米国株式市場では売りがさらに強まっているが、投資家はイラン戦争に伴う様々なリスクや影響の拡大を十分に考慮しているのだろうか?
市場の楽観を示す一つの兆候は、クレジット市場である。地政学的な不確実性が高まる時期には、投資家は、上昇するリスクに対する見返りとしてより高いリターンを求め、その結果、通常はクレジット・スプレッド(安全な米国債に対する利回り差)が拡大する。今回の戦争でも初期は、まさにその通りだった。
ところが現在、スプレッドは戦争前の歴史的な低水準付近まで縮小している。Bank of Americaのユーリ・セリガー氏とソヒョン・リー氏の調査によると、3月26日時点でのICE BofA社債指数と米国債とのスプレッドは約0.88%だった。これは、戦争開始直前の2月27日とほぼ変わらない水準である。
一方、Morningstar米国株指数は、戦争開始以来、米国株式は7.4%下落している。戦争が収束する兆しは見えず、3月26日、27日(そして30日も)市場は下落した。半導体製造に不可欠なヘリウムの不足が長期化すると投資家が予想したことから、Morningstar グローバル半導体製造機器・資材指数も大幅に下落した。
しかし下がったとはいえ、株式市場は依然として1年前の水準から約13%上昇しており、堅調なリターンを示している。
では、なお残る下振れリスクは何だろう?
- 戦争はまだ終結していない。
- インフレは加速している:経済成長も危ぶまれている。OECD(経済協力開発機構)は米国のインフレ率の本年の平均を4.2%と予測しており、これは昨年末の予測より1パーセントポイント以上高い数値である。OECDは、中東からの輸出が継続して滞れば、この予測はさらに「重大な」リスクに直面すると述べている。
- エネルギー価格の上昇が続いている:ブレント原油は27日、1バレルあたり約112ドルで取引を終え、開戦前と比べて約54%上昇した。WTI原油は100ドル弱で、48%上昇した。
- 利上げ期待が意識され始めている:今年初めには金利の引き下げが予想されていたが、今では2026年の利上げに対する期待が徐々に高まっている。
- 予想PERは高止まりしている:株式市場のバリュエーションは、特に魅力的とは言えない。米国株指数の予想PERは22.1倍であるが、参考として過去5年間の平均は20.1倍、過去10年間の平均は19.7倍である。ナスダック100指数は2025年10月の高値から10%近く下落しているにもかかわらず、予想PERは32倍である。
Research AffiliatesのCIOであるジム・マストゥルゾ氏は、「ホルムズ海峡が『当面の間、ほぼ閉鎖されたままの状態が続けば、世界経済は壊滅的な打撃を受ける』ことになる」と述べている。とはいえ、同氏は、「長期化する戦争の影響は極めて深刻であるため、冷静な判断が下され、打開策が見出されるはずだ」と考えており、『壊滅的な打撃』の可能性は5%程度だと見ている。これを踏まえて、市場は「現在過度に楽観的であるとは考えていない」とマストゥルゾ氏は考えている。
モーニングスター・ウェルスのチーフ・マルチアセット・ストラテジストであるドミニク・パッパラルドは、債券と株式の売りが続いた場合には悪循環が生じる可能性があると指摘している。「紛争がさらに長期化すれば、金融市場は一層の下落に転じるだろう。大幅な調整が起きれば、経済活動と消費者信頼感に悪影響を及ぼすことになる」。
逼迫する肥料供給
世界の窒素肥料取引では湾岸諸国の生産者が主要な役割を果たしており、今回の紛争は肥料供給にも問題を惹き起こしている。また、農家が春の作付けシーズンを迎えており、世界的な食料危機への懸念も生じている。
モーニングスターのシニア・エクイティ・アナリスト、セス・ゴールドスタインは、開戦以来、窒素肥料は約50%、リン酸塩肥料は約10%価格が上昇したと言う。「作付け需要のピークと供給ショックが重なるという最悪のタイミングだ。たとえ明日紛争が終結したとしても、供給不足の影響は避けられないだろう」と述べている。ゴールドスタインはその理由として、以下の点を挙げている。
- リン酸塩と窒素が港に滞留している。
- 窒素生産に必要な最大の原料は天然ガスである。主要供給国であるカタールの輸出インフラは、紛争で深刻な被害を受けている。
- 一方、主要なリン酸塩輸出国であるモロッコは中東から原料を調達しており、戦争が続けば生産停止を余儀なくされる可能性がある。
戦争が肥料株に与える影響
戦争の影響で肥料メーカーの株価は上昇している。しかし、世界最大級のリン酸塩およびカリウム生産企業であるMosaic(MOS)は、モーニングスターの指標によれば依然として割安と見られ、適正価値推計値に対して35%割安で取引されている。これは、リン酸塩の価格上昇が窒素肥料の価格上昇より遅くなっていることから、原材料である硫黄やアンモニアの高騰が同社の利益率を圧迫しているとの投資家の懸念を示唆している。
ゴールドスタインは、Mosaicのアンモニアのうち市場価格の影響を受けるのはわずか3分の1に過ぎないため、「投資家は状況を誤解している」と述べており、「投資家がこの点を認識すれば、Mosaicの株価の見直しが進む可能性がある」と指摘する。
ゴールドスタインは最近、Mosaicをはじめとする米国の肥料メーカー各社の適正価値推計値を引き上げた。北米最大の窒素肥料メーカーであるCF Industries(CF)と、生産能力で世界最大の肥料メーカーであるNutrien(NTR)は、いずれも適正価値近辺で取引されている。
以下は2025年4月をゼロとして3月26日までの、CF Industries(青)、 Nutrien(赤)、 Mosaic(黄)の株価の推移である。
雇用統計の発表が間近
「労働なくしては、人生はことごとく腐ってしまう」とはアルベール・カミュの名言である(※)。2月の雇用レポートでは予想外の雇用減少が示され失業率も上昇、2026年初頭の雇用増加の勢いが再び失速していることが示唆された。
※ その後に「だが、魂なき労働は、人生を窒息させる」と続く。“Sans le travail, la vie pourrit. Mais quand le travail est sans âme, la vie étouffe et meurt.”
4月3日には、労働統計局が3月の統計を発表する予定である。この日は聖金曜日(キリスト受難の日)の祝日のため、市場は休場となる。ファクトセットによると、アナリストの平均予想では、非農業部門の雇用者数は2月の予想外の減少から5万7000人増加し、失業率は4.4%で横ばいになると見ている。これは、企業が解雇と同時に新規採用も控える「低解雇・低採用」シナリオへの回帰である。
今週の主要経済指標や企業イベントについては、当社の週間市場カレンダーをご覧いただきたい。◇
※ 本稿はモーニングスターの「Markets Brief: Are Investors Still Too Complacent?」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

