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今回の「The Long View」インタビューのゲストは、アンディ・クラーク氏とネルソン・ウィカス氏です。両氏は、ガネーシュ・スンタラム氏とともに、先日『The Architecture of Wealth: The Art and Science of Portfolio Construction (富の設計図―ポートフォリオ構築の技術と科学)』を上梓されました。
クラーク氏は、30年以上にわたり投資調査と執筆に携わってきました。モーニングスターやバンガードで勤務した経験を持ち、バンガード創業者でありインデックス運用の先駆者であるジョン・C・ボーグル氏の補佐も務めました。『Journal of Index Investing』などの専門誌に論文を発表し、『Wealth of Experience』の著者でもあります。CFA資格保有者です。
ウィカス氏は、30年以上にわたり、クオンツ株式戦略の開発・運用に従事してきました。直近では、レッドポイント・インベストメント・マネジメントの共同創設者兼リサーチアナリストを務めていました。ペンシルベニア大学で経済学博士号を取得後バンガードに入社し、同社のクオンツ株式運用部門の立ち上げに携わりました。その後、バンガードの投資コンサルティング・リサーチチームの設立にも携わり、顧客や社内チーム向けにポートフォリオ構築に関する知見を提供しました。ネルソン氏は、ハバフォード・カレッジで経済学の客員教授を務めていました。
<今回の概要>
- 新著について
- ポートフォリオ構築がなぜ「技術」であり「科学」でもあるのか
- アクティブ運用に対するボーグル氏のアプローチ
- インデックス投資が「パッシブ」ではない理由
- 現代ポートフォリオ理論の誕生
- 行動ファイナンス、投資家のバイアス、そして教育の影響
- なぜインデックス・ファンドが普及したのか
- アクティブ運用マネジャーの評価
- 小型株効果について
エイミー・アーノット:こんにちは。『The Long View』へようこそ。モーニングスターのポートフォリオ・ストラテジスト、エイミー・アーノットです。
クリスティン・ベンツ:モーニングスターのパーソナル・ファイナンス・退職計画担当ディレクター、クリスティン・ベンツです。
アーノット:今回のポッドキャストのゲストは、アンディ・クラーク氏とネルソン・ウィカス氏です。アンディさん、ネルソンさん、よろしくお願いします。
アンディ・クラーク:ありがとうございます。お招きいただき嬉しく思います。
『The Architecture of Wealth』の執筆背景と狙い
アーノット:ご紹介したように、お二人はガネーシュ・スンタラム氏と共著で『The Architecture of Wealth』を執筆されました。この本のアイデアはどのように生まれたのでしょうか。また、どのような読者を想定していますか。
ネルソン・ウィカス:この本を書くきっかけになったのは、私がハバフォード・カレッジで教えていた講義です。また、その内容はこれまでの仕事の経験にも根ざしています。1992年にバンガードへ入社した際、私は経営陣向けの投資教育コースを作るよう依頼されました。その講義を数年間担当し、その後は世界各地でバンガードのポートフォリオ構築や投資戦略について講演して回りました。そうした知見を基に、大学で講義を行いました。講義で使ったケーススタディは、ガネーシュ・スンタラムと一緒に取り組んだ仕事がベースになっています。彼とは12年以上一緒に働きました。本に登場するケーススタディは、実際に私たちが構築した戦略や運用したポートフォリオ、あるいは顧客向けに手掛けたプロジェクトに基づいています。
アンディとのつながりは、2002年から2007年にかけてバンガードで一緒に仕事をしたことです。当時、私たちはバンガード初の機関投資家向けソート・リーダーシップ・プログラムの構築に携わっていました。アンディは当時、ホワイトペーパー・シリーズの執筆に携わっていて、文章の書き方や執筆プロセスについて多くを学ばせてもらいました。私は以前から、アンディには複雑な投資概念を驚くほど分かりやすく伝える能力があると感じていました。そのため、本を書く際には、学術的な厳密さを持ちながらも、なるべく読みやすいものにしたいと考え、アンディに声をかけました。
当初、彼は他のプロジェクトで忙しかったのですが、「1年後にまた声をかけてほしい」と言われました。そこで、講義をもう1年担当した後に改めて連絡したところ、彼はおそらくうっかりガードが緩んだのでしょう、「ああ、時間が取れるよ」と言ってくれました。私たちはそれぞれ予定を調整しながら執筆に取り組みましたが、特筆すべきはアンディが素晴らしいペースメーカーになってくれたことです。この話をすると誰もが「6か月で書き上げたの?」「ものすごく速いね」と驚きますが、私はいつも、「アンディが先頭で引っ張ってくれたおかげだよ」と答えています。とても楽しい経験でしたし、アンディと仕事をしたことで、私の執筆スキルも飛躍的に向上しました。
ウィカス:対象読者としては、大学生、MBAの学生、ファイナンシャルプランナー、そして真剣に投資を学びたい個人投資家を想定しています。投資に関する優れた本は数多くあります。ボーグル氏、マルキール氏、スウェンセン氏などの著作があり、学術分野ではマッキノン氏、タトル氏、ボディー氏、ケイン氏、マーカス氏、そしてキャンベル氏、ロー氏、マッキンレイ氏など研究者による優れた学術書も数多くあります。
そこで私たちが目指したのは、そうした学術書が持つ知的厳密さを取り入れつつも、できるだけ読みやすく、より親しみやすい形で提供することでした。同時に、ボーグル氏らの一般書よりも、幅広い内容を扱いたいとも考えていました。それが本書の目標であり、想定する読者です。
ベンツ:アンディ、ここであなたにもお聞きしたいと思います。投資に詳しくない大学生でも理解できるような本にするため、どのような工夫をされたのでしょうか。
