※ 本稿は米国からの視点のため、基本的には米ドル軸で日本株式を論じていることにご留意ください。
活況を呈していた日本の株式市場は、イラン戦争に伴う石油価格の高騰により、一時的な停滞とボラティリティの拡大を見せている。しかし、アナリストやファンドマネジャーは、日本の株式が新たな上昇に向けて力を溜めている兆候があるという。
日本の株式市場は短期的には適正な価格水準にあるように見えるが、新政権の発足、継続的な企業改革、そして海外投資家の関心の高まりが株価を押し上げる可能性がある。ただし、イラン戦争以外の注意点としては、バリュエーションが過去数年ほど割安ではないことは意識しておきたい。
2023年以降、投資家は日本株に対する強気の姿勢を保ってきた。背景には、長らく低迷していた日本経済に回復の兆しが見え、企業収益の伸びが堅調であること、株価が割安であること、そして配当や自社株買いが増加傾向にあることなどがある。過去5年間で、TOPIX は円建てで99%上昇、日経平均株価は95%上昇している。一方、モーニングスター・日本株指数は円建てで86%、米ドル建てで42%上昇している。
しかし、株価は一直線に右肩上がりだったわけではない。2024年8月には、日銀が利上げに踏み切ったことで株価が急落、その後円高が進んでキャリートレード(円安で調達した資金を他国でより高利回りの投資に充てる手法)を圧迫し、外国人投資家を警戒させた。それ以降も市場は回復したものの、関税問題や金融引き締め、選挙への懸念などから上昇下落を繰り返す展開が続いた。2月には、高市総裁を担いだ自民党が衆議院選挙で過半数を獲得したことを受け、株価は急上昇した。
下のグラフは、3月3日までの過去5年間のモーニングスター・日本株指数(青)とモーニングスター・米国マーケット指数(赤)の動きである。
イラン戦争に対する日本の脆弱性
今般の戦争はLNG(液化天然ガス)の供給を絶ってしまうので、日本にとって頭の痛い問題である。日本は、電力生産の約30%をLNGが占めており、原油等化石燃料のほぼ全てを輸入に依存している。2月27日以降でTOPIXは4.2%下落、日経平均株価は4.4%下落し、年初来の上昇率はそれぞれ10.7%、11.8%に縮小した。
含油・ガス価格の上昇は企業の投入コストを押し上げ、インフレを加速し、収益を圧迫することになる。モーニングスターのストラテジスト、ロレイン・タンは「ただし、日銀の金融政策方針は燃料費を除くインフレ率に基づいているため、変更されることはないでしょう」と説明する。それでも同氏は、戦争による企業コストへの影響は第2四半期に限定されるとの見解を示している。「OPECは既に4月に供給量を増やす意向を示しています。また、イラン軍がホルムズ海峡を長期にわたり封鎖できるとは考えておらず、カタールの液化天然ガス(LNG)施設への持続的な損害は基本シナリオには含まれていません」。
短期的には、日本市場の株価は適正な水準にある
タンは、最近の値下がりにもかかわらず、年初来の堅調なパフォーマンスを踏まえると、日本株式は適正な水準にあると考えている。
T.ロウ・プライスの国際株式ポートフォリオスペシャリストであるダン・ハーリー氏も同様の見解を示している。「予想PERが17.5倍と、過去の14.0倍に比べてやや割高感があります。日本株再評価の議論は、主に倍率の問題に絞られています」と同氏は述べている。
ヤルデニ・リサーチによれば、MSCIジャパン指数の予想利益率は約9%で、2009年の1%強から上昇している。売上高成長率は2025年に5.8%上昇した後、2026年には2.0%低下する見込みであるが、2027年は4.4%、2028年は3.9%上昇すると予想されている。一方ヤルデニは、2025年の推定7.9%から、2026年には11.2%、2027年には10.3%の収益増加を見込んでいる。
自民党の長期的な成長政策が、市場と海外投資家の関心を高めるだろう
日本株は長期的には有望だと専門家は指摘する。市場全体は以前ほど割安ではないが、他の主要市場と比較すると依然として魅力的な水準にある。予想PERは、MSCIオールカントリー・ワールド指数で19倍、S&P500種指数で21倍となっている。
強気材料のもう一つの要因は、自民党が圧倒的多数を占めることで、成長促進政策を推進しやすくなっている。2月の選挙後、ゴールドマン・サックスのストラテジストであるブルース・カーク氏はTOPIX の12か月目標値を3,900から4,300に引き上げた(3月6日終値は3716)。同氏は顧客に対し、高市氏の勝利が「世界の投資家の日本市場に対する認識を変える可能性がある。そうなれば、外国人投資家の資金流入が加速し、市場はより高い倍率で評価されるようになる」と述べている。
カーク氏によれば、自民党主導の連立政権が衆議院で過半数を獲得した過去 3 回の選挙後、その後3か月で市場は平均 20% 上昇し、その後も2~3ポイント上昇したと言う。同氏は、防衛、経済安全保障、日米関係に関する高市首相の政策課題が、今後より明確になると予想している(高市氏は3月19日にドナルド・トランプ米大統領と首脳会談を行う予定)。また首相は、AIや半導体製造等の分野における「ナショナル・チャンピオン」への国による投資を推進していると報道されている。
さらに、より強固な企業ガバナンスは収益成長を支える可能性がある。長年にわたり、日本企業は政策当局、規制当局、アクティビスト、議決権行使会社から、収益向上を迫られてきた。金融庁は2026年から、企業に対し、現金の有効活用状況の検証を義務付ける規則を準備している。上場企業は総額約8400億ドル(手元資金は2024年3月末時点で約114兆円)の現金を保有している。
