
ベンゲン:その通りです。これは私たちが十分に留意し、注意深く見守る必要のある課題です。また、議会の議員たちと話し合うべき問題でもあります。なぜなら、インフレは退職者にとって非常に深刻な打撃となるからです。退職者は、インフレによる資産の目減りを収入で補うことができないからです。◇
※ この記事の執筆には、ヴァレンティーナ・ジェリョシェヴィッチが協力しました。
※ 本稿はモーニングスターの「The Biggest Threat to Your Retirement Isn’t a Bear Market」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
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