クラーク:一部は、読みやすさを高めるためによく知られた手法です。例えば全体的に段落を短くすること。それから、概念を説明する際にはアナロジーや比喩を多用しました。また、可能な限り学術文献から印象的な引用を使うよう心掛けました。興味深いことに、1950年代や60年代の研究論文を読むと、実は非常に読みやすいものが少なくありません。中にはユーモアさえ感じられるものもあります。そうした材料も参考にしました。
より大きな意味で私が魅力を感じたのは、この本がポートフォリオ構築の理論的・実証的な厳密さと、投資の思想史とを融合できるのではないかと考えたことです。高校や中学校で天文学を学ぶとき、最初から三角法の教科書を広げたりはしませんよね。まずは、「宇宙の中心は地球なのか、それとも太陽なのか」という歴史的な論争を学びます。それが興味を引き出し、もっと専門的な学習への入り口になります。ポートフォリオ構築の歴史も同じです。現代のポートフォリオ構築理論がどのように発展してきたかを知ることで、よりテクニカルな議論への理解も深まると思います。
ポートフォリオ構築はなぜ「技術」であり「科学」なのか
アーノット:本の副題は『The Art and Science of Portfolio Construction』です。なぜポートフォリオ構築は技術でもあり科学でもあるのでしょうか。
ウィカス:ポートフォリオ構築の『科学(Science)』の側面が、現代ポートフォリオ理論の数学的枠組みに基づいていることは明らかです。しかし、本書でも述べている通り、現代ポートフォリオ理論の実用化は当初、大失敗に終わりました。なぜなら、期待リターン、分散、共分散の予測には、精度の高いデータが必要だからです。ご存知の通り、現代ポートフォリオ理論はベータの推定に基づいており、すべてがその推定値と密接に結びついています。
しかし、当時使われていた初期の一般的なモデルでは、基本的に予測可能性に欠けるベータ値しか得られませんでした。そのため、それらを平均分散オプティマイザー(最適化ツール)にかけても、制約条件なしであれば、結果的にごく少数の銘柄に資産が集中するポートフォリオが出来上がってしまいました。これでは、本来の分散投資の考え方とは正反対です。
そこで、「技術(Art)」と呼べる手法が発展し始めたのです。その最も単純な形は「制約を設けること」です。たとえば、業界のウェイトがベンチマークと、「プラス/マイナス〇%の許容誤差」の範囲内に収まるようにするための線形制約条件を設ける、といった工夫です。
ポートフォリオにおける各銘柄のウェイトを、あらゆる種類のリスク要因についてベンチマークのウェイトと一致させ、個々の株式がベンチマークにおける時価総額ウェイトに比べて過度にオーバーまたはアンダーウェイトにならないようにする。そこが、いわば職人芸とも言える「技術(Art)」の始まりと言えます。しかし、リスクモデルを本来の意図通りに機能させるための取り組みは、何十年にもわたって続いてきました。そこには、多種多様な科学的なアプローチと技術的な要素が注ぎ込まれており、それは本書の範疇を超えるものです。それ自体が、一つの独立した講座となるテーマです。
ただし、ごく単純な例を挙げると、クオンツ・ポートフォリオを構築する際には、さまざまなデータを用います。保有するすべての株式には、複数の情報源に基づくいくつもの指標があり、それらは通常平均値やひとつの数値にまとめられ、最適化モデル(オプティマイザー)に投入されます。こうして最終的にポートフォリオが構築されます。しかし、単にその手順を踏むだけでは、時間の経過とともにポートフォリオが特定の入力情報に偏ってしまうことがよくあります。その理由は、特定のシグナルや情報源によって、基礎となるデータの入れ替わり(ターンオーバー)の速さが異なるためです。入れ替わりの遅いシグナルは、ポートフォリオ内に残り続ける傾向があります。すると、多様なクオンツ指標を組み合わせているつもりでも、実際にはごく一部の指標に依存した偏ったポートフォリオになってしまうのです。
一般に、最適化ツールを使ってポートフォリオを構築すると、買い銘柄のリストを確認した上で、「あらゆる業界にわたる全株式が、幅広く分散されたシグナル・インプット(判断材料となる情報)を反映しているか」という観点でチェックがなされます。時には、手動でサンプルを更新することもあります。これは、ポートフォリオに組み入れられる銘柄や、ポートフォリオが継続して保有している銘柄が、自身の運用プロセス全体を適切に反映していることを確認するための、いわば「職人の技」とも言える領域の作業です。
ボーグル氏が考えていたアクティブ運用について
ベンツ:ネルソンさん、ご著書ではボーグル氏がアクティブなクオンツ運用戦略開発のためにあなたを採用したと書かれています。ボーグル氏はパッシブ運用戦略だけを支持していたというイメージがありますが、それは誤解でしょうか。
ウィカス:誤解と言えるか定かではありませんが、少なくとも引退後の彼はインデックス運用の強力な支持者でした。一方で、本書で触れているように、バンガードはアクティブ運用においても非常に素晴らしい実績を残してきたことを示す学術研究もあります。その実績は、数十年前までさかのぼることができます。私たちが在籍していた1990年代から2000年代にも、その実績は存在していました。
私がバンガードに入社した当初、ボーグル氏は市場の非効率性や、インデックス運用を支持するコスト面の論拠については十分承知している一方で、「成功する運用会社になるためには、顧客が求めるアクティブ運用商品も提供する必要がある」、と考えてました。私自身、彼との面接でそう説明を受けましたし、彼や他の経営陣との数々の会議でも同様のことが語られていました。
彼らは、最悪のシナリオでもインデックス並みのリターンを確保でき、しかもわずかなトラッキングエラーでそれを実現できるアクティブ運用戦略を構築したいと考えていました。言い換えれば、インデックス運用を「受け入れ可能な最低ライン」と考えていたのです。その上で、リスクを適切に管理したポートフォリオを構築し、低コストを維持しつつわずかなアウトパフォーム(市場平均を上回る成績)を狙えば、上位4分の1に入るようなアクティブファンドを実現できると確信していました。1980年代に彼らがアクティブ運用戦略を構築し始めた際、こうした考え方がその指針となっていたのです。