また、2024年には自社株買いが前年比75%増加した。日本の長年にわたる株式の持ち合いが進んでいる。投資会社GMOは「規制当局からの圧力により保険セクターでは持ち合い株式の大量売却が加速し、トヨタグループのように抵抗してきた企業でさえ、大規模な持合い解消が始まった」と述べている。
円高の進行もまた、外国投資家にとって追い風となる可能性がある。
海外の投資家は日本株への投資比率がまだ低い
一方、多くの海外投資家は日本への投資比率がまだ低い状態にある。モーニングスターのデータによれば、世界大型株ブレンドファンドの平均的な日本への投資比率は4.4%である。また、全世界を対象とするベンチマークに基づくiShares MSCI ACWI ETF(ACWI)の日本への投資比率は5.4%となっている。
フランクリン・テンプルトンのグローバル・インデックス・ポートフォリオ責任者のディナ・ティン氏によると、今年に入ってからこれまでに、Franklin FTSE Japan ETF FLJP には約3,000 万ドルが流入し、9月末以降の累計は5億ドルに達したという。 同ETFの現在の資産総額は32億ドルに上る。ティン氏は、世界の投資家が日本株へのエクスポージャーを増やすべき理由について、「相関性の低い資産への投資は有効であり、米国市場とグローバル(除く米国)市場の相関性は低下傾向にあります」と述べている。
モーニングスターのデータによると、日本株ETFへの資金流入額は年初からの1か月で6億9100万ドル、過去1年間では10億8000万ドルに達した。
どの日本株式が恩恵を受けるのか?
T.ロウ・プライスは、日本政府による歳出増加の恩恵を受ける可能性のある市場セクターを選好している。ハーリー氏は、国内の景気回復ストーリーが、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、りそなホールディングス(8308)などの銀行、そして三菱地所(8802)などが恩恵を受ける可能性があると見ている。
ゴールドマン・サックスは2月のレポートにおいて、上場日本企業430社を対象にスクリーニングを行い、コーポレートガバナンスに関する以下の8つの要因に晒されている企業を特定した。
- 自社株買いの勢い、
- 株主名簿に記載されているアクティビスト投資家の存在、
- 持ち合い株式の純資産比率が高い、
- 事業セグメント数が多い、
- ネットキャッシュおよびROEが8%を下回っている、
- 未実現不動産評価益が時価総額の5%以上である、
- 2025年定時株主総会における経営陣承認率が下位10%に入る、
- 2025年暦年の株価収益率が指数を下回った。
これらの基準のうち少なくとも4つに当てはまった企業には、京セラ(6971)、デナ(2432)、住友不動産(8830)、マネーフォワード(3994)などがある。
モーニングスターのタンは「投資機会が点在している」と考えており、AIがソフトウェアやゲーム関連銘柄に与える影響への懸念から売り圧力が強まっている現状は、行き過ぎている可能性が高いと指摘している。
タンが注目する企業を以下に挙げる:
キリン 2503
キリンは、買収したファンケルやブラックモアズとのシナジー効果や、ビール事業で培った強固な流通網を活用することで、国内外における売上高と収益性の拡大を図るポテンシャルがあると考える。また、医薬品の強みを活かした健康補助食品事業の拡大も期待できる。一部の投資家は国内の酒類事業が懸念材料であると捉えるかもしれないが、キリンは発泡酒や新ジャンル飲料の落ち込みを徐々に相殺すべく、ビールブランドを強化していると考えられる。
その結果、発泡酒・無麦芽アルコール飲料の比率が高いことや、2026年末に予定されているビール税の一本化にもかかわらず、キリンが国内市場でアサヒに対して不利な立場にあるとはもはや考えていない。さらに、同社は自社株買いを含む株主還元の強化や非中核事業の売却を通じて、資本配分の改善を優先課題としている。これらの取り組みが、キリンの株価に対する市場心理の改善につながるであろう。
任天堂 7974
任天堂の株式は過小評価されていると見ている。市場は、短期的な課題に過度に注目し、同社の魅力的なキャラクターを活かしたゲームソフトとコンソールの出荷台数の長期的な成長可能性を過小評価していると考えている。
キーエンス 6861
市場は、主要指標の成長率の最近の鈍化に過度に注目しているようだが、同社が従業員一人当たりの効率向上を優先するために意図的に採用ペースを緩めている点を見落としている。海外における従業員一人当たりの売上高が国内水準を依然として大きく下回っている現状を踏まえると、この効率性重視の姿勢は戦略的に妥当であると考える。同社が最新のプレゼンテーションで示したように、海外の潜在市場規模(TAM)は現在の売上高基盤の数倍に上り、海外での採用再加速とキャパシティ拡大が進めば、長期的に大きな成長余地があることを示唆している。このギャップこそ、現在の成長が構造的な減速ではなく、最適化のための一時的停滞と捉えるべき理由である。
重要な点として、キーエンス独自の直販モデル、迅速な製品開発サイクル、ソリュー提供型の価値提案といった事業基盤に揺るぎはない。これらの基盤が、同社の極めて高い利益率と強固なキャッシュ創出力を支え続けている。経営規律が維持され、海外展開の再加速が見込まれることから、中長期的には売上成長の持続とともに市場で再評価される余地があると考える。◇
※ 本稿はモーニングスターの記事「After Taking a Breather, Why Japan Stocks Could Keep Rising」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

