<重要なポイント>
- 半導体株式の大幅な上昇により、新興国市場の株価指数は、特定の数銘柄への集中が著しく進行した。
- 現在の集中度は、過去に大幅な下落を招いた局面を上回る水準に達している。
- 一部の新興国市場担当のファンドマネジャーは、構成比率が高い株式への依存を減らし、分散を図ろうとしている。
一般に投資家が新興国市場に対して想定するリスクは、債務不履行(デフォルト)、インフレ、通貨急落などだろう。しかし今、新たに「集中リスク」が浮上している。これは、ごく少数の企業の株式がファンドのポートフォリオやリターンにおいて過大な割合を占める状態を指す。米国市場ではここ数年、少数の特定銘柄への集中が注目されてきた。そして、新興国市場においても、この1年で主要な半導体株式が大幅に上昇したことで、市場の様相が一変したのである。
Morningstar新興国株式ターゲット・マーケット・エクスポージャー指数の構成上位3社であるTSMC(2330/TPE、TSM)、Samsung Electronics(005930/KRX)、SK Hynix(000660/KRX、SKHY)は、現在、同ベンチマークの26.7%を占めている。AI関連の設備投資拡大を背景に急上昇しているこれらの株式は、過去1年間における同指数のリターン(30.3%)のうち、約57%を生み出した。6月下旬からSamsungとSK Hynixが急落した際には、同指数の下落(6.8%)の大きな割合を両株式が占めた。
以下は、同指数の上位構成企業について、指数に占める比率、過去5年の平均構成比率、過去1年の平均構成比率、過去1年のリターンに占める比率(%ポイント)、過去1年間のリターンを一覧にしている。
新興国の経済成長への投資を求める投資家は、こうした上位企業の比率の上昇によって、実際には米国株式市場を席巻している「AI」テーマによって左右されるリターンを享受しているのである。「投資家は、新興国市場全体に幅広く投資をしていると思っているかもしれませんが、実際には、台湾、中国、韓国、インドへの配分が非常に大きくなっており、その中身は巨大な半導体関連企業が牽引しているのです」と、カラン社(Callan)のグローバル・マネジャー・リサーチ・グループで米国以外の株式投資を担当するコンサルタント、ポール・チョイ氏は指摘する。 「つまり、(国と銘柄)二重の集中が起きています」。
新興国市場における集中を招く超大型株の上昇
この極端な集中を招いているのは、AI関連株式の記録的な株価上昇である。過去1年間で、TSMCは96%、Samsungは258%、SK Hynixは456%上昇した。一方、かつて新興国市場を牽引していた企業は現在では出遅れている。たとえば、中国の大手テクノロジー・エンターテインメント企業であるTencent(00700/HKG、TCEHY)は、新興国市場指数における過去5年間の平均構成比は3.87%であったが、現在は2.96%に低下している。
モーニングスターのマネジャー・リサーチ・アナリスト、マイケル・ボーンは、「5年前、現在AI関連の設備投資(Capex)銘柄として注目されている企業は、市場の中ではあまり目立たない存在でした。当時、主にリターンを牽引していたのは、PC、スマートフォン、ゲーム機などの家庭用電子機器であり、これらは景気変動の影響を非常に受けやすい分野でした」と述べている。
中国市場も、パンデミック以降は不動産危機やレバレッジの縮小を背景に成長が鈍化したことから、全体に低迷している。中国はAI分野における主要なプレイヤーではあるものの、関連株式の多くは「A株市場」に上場しており、外国人投資家によるアクセスは限られている。
以下のグラフは過去5年間の、モーニングスターの指数による、新興国株式(青)、米国株式(赤)、グローバル株式(黄)、韓国株式(緑)各市場の動きを示している。
過去の上昇と急落について
新興国の株式市場で著しい集中化が進むのは、今回が初めてではない。ニューバーガー・バーマン(Neuberger Berman)の新興国市場担当ポートフォリオ・マネジャーであるヴェラ・ジャーマン氏とフアン・トーレス氏は、6月に発表したレポートで、過去20年間に起きた同様の状況を振り返っている。2010年から2011年のコモディティ相場では上位10社の大半を資源関連企業が占め、2014年から2015年の中国相場ではTencentが上位に入り、2020年から2021年にかけての中国ハイテクブームでは、Alibaba(BABA)やTencentが主導的な役割を果たした。