あまり知られていないことですが、ボーグル率いるバンガードは、初期のクオンツ運用会社のほぼすべてに資金を委託していました。ボーグル氏は息子にも、アクティブなクオンツ運用の世界に進むよう勧めていたほどです。私が採用された際にも、面接で彼らの戦略について説明がありました。具体的には、マルチマネジャー方式のアクティブ・ファンドにおける「コア(中核)」部分を運用するアクティブ・クオンツ・チームを社内に立ち上げ、それらの戦略をベンチマークとの乖離を抑えながら、わずかな超過収益を目指すという構想でした。その上で、コアの周辺に従来型のアクティブ運用戦略を配置する、いわば「コア・サテライト」構造を考えていたのです。
1980年代から1990年代にかけてバンガードでマルチマネジャー戦略を担当した運用者らは、運用過程にリスク管理を組み込んで、これらの戦略を構築しました。リスク管理のためのシンプルな原則は、十分な数の銘柄を保有する、複数の業種に分散する、ブレることなくモーニングスターのスタイルボックスの中で投資スタイルを一貫して保つことなどです。バンガードが複数の運用会社を採用する時にも、各社がこうした基本方針を遵守し、業種の分散や、投資スタイル、投資先企業の規模などにおいて一貫した運用を行うことを重視しました。その上で、独自の運用プロセスを持つマネジャーを採用し、多数の小さな「賭け(投資判断)」を積み重ねる構造を構築しました。
たとえば業種が30あったとすると、運用会社3、4社を採用すれば保有銘柄数は90~120に達することになります。それらは互いに異なり、それぞれが異なる投資判断を反映したものです。本書で取り上げたこうした考え方は、当時コンサルティング業界で提唱され始めており、必ずしもバンガードが最初ではありませんが、極めて早い時期に実践した運用会社だったと言えます。
クラーク:私にとって非常に印象深かったことを付け加えさせてください。私はキャリアの初期にボーグル氏のもとで働いていましたが、彼は常にアクティブ運用マネジャーに対して敬意を払い、支援する姿勢を示していました。時折彼のもとに、小規模な運用会社のあまり名の知られていないマネジャーからの手紙が届くことがありました。その手紙にはこう書かれています。「あなたの著作をすべて読んでいますが、あなたは『市場に勝つことはできない』とおっしゃっていますね。しかし、私はそれを成し遂げました」とか、「あなたは低コスト投資を提唱されていますが、私のファンドはバンガードの競合ファンドよりもコストが高いにもかかわらず、運用成績は上回っています」といった内容でした。すると彼は私にモーニングスターのデータを集めるよう指示し、手紙の主に対して非常に思慮深い返信を書くのです。「確かにあなたがバンガードのファンドよりも優れた成績をおさめていることは分かりました。ただ、あなたのポートフォリオの売買回転率は当社よりもずっと高いようです。あなたは、私たちほど(自分の)投資アイデアに対して確信を持っていないのかもしれません」、といったコメントを添えるのです。
しかし、彼は手紙の最後に、「あなたのご成功をお祈りしています。心からそう思っています」といった言葉をいつも添えていました。その姿勢が私には印象的でした。ボーグル氏からそのような返事を受け取るポートフォリオ・マネジャーの気持ちを想像したからです。おそらく手紙を送った本人は、読まれもしないだろうと思っていたはずです。ところが、実際には非常に思慮深い返事が届くわけですから。彼は運用成績に目を通した上で、成功を祈ってくれるのです。彼は、ポートフォリオを運用し、顧客に最良の結果をもたらすために全力を尽くしている人々に対して、深い敬意と支援の念を抱いていたのだと思います。
ベンツ:アンディ、それに関連してですが、ボーグル氏が、何らかの仕事のためにデータを必要として、何度か私に電話をかけてきたことがあったのを思い出しました。電話に出て彼の声を聞くのは、いつもとてもワクワクする瞬間でした。彼は常にデータとリサーチを重視する人でした。
インデックス運用の実態は「パッシブ」ではない
ベンツ:パッシブ投資の話に戻りますが、著書の中で「パッシブ投資」という言葉は「無気力な無知(listless ignorance)」という印象を与えてしまうので、残念な言葉だとおっしゃっています。この投資手法について、より適切な捉え方や表現は あるのでしょうか?
クラーク:個人的には「インデックス投資」という呼び方の方が好ましいと思います。ただ、意図的に株式の売買判断を行うアクティブ運用との対照として、人々が「パッシブ」という用語を使う理由も理解できます。ただ、「パッシブ」という言葉は、「何もしない」という響きがあり、ポートフォリオを構築するために必要な理論的・技術的な革新の価値を十分に伝えていないと思います。「インデックス投資」という言葉であれば、少なくともそうした革新について理解を深めるきっかけになるので、私はそちらの用語を好みます。
「パッシブ」という言葉から、パッシブ型ファンドの運用には何もすることがないと考えるかもしれません。実際、もしかすると何もする必要がないのかもしれませんが、インデックス・ファンドの運用となると話は別です。実は、そこには多くの仕事が関わっています。歴史的に築かれてきた技術的基盤があり、さらに日々の運用業務も複雑です。ですから、やはり「インデックス投資」という呼び方がいいですね。
ウィカス:アンディの話に関連しますが、インデックス・ファンド運用が始まったばかりの頃、ベンチマークに対するファンドのパフォーマンスの乖離はかなり大きくなることがあり、運用者によってもその差は大きく異なっていました。1980年代から90年代にかけて、少なくともバンガードではトラッキングエラーを縮小しようという大きな動きがありました。ここで言いたいのは、それを実現する過程は決して「パッシブ」ではなかったということです。それは極めて「アクティブ」な取り組みで、あらゆる細部にまで細心の注意を払う必要がありました。
私が誰かの代理で運用を務めることになった時に、ガス・ソーター氏からインデックス・ファンドの運用方法を教わったのですが、最初に教えてくれたことの一つが、資金フロー予測モデルでした。それは、運用会社に資金が流入しても、特定のファンドにたとえば「500万ドル(または、いくらであれ)入金される」という情報が、必ずしもその日のうちに知らされるとは限らなかった時代です。顧客には当日の終値が適用されるため、ソーター氏は自力で状況を把握しなければなりませんでした。彼は、ベンチマークとの乖離が生じないよう、流入が見込まれる500万ドルがすでに投資されている状態を作らなければなりませんでした。
そこで彼は実際に、過去の資金フローに基づいた回帰分析予測モデルを構築しました。また、当時はリターンが上昇しているときに資金流入が増える傾向があることを知っていたため、彼はファンドのリターンも予測に組み込んでいました。彼にはこの非常に複雑な予測モデルがありましたが、それは仕事の一部に過ぎなかったのです。ソーター氏は取引(トランザクション)コストモデルをいち早く導入しました。バンガードは、おそらくコンサルティング会社「プレクサス」の最初期の顧客だったと思います。
私はチームの一員として、毎月彼のチームの会議に出席していました。そこでは前月のすべてのトランザクションについて非常に詳細な検討が行われ、執行目標に対してどこが良くなかったのかを分析しました。「あの時何がどう動いたか?」「どんなシグナルがあったか?」「どんな情報がブローカーから来ていたか?」「なぜそう判断したのか?」といった細かい議論をしたのです。彼らは絶えず改善に努めました。私がソーター氏の下で働いていた期間には、彼はトランザクションを成立させ、彼は経費率を目標範囲内に収め、インデックス・ファンドが実際にベンチマークを上回るパフォーマンスを記録したこともありました。これらはすべて、細部への徹底したこだわりがあったからこそ実現できたことなのです。
ウィカス:また、皆さんもご承知かと思いますが指数の構成銘柄が入れ替えられる際には、入れ替えに伴う市場への影響(マーケット・インパクト)を最小限に抑えるために、さまざまな活発な取引が行われます。チームにはマイク・ビュークという人物がいました。私はどちらかというと学術畑の人間としてチームの数々の会議に参加し、その年の戦略についてのマイクの話を聴いていました。しかし、一体彼がどうやってベンチマークの銘柄入れ替えへの対応について判断していたのか、本当に不思議でした。
マイクは市場関係者全員の声を聴き、膨大な情報を携えて登場し、それを基に我々の行動を方向づけていくのです。実際にそのプロセスを目の当たりにするのは、非常に興味深く、活気あふれる体験でした。私は次第に、彼は指数の銘柄入れ替えにおける「レーダー・オライリー(※)」だと考えるようになりました(※編集注:1970年代のドラマ/映画「M*A*S*H」に登場するキャラクター。ヘリコプターの音を誰よりも早く聞きつけて負傷者の到着を予測したり、上官が命令を下す前に先回りして要求を察知したりする能力から、「レーダー」というあだ名を持つ)。
そしてこの20年で、こうした考え方が広く理解されるようになりました。その結果、インデックス・ファンド間のパフォーマンスのばらつきは縮小しました。私にとって印象的なのは、その20年間にわたってバンガードのインデックス・ファンドが業界で最高水準の実績を記録し続けたことです。これは、ガス・ソーター氏とそのチームによる「細部にわたる徹底したこだわりと、積極的な売買の職人芸」を抜きにしては成し得なかったことです。
アーノット:なるほど。そして、指数を構築するプロセス自体も決して単純ではありません。本書では、ソーター氏が指数設計の改善に貢献されたことも書かれていますね。
クラーク:ええ。彼はまず、現実のポートフォリオ・マネジャーのアクティブな投資行動をより適切に測定できる指数に関するアイデアを導入しました。具体的には、特定の株式の浮動株数に応じて指数を調整する手法です。ある企業が市場で一定のウェイトを占めていても、実際に取引される株式数が少なければ、マネジャーがその株式を指数のウェイト通りに保有することは非常に困難だからです。 また彼は、例えばグロース指数からバリュー指数へ、あるいは小型株指数から大型株指数へと移行する際の考え方なども示しました。2000年代の初頭だったと思いますが、彼はシカゴ大学の「Center for Research and Security Prices(CRSP)」と協力して――モーニングスターが最近CRSPを買収しましたね――現実のポートフォリオ運用をより正確に反映する新しい指数を提唱しました。
インデックス運用を支える見えない工夫
アーノット:そうですね、投資理論という観点から言えば、この本は過去75年ほどの投資に関する学術研究に焦点を当てています。ハリー・マーコウィッツ氏について、彼がなぜ現代ポートフォリオ理論の誕生にあたってこれほど重要な人物であったのか、お話しいただけますか。
クラーク:彼が「すべての卵を一つのかごに盛るな」といった昔ながらの常識を、より実用的な統計的枠組みに置き換えたからだと思います。彼は、異なる資産の組み合わせがポートフォリオのボラティリティやリターンに与える影響を検証できる枠組みを構築しました。
つまり、単なる経験則を精密に活用できるツールへと発展させました。もうひとつ重要な点は、彼が「リスク=不確実性」という考え方を導入したことです。リスクとは、単に悪い結果のことではなく、起こりうる結果の「幅(範囲)」そのものだという考え方です。これは、従来の考え方からの大きな転換でした。本書では、ジョン・バー・ウィリアムズ氏についても触れています。彼は『The Theory of Investment Value(投資価値理論)』という著書の中で、ゼネラル・モーターズが国債よりもリスクが高いということを認識した経緯について述べています。
従来リスクを考慮するためには、証券の本源的価値(理論価値)を推計する際、将来のキャッシュフローに対してより高い割引率を適用する必要がありました。しかし、その方法では、単一の推計値(ピンポイントでの予測値)しか導き出せません。これに対してマーコウィッツの理論は、リスクを単一の数値ではなく、「起こり得る様々な結果の発生確率」としてモデル化しています。
ベンツ:ポートフォリオ最適化の手法として平均分散法には、どのような限界がありますか?