しかし、現在の新興国市場における集中度は、かつてないほど極端なものだ。中国ハイテクブームの時には、MSCI新興国市場指数に占める上位10社の比率は28%だった。一方、2026年6月初旬の時点では、同指数における上位10社の比率は39%に達している。
ニューバーガーの運用担当者は、過去のこうした局面の後に大幅な売りが生じたと指摘している。例えば2014年から2015年にかけては、その後、同指数は35%下落した。彼らは以下のように記している。
「大衆心理に同調することは、一時的な安心感をもたらすかもしれません。しかし、歴史の教訓は、極端な集中状態はただ終わりが来るだけでなく、それが急激な終焉となる可能性があるということです。これに備えるためには、投資家は『指数の構成比率が最も大きい銘柄から距離を置いたポジションを取る』必要があります。それらの銘柄は、今年上昇を牽引したのと同様に、下落局面でも大きな役割を果たす可能性があるからです」。
新興国市場の集中リスクを管理する
一般的に、集中度が高まるとアクティブ運用者がインデックスを上回る超過収益を上げることは難しくなる。6月の「モーニングスター・アクティブ/パッシブ・バロメーター」によると、資産加重ベースのパッシブ型ファンドを上回るパフォーマンスを上げたのは、米国株式大型ブレンド型では31%、グローバル株式大型ブレンド型では33%だった。
しかし、新興国株式ファンドでは、70%がパッシブ型ファンドのパフォーマンスを上回っており、この傾向は見られない。その理由は、ポートフォリオ・マネジャーが、中国株の組み入れ比率を平均7%アンダーウェイトするなど、異なる戦略を採用してきたことにある。また、通常アクティブ運用マネジャーは保有株式の株価が上昇するとポジションを縮小しがちだが、今回は多くのマネジャーが新興国市場におけるAI関連株式のモメンタムに乗る運用をしている。「これらの株式の背後にある業績や受注のモメンタムは依然として堅調に見え、ファンドマネジャーの多くは、喜んでこの波に乗っています」と、モーニングスターのボーンは述べている。
それでも、一部のマネジャーは警戒感を示している。「集中リスクを軽減すべき時が来ています」と、投資会社マシューズ・アジアの会長であるマーク・ヘッドリー氏は述べている。「TSMCを売却したり、AI技術革新関連株から逃げ出すべきだという意味ではなく、これまで見過ごされてきた分野に目を向けるべきだということです。中国の金融株は極めて割安な水準にあります」。
ヘッドリー氏は、6月と7月の調整局面について、「市場が徐々に広がりを見せ始めていることを示唆しており、概ね前向きに捉えています」と付け加えている。例えば韓国では、「現地の投資家が中小型株への投資を始めているのがわかります」という。マシューズが注目している企業のひとつは、化粧品メーカーの小型株であるCosmax(044820)である。ヘッドリー氏は「ASEAN地域への投資を少しずつ始めており、インド市場も慎重に検討している」という。同時に、テクノロジーセクターへの関与も維持しており、「最近の売られて下落しすぎたと判断した一部の銘柄」にも引き続き注目している。
ニューバーガーの運用担当者も、新興国市場の中で取り残されてきた分野に注目している。彼らはメールでの質問に対し、次のような回答をくれた。「現在の市場の関心は、1つのセクター、1つの投資テーマ、2つの国、一握りの企業に集中しています。だからこそ、私たちは今、非常に豊富な投資機会が存在すると考えています。メキシコの一般消費財セクターから、韓国の中型株におけるスペシャル・シチュエーション(ガバナンス改革による親子上場の解消やM&Aなど)、財務的な困難を抱えるブラジルの鉱業企業、ASEAN全域の小型株、そして中国に至るまで、多岐にわたります」。◇
※ 本稿はモーニングスターの「For Emerging Market Stock Funds, Concentration Risk May Be Eclipsing Macro Risk」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