ウィカス:そうですね、先ほど「技術と科学」の話題で少し触れましたが、基本的にはベータ値をどう推定するかという問題に尽きるでしょう。当初はベータの推定値は精度が低く、実際のベータ値との乖離が大きいものでした。当時直面していた難題について、一例を挙げましょう。
例えば、ガス・ソーター氏とジム・トロイヤー氏は、1980年代にバンガードに入社した際、ファンドのトラッキング・エラーの改善が彼らの任務でした。彼らは当時利用可能だったさまざまな分析ツールや、独自のリスクモデルを組み込んだ各種の最適化ツールを検証し、これらを用いた場合にトラッキングエラーがどの程度になるかを分析しました。
その後、結局彼らは実際に「ストラティファイド・サンプラー」と名付けた独自の仕組みを構築しました。この層化抽出法を実践するツールは、基本となる指数の構成銘柄を、サイズ(時価総額)、スタイル(グロース、バリューなど)、業種など、様々な特性やリスク要因ごとに細かくグループ分けします。そして、これらのグループから反復的に銘柄を選んで投資資金を配分し、全資金を振り分けます。そうして選んだ銘柄群を最終的にひとつのファンドとして、ベンチマークの動きを再現しようとする(トラッキングエラーを最小限に抑える)仕組みです。
平均分散最適化に基づくポートフォリオの構築法としては、決して洗練されたものではないものの、完全に現代ポートフォリオ理論に基づくものでした。彼らは、指数に追随するためにリスク要因を調整するという目的を明確に理解していましたが、その実現方法は全く異なるものでした。ソーター氏やトロイヤー氏は、テクノロジーがより洗練された数学的解決を提供できるようになるまでの長い間、この手法を活用し続けました。彼らがより標準的なリスクモデルベースのアプローチへと移行したのは、2000年代半ばになってからのことでした。
そうした変遷や、より「洗練された」数学的な解決策が、単純な実践手法と同等の性能に追い付くまでにどれほど長い時間がかかったのか、この話で感覚をつかんでいただけたでしょうか。
ベンツ:本書によると、1973年になってようやく最初のトータル・リターン・ボンド指数が登場しました。これによって、実務家はポートフォリオの一部としての債券の価値を定量化できるようになりましたか。
クラーク:ええ、ポートフォリオ構築やインデックスの歴史において、非常に重要な出来事でした。このトータル・リターン債券指数が登場するまでは、1926年頃まで遡る国債や社債の利回りのデータはあったものの、トータル・リターン指数は存在しませんでした。全体像の重要な部分を見られなかったのです。トータル・リターンのデータがなければ、債券と株式がポートフォリオ内でどのように相互作用をするか、正しく分析できません。特に金利の急上昇のような経済的・金融的なショックが起きた局面では、なおさらです。ですから、現代のポートフォリオ構築において画期的な進歩だったと思います。
行動ファイナンスが明かす投資家心理
アーノット:この本には、行動ファイナンスに関する章もあります。この分野の研究から得られる最も重要な知見についてお聞かせください。
クラーク:そうですね。私たちはこれを2つの側面から捉えていると思います。一つは個人の資産形成、もう一つはポートフォリオ運用です。個人の資産形成という観点では、慣性(惰性)と現状維持バイアスについて理解が深まったことは、企業の退職年金制度に大きな影響を与えたと思います。たとえば、自動加入、ターゲット・デート・ファンドのデフォルト化、そして拠出率の自動引き上げなどの革新的な仕組みです。これらは米国民が退職後の資金を準備する上で、かなり有利な状況をもたらしました。これらは、「人間には現状にとどまろうとする傾向がある」という行動ファイナンスの知見を、巧みに利用した仕組みです。
ウィカス:行動ファイナンスはアカデミックな金融研究において非常に興味深い分野です。投資の理論や戦略に対する人々の考え方を変革し、株式市場で起こるアノマリー(例外的な現象)についての研究の多くも、行動バイアスへの関心から発展しました。
行動ファイナンスは、人々の考え方や意思決定の仕組みを解き明かすもので、心理学の研究成果を取り入れています。人間の意思決定には、統計に基づく合理的な思考とは異なる、さまざまなバイアスが存在します。例えば、「確実視の法則(certainty principle)(※)」とでも呼べるバイアスは、人々が確率の高い事象をあたかも確実であるかのように扱い、確率の低い事象については起こりそうにないと見なしてしまうというものです(※ 編集注:一般にプロスペクト理論における「確実性効果(Certainty Effect)」は、人は確率が高くても不確実な選択肢より、100%確実な選択肢を過剰に好む傾向があるという特性を指す。ここでの説明は行動経済学の他の要素と合わせたものと言える)。
たとえば、ある事象が85%の確率で起こる場合、人はそれがほぼ100%起こると考え、一方で30%の確率で起こる場合でも、それが絶対に起こらないかのように考えて意思決定を行い、行動するといったバイアスが生じます。確率を見積もるとき、「新近性(Recency、最近起きたことを重視する)」「利用可能性(Availability、印象に残っている事象や身近な事例を重視する)」といった傾向によってもバイアスが生じます。もし、ある出来事があなたの心にすぐに浮かび、その経緯をよく知っている場合、あなたは「ああ、この未来の出来事は、過去に起きたあの出来事とまったく同じだ」と考えてしまうのです。
さて、こうした心理的傾向が大きな影響を及ぼした例として大恐慌があります。当時の人々はその出来事から強烈な影響を受け、その経験の記憶が何十年にもわたって投資家の意識に強く残り続けました。第二次世界大戦後、多くの機関投資家は株式への投資を避け、債券中心に運用することが賢明な選択と考えられていました。株式はとてつもなくリスクが高い資産だと見なされていたからです。実際、1929年時点で株式に投資していた場合、1929年当時の価値を回復できたのは1945年になってからだったからです(※編集注:S&P500種指数のデータ。1929年大恐慌前のピークに投資し、配当金再投資、インフレ調整なしとし、1936年に一度元の水準にタッチしたがすぐにまた暴落したためこれを回復とみなさず、完全に大恐慌の悪夢から抜けた状態を指していると考えられる)。
このような思考における「利用可能性バイアス」のせいで、多くの機関投資家や大学その他の基金(エンダウメントのポートフォリオは債券偏重となってしまいました。その結果、彼らは戦後株式市場で起こった空前の好況の波に乗り遅れてしまいました。こうしたバイアスが人々の行動に大きな影響を与えたからです。銘柄選定モデルに関しては、行動ファイナンスを教えているのですが、それは、歴史上の株式市場の異常な歪み(アノマリー)に関する研究の動機付けとなっているからです。 実際にデータを深く分析してみると、そうした現象について合理的な説明がつくことも少なくありません。
たとえば過去に好調だった株式に投資する「モメンタム戦略」については、「これは非合理的だ。単なるトレンドの追従に過ぎない」とよく言われます。誰もが持っている情報に基づいて行動しているにもかかわらず、利益が得られるからです。しかし、データをよく見てみると――具体的には、もう一つのアノマリーとも言える「アナリストによる業績予想の修正」に注目すると――「アナリストの業績予想修正に基づくランキング」と「モメンタムに基づくランキング」には、高い相関関係があることが分かります。モメンタムの動きの多くは、アナリストによる利益予想の修正に対する反応なのです。これら2つを組み合わせると、モメンタムが上位の銘柄がそのまま利益を上げ続けられるかどうかは、その後にアナリストの業績予想修正(上方修正)が続くかどうかにかかっていることがわかります。
その一方で、「スローンの発生主義(アクルーアルズ)効果」と呼ばれる別のアノマリーも存在します。これは会計原則に基づくもので、売上が発生した時点で(実際に代金を受け取っていなくても)帳簿上の利益を計上できるという仕組みに関連しています。発生主義(アクルーアル)による会計処理は短期的には利益を押し上げますが、その効果はしばしば反転します。実際、発生主義的な要素を調整すると、株価に反転効果(リバーサル)が生じることが多く、しかもその傾向は持続的なものなのです。
スローンの論文は、93年にワーキングペーパーとして初めて発表され、96年には『The Accounting Review』誌に掲載されました。その影響力は時期によって強弱はあるものの、現在も広く見られる現象であり、他の市場でも見ることができます。ここから言えることは、行動ファイナンスや心理的バイアスは確かに一役買っているとはいえ、金融市場は、理論が示唆するよりもおそらく速いペースでそれらを是正する傾向があるということです。
投資家のバイアスはどう変化し、インデックス投資はなぜ普及したのか。
ベンツ:ウィカスさん、先ほど歴史的な出来事が、人々の投資行動にバイアスを生むことがよくあると話されました。今日の投資家全般と、彼らが過去15年、20年間に経験してきたことを踏まえると、投資家として私たちがどのようなバイアスを抱えている可能性があるとお考えですか?
ウィカス:面白いですね。今日のこのインタビューに向けて、私はこれまで様々な人々と接してきた経験や、世界中で機関投資家や富裕層の投資家に対して「合理的な思考」が説かれてきたかについて思いを巡らせていました。
これは「過去の経験が現在に影響を与える」という例とは少し違うかも知れませんが、世界金融危機の最中に義母の家を訪れた時のことを思い出します。当時、義母は90歳くらいで、同じく90歳前後の友人たちとのカクテルパーティーが開かれていました。金融危機が起きた直後でしたが、彼女たちのような年配の裕福な人々は、「今はじっと耐えるべきよ、コストは本当に重要だから。落ち着いてじっと持ち続けていれば、相場はそのうち戻ってくるもの」「本当にその通り。まさにそうすべきよ」といったことを口々に言っていました。教育を通じて投資行動がこれほどまでに変化したことは、実に驚くべきことです。
私たちが講義で重点を置いているもう一つの点は、インデックス投資のコストに関する議論で、学生にこう伝えます。「単に『興味深いから』とか、『シャープが論文を書いたから』教えているわけではありません。また、これはバンガードやブラックロック、ステート・ストリートといった大手運用会社が唱えているだけの考え方でもありません。彼らは文字通り世界中を回り、大小あらゆる機関投資家と対話を重ねて、この考え方を地道に伝えてきたのです」。 当初は販売が非常に困難だったインデックス投資が、なぜこれほど主流になったのかという点について先ほど話題に上がりましたが、私は、教育がいかに人々のバイアスを変え得るかを示していると考えています。
クラーク:そうですね、最初の質問について考えてみると、私もネルソンの意見に同感です。最近の経験から言えるバイアスの例として、「株価は常にすぐに回復する」という思い込みが生まれているかもしれません。しかし歴史を振り返れば、株式市場が10年以上も低迷し続けた時代もありました。こうした思い込みが、私たちの行動に影響を与える可能性があります。
ウィカス:アンディ、それは実に良い例です。私の年齢もあって、人々から投資やファイナンシャル・プランニングの相談をよく受けます。つい先日も77歳の女性と話す機会がありました。十分な知識をお持ちの方でしたが、「もし高インフレ期が来たらどうなるか。そしてそれが自分のポートフォリオからの支出能力にどのような打撃を与えるか」について話し合いました。一般には、そのような事態は起こらないだろうという感覚があるようです。
その一方で、私たちは「では、どう対処すべきか?」という話にもなりました。「不動産を売るのも一つの手ですね。ただ、不動産価値も大きく値下がりする可能性があるので、そういう場合は売らずにじっと耐え忍ぶ必要があります」といった具合です。このように、人々のバイアスを是正する教育も同時に行われてきており、進んだり退いたりと議論ができるわけです。それでも、「インフレショックは起きないだろう」というバイアスが人々の頭のどこかにあるのも事実でしょう。
アーノット:クラークさん、インデックス運用戦略の採用を促す上で教育が果たした役割について触れられました。なぜそれほど時間がかかったのか、気になります。著書によると、1995年当時は株式ファンドの総資産に占めるインデックス・ファンドの割合は、わずか5%程度に過ぎませんでした。私も当時ファンドの取材を担当していましたが、インデックス運用に対する一般的な認識は、ファンド業界の「風変わりな一角」といったもので、多くの人が「非アメリカ的」なものとさえ考えていたようです。当初、なぜこれほど反発が強かったのでしょうか。また、現在のような普及に至るまで、なぜこれほど長い時間を要したのでしょうか。
クラーク:そうですね、いくつか要因があると思います。まず、一般的な話として、素晴らしいイノベーションであっても、私たちが予想するよりも普及に時間がかかることがあります。例えば電話を例に挙げると、アレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明したのは1876年ですが、米国の世帯の半数に電話が普及したのは、1950年代になってからでした。革新的な技術の普及には、こうした時間が必要なのです。
特にインデックス・ファンドの場合は学術界から始まり、当初インデックス投資を正当化する理論的根拠は「効率的市場仮説」でした。おそらく多くの実務家にとっては、にわかには信じがたいものだったのでしょう。それが普及を遅らせた一因かもしれません。その後、インデックス投資の根拠はコストの議論へと移行し、チャルズ・エリスによる初期の論文や、ボーグルの主張が展開されました。そして、ウィリアム・シャープによる代表的な論文『The Arithmetic of Active Management(アクティブ運用の算術)』が発表され、投資家全体で見れば、市場平均のリターンを得ることになるという事実が示されました。
アクティブ運用ファンドに投じられた資金の平均リターンは、コスト控除前では、インデックス運用(市場平均)のリターンと同じになります。しかし、コスト控除後では、アクティブ運用の方がコストが高いため、平均リターンはインデックス運用の平均リターンを下回ることになります。こうした点がインデックス運用の普及を後押ししたのだと思います。
最後に挙げたいのは、パフォーマンスデータの蓄積です。1990年代半ばに初めてインデックス・ファンドを購入したとき、私はそれほど期待していませんでした。「まあ、市場平均並みのリターンが得られるなら、それで十分かもしれない。少なくとも大した損失は出ないだろう。せいぜい他の選択肢の51%か52%くらいには勝てるだろう」といった認識でした。ところが、それから10年、20年と時が経ち、モーニングスターやスタンダード&プアーズのレポートを見てみると、こうしたファンドが同分類のファンドの80%、90%を上回る成績を収めていたのです。長年にわたってこうした運用実績データが蓄積されたことが、投資家の間でインデックス投資の有用性を確固たるものにしたのだと考えています。
優れたアクティブ運用をどう見極めるか
ベンツ:では、今後も市場平均を上回るパフォーマンスを期待できるアクティブ運用マネジャーを探し続けたいと考える投資家にとって、運用実績をどのように評価すれば、アウトパフォーマンスが単なる偶然ではなく、将来にわたって持続する可能性があるという確信を得られるとお考えですか?
ウィカス:繰り返しになりますが、本書で私たちが本当に論じているのは、インデックス戦略であれアクティブ戦略であれ、「いかにしてリスク管理されたポートフォリオを構築するか」です。成功を収めるためには、リスク管理されたポートフォリオが不可欠です。アクティブ運用ファンドに関しては、リチャード・グリノルドとロナルド・カーンが提唱した「アクティブ運用の法則」がありますが、その要点は、基本的に「数多くの小さな投資判断(賭け)を行う必要がある」という考え方にあります。
アクティブ運用マネジャーを評価する際、機関投資家の世界では基本的に「アトリビューション分析(要因分析)」が行われます。彼らは過去の運用実績を調べ、保有銘柄や、何が収益に寄与したのか、その収益はどのリスク要因へのエクスポージャーから生じたのか、そして、(リスク要因ではなく)純粋な銘柄選択による収益はどの程度だったのか、を分析します。もし、ある期間のパフォーマンスが主にリスク要因へのエクスポージャーによるものである場合、それは単に運が良かっただけという可能性があります。リスク要因が好結果をもたらしたときに、たまたまちょうどよいタイミングでそこに投資していただけで、単にその波に乗ったに過ぎないかもしれないからです。
しかし、リスク要因そのものに賭ける、あるいはそのリスク要因の枠内での銘柄選択を行うという戦略を明確に組み込んだ運用プロセスを採用しているのであれば、それは再現性のある運用と言えるかもしれません。投資家が真に求めているのは、単なるリスク要因に依るものではなく、銘柄選択そのものが利益を生み出しているマネジャーです。果たしてそのマネジャーが、独自の分析を通じて得た情報からリターンを上げる銘柄を発掘するかどうかなのです。
一般的に機関投資家がアクティブ運用マネジャーを評価する際には、こうした分析が行われます。その上でマネジャーへのヒアリングを実施し、運用プロセスについて詳細を聞き取り、その内容を分析結果と照らし合わせます。この業務を専門とする人々が本質的に見極めようとしているのは、次のような点です。マネジャーは自身の運用プロセスが成果をもたらした理由を理解しているか、どのようなリスク要因のエクスポージャーをとっていたかを把握しているか、そして(収益のうち)何が「運」であり、何が「実力」であったかを認識しているか、ということです。
さらに、入手できた情報量にもよりますが、その戦略を定量的にシミュレーションし、長期的に見てその戦略が想定どおりの成果を上げるか否かを検証できます。要するに、アクティブ運用におけるマネジャー選定は、今や極めて定量的なアプローチが主流となっています。これもまた、学術的なファイナンス理論から多大な影響を受けており、そもそもこの考え方自体がファイナンス分野の研究から生まれたものなのです。
クラーク:そうですね。付け加えるなら、こうした分析ツールをすべて利用できるわけではない個人投資家としては、まずはコストが低く、平均以下のコストのファンドを選べば、少なくとも有利なスタートを切ることができます。その上で、マネジャーの投資判断の根拠となる経済的合理性を理解するよう努めることです。なぜそのマネジャーは、特定の種類の株式が市場平均を上回ると考えているのか?その根拠が、ポートフォリオの保有銘柄に反映されているかを確認できるか?などです。
ネルソンが話していたように、様々なツールを使えばより厳密な分析が可能ですが、個人投資家でも、異なる市場環境下でそのファンドがどのようなパフォーマンスを示してきたかを確認することができます。たとえば、バリュー株寄りのファンドであるならば、バリュー株優位の市場で好調な傾向を、グロース株優位の市場では劣勢となる傾向を示しているか? その通りであれば、問題はありません。それは、ファンドが掲げている投資方針通りに運用されていることを示しているからです。私なら、個人投資家としてまずそこから始めます。
「小型株効果」は今も有効なのか
アーノット:先ほど、モメンタム効果や業績予想の修正といったアノマリーに関する研究について触れられましたね。中でも最も広く研究されてきたアノマリーの一つに「小型株効果」があります。1981年より前のデータを見ると、小型株はかなり顕著なパフォーマンス上の優位性があり、年間約3.5パーセントポイント上回っていました。これは長期的には非常に大きな優位性へと積み上がりました。しかしそれ以降、その優位性は大幅に縮小し、実質的にゼロに近い水準になっています。お二人に伺いたいのですが、「小型株効果」は今も存在するとお考えですか。それとも、実際よりも小型株を良く見せるような測定上の問題があったのでしょうか。
クラーク:長期的な研究の中には、取引コストや小型株ポートフォリオの構築に伴う負担を十分に考慮していないものもあると読んだことがあります。それらを考慮に入れれば、超過収益の魅力はかなり薄れるでしょう。小型株の超過収益の推移を示したグラフを見ると、私には突発的な尖った山(スパイク)が多いだけに見えます。もちろん、なぜ小型株からより高いリターンが期待できるかを説明する経済的な理屈はあります。 小型株は財務的に脆弱な場合があるので、そのリスクに見合ったリターンが得られるべきだという考え方です。ただ、その値動きの激しさを見ると、アウトパフォームを期待できるリスク要因だという確信があまり持てません。市場全体をカバーするファンドを通じて小型株へのエクスポージャーを持つことには賛成ですが、小型株をオーバーウェイトすべきだという確信はない、ということです。
ウィカス:ええ、つまり、70年代後半の研究が発表された当時、「小型株効果」はあたかも永続的な現象であるかのように受け止められました。株式市場全体に比べて小型株の比重を大幅に高めればアウトパフォームできるはずだ、というわけです。しかし、もしそれがリスク要因であるならば、その影響は一時的なものに過ぎません。だからこそ、アンディも私も株式市場全体へのエクスポージャーを持ちたいと考えています。小型株が優勢となる時期もあるので、大型株に集中したくはありません。同様に、大型株が優勢になる時期もあるので、小型株だけに投資するわけにもいかないのです。
1970年代について言えば、石油危機に見舞われたこの時代を「インフレ・ショックの時代」と捉える研究もあります。その後、緩和的な金融政策が取られたためインフレが長く続き、1980年代に入ってようやく鎮静化されました。こうしたインフレ・ショックに対しては、大企業よりも中小企業の方が柔軟に対応できた可能性があります。中小企業は価格転嫁を行いやすいため収益性を維持できるのに対し、大企業はそれが難しく対応に時間がかかったのかもしれません。
典型的な例は米国自動車産業です。1970年代初頭のオイル・ショック以前、米国の自動車産業は、燃費が非常に悪い巨大な車を製造していました。オイル・ショックにより、業界は製造する車種を根本的に変えざるを得なくなりました。こうした米国の自動車メーカーの対応が実を結ぶまでには、丸10年を要しました。しかし、インフレが鎮静化した1980年代に入るとクライスラーが「Kカー」を製造し始め、フォードが「トーラス」を発売、GMも「シボレー・セレブリティ」というかなり良い作りの中型車を投入し、これらの車が各社の収益の柱となったのです。インフレショックに大企業が適応するにつれ、小型株の優位性は投資上のエッジというよりも、リスク要因として説明できる部分が大きいと考える理由のひとつです。
もうひとつの要因として、1980年代以降金融政策は発展・進化を遂げ、より洗練された形で実施されるようになりました。当局はインフレ抑制への姿勢に対する信頼性を高めようと努めてきたからです。こうした動きはごく最近も見られました。新型コロナウイルスのパンデミック中にインフレが急伸した際、バイデン政権とFRBのジェローム・パウエル議長はインフレを抑え込むために断固とした姿勢を示しました。過去40年間にわたるこうした政策の変化が、ご指摘の小型株についての変化をもたらした可能性があります。
同時に、アンディやガネーシュ、そして私も、多くのマネジャーや投資家と同様に大型株から小型株へと移るにつれて市場の効率性は低下すると考えています。そのため、クオンツ運用であれ伝統的な運用であれすべてのアクティブ運用担当者は、大型株の中でも規模の小さい銘柄や中型株、小型株の領域で積極的な投資判断を行う傾向があります。しかし、小型株への投資を実行できるかどうかは売買能力(トレーディング・スキル)にかかっています。小型株市場は流動性が低いため、ポジションを構築するには高度な執行能力が必要なのです。
ガス・ソーター氏とそのチームは、この緻密な売買ノウハウにおいて卓越していました。私たちの小型株クオンツファンドが大きな成功を収めたのは、彼らがポジションを構築する能力を持ち、バックテストで確認したアルファを実際に獲得できたからです。一方で他社の中には、こうしたノウハウが不足していたため、同レベルの成果を上げられなかったケースもありました。
お勧めの本やブログ、ポッドキャスト
ベンツ:最近、多くのゲストに、「今、何を聴いているか」「何を読んでいるか」という質問をしています。ご自身の著書以外に、お二人が投資家にお勧めだと思う本やブログ、ポッドキャストなどはありますか?
クラーク:ええ、いくつかあります。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙で連載しているジェイソン・ツヴァイグ氏の週刊コラムが大好きです。そして、お世辞抜きで『The Long View』も毎週聴いています。リソルツ・ウェルス・マネジメントのベン・カールソン氏とマイケル・バトニック氏によるポッドキャスト『Animal Spirits』もお気に入りです。同じくベン・カールソン氏のブログも定期購読しており、彼の著書もお勧めです。
二人のバーンスタイン、ピーター・バーンスタイン氏とウィリアム・バーンスタイン氏の著作はどれも素晴らしく、本当に楽しんで読みました。彼らの取り上げるテーマは深い洞察を与えてくれるだけでなく、ユーモアのセンスも備えています。投資とは人間の活動であり、誰もが弱さを持っています。それは時に悲しいことですが、往々にして滑稽でもあります。ですから、例えばウィリアム・バーンスタイン氏の本を読んだら、ポートフォリオ構築について書かれた部分で思わず声を出して笑ってしまうかもしれません。私はそういう所が大好きですし、ユーモアのセンスは常に必要だと思います。総じて言えば、私はこの業界や投資全般に関する本を読むのが好きですが、特に挙げたいのはこうした著者たちです。
ウィカス:私はアンディよりもずっと守備範囲が狭いです。私はまず米国や先進諸国におけるマクロ経済の動向について広く注目しており、現状を把握するために一般的な報道も追っています。その上で、マクロ経済学やそのマクロな予測に特に興味があるので、その分野は普段から注意深く追っています。投資関連の書籍では、クオンツによる銘柄選択が面白い分野です。学術的な書籍や論文を読むことが多く、そうした研究の細部に踏み込むことが好きなのです。
アーノット:本日はお越しいただき、ありがとうございました。お二人とお話しできて本当に楽しかったです。
ウィカス:ありがとうございます。
クラーク:こちらこそ、ありがとうございました。
ベンツ:ネルソンさん、アンディさん、本当にありがとうございました。今日はとても楽しい時間を過ごせました。
アーノット:『The Long View』をご視聴いただき、ありがとうございました。お時間があればAppleやSpotify、あるいは普段ポッドキャストを聴いているプラットフォームで、ぜひこのポッドキャストを登録して、レーティングをお願いいたします。ソーシャルメディアでは、LinkedInの「Amy Arnott」で私をフォローしていただければ幸いです。
ベンツ:LinkedInの「Christine Benz」またはXの「@christine_benz」もよろしくお願いします。
アーノット:最後に、皆様からのフィードバックをお待ちしております。ご意見やゲストのご提案がございましたら、thelongview@morningstar.com までメールをお寄せください。それでは、また次回お会いできるのを楽しみにしております。ご視聴ありがとうございました。◇
※ ジョージ・カスタディが、このポッドキャストのエンジニアを務めています。ジェシカ・ベベルが毎週ショーノートを担当し、ジェニファー・ギエラットがトランスクリプトの校正を行っています。
※ 本稿はモーニングスターの「Andy Clarke and Nelson Wicas: Index Funds Aren’t Really Passive, and Other Lessons for Building a Better Portfolio」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。


