リチャード・バーンスタイン氏が語る、1970代年型ではなく1960年代型のインフレに警戒すべき理由

インフレは想定以上に根強く、配当株式が相対的に有望になる可能性

今回のイラン戦争勃発により原油価格が急騰した際、1970年代のスタグフレーションを引き合いに出して、先行きを読もうとする市場関係者が居た。しかし、ストラテジストおよび資産運用責任者として株式市場で生き抜いてきたリチャード・バーンスタイン氏は、さらに遡って1960年代に着目している。彼は、当時と現在の類似点として、財政緩和政策と脱グローバル化が、主要経済大国のインフレ率上昇の要因となっていると指摘する。

45年にわたり市場に携わり、現在はジャナス・ヘンダーソンのマクロ投資およびカスタマイズド運用部門のグローバル責任者を務めるバーンスタイン氏に、現在の経済や市場について、歴史的な視座からの示唆に富む話を聞いた。彼は、投資家が1960年代の「銃とバター※」政策の再来に備えるべき理由、そしてそれがインフレにどのような意味を持つかについて、自身の見解を語ってくれた。また、インフレ圧力が高まっているにもかかわらず、なぜ現金保有を推奨しつつ株式に対して弱気ではないのか、さらに、なぜ「マグニフィセント・セブン」よりも高配当株式の方が魅力的だと考えているのかについて説明している。

※ 「銃とバター」は十分な財政が無い場合に、国家予算を軍事費と国民生活のいずれに注ぎ込むかという二者択一のトレードオフ関係を表す比喩。1930年代にドイツで「バターより大砲(Kanonen statt Butter)」と説かれた。

「銃とバター」時代との類似点

レスリー・ノートン:なぜ1960年代の「銃とバター」の時代を考察する価値があるのでしょうか?

リチャード・バーンスタイン:1960年代半ば、ベトナム戦争に対する「軍備増強」と「グレート・ソサエティ計画」※の支出をめぐっては、それらが財政赤字やインフレに何の影響も及ぼさないというのが当時の一般的な見方でした。今振り返ると、それは不合理な雰囲気でした。実際には莫大な財政刺激策が講じられていた上に、軍事に資源を回すために経済から生産能力が奪われていました。後知恵ですが今なら、それがインフレの悪循環の始まりだったのだと、明確に分かります。

ガソリン価格が高騰しているので、人々は1970年代のエネルギー危機を強く意識しています。たしかに的を射た見方ですが、1960年代との共通点も数多くあります。

※「グレート・ソサエティ計画」は1964年にリンドン・ジョンソン大統領が掲げた民生計画。貧困の解消と人種差別撤廃(公民権法の発効)を柱とした。一方、1964年8月に米国は北ベトナムへの北爆を開始、ベトナムとの戦争が本格化した。

以下のグラフはCPI(紫、消費者物価指数)とコアCPI(ブルー、食品・エネルギーを除く)の1965年4月~2026年3月の対前年度比変化率を示している。

ノートン:どのような共通点があるのでしょうか?

バーンスタイン:皮肉なことに、あの好景気の「バター時代」に始まった(メディケイドや教育支援、環境汚染対策など)多くの民生プログラムが現在縮小されつつあります。社会支出の代わりに、「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(OBBBA)」と呼ばれる、減税・税制改革・歳出削減の措置が導入されています。同時に、軍事費・国境警備の予算は大幅に優先されています。前回の予算では防衛費は約8000億ドル計上されましたが、今回はさらに約8000億ドルを追加要求しています。1960年代と全く同じ状況だと言いたいわけではありませんが、投資家は、これらについて考え始めるべきでしょう。

FRBの盲点

ノートン:それでは、それらのインフレ圧力の要因を挙げてみましょう。

バーンスタイン:2013年以降、私が一貫して主張しているテーマの一つは、脱グローバル化を背景に、長期的なインフレについて考え始めるべきだということです。米国が長期的なディスインフレを経験し、FRBが2%のインフレ目標を設定できたのは、FRBの優れた金融政策や政府の財政規律のおかげではありません。むしろ、1992年以降、現代的なグローバル化が拡大したからです。市場が拡大し、競争が激化すれば、物価に下落圧力がかかるということは、経済学の博士号を持っていなくても分かることです。

逆に、脱グローバル化の兆しが見え始めると、競争は減少し、物価に上昇圧力がかかります。FRBは依然として2%のインフレ目標を採用していますが、現在の環境ではやや時代遅れに思えます。3.0%や3.5%、あるいは大げさに言えば4%といった目標を採用すべきでしょう。

以下は、リチャード・バーンスタインのXのポスト:「投資家は目先の消費者物価指数(CPI)に気を取られているようだが、全体像を見ていない。長期的なコアインフレ率は上昇を続けており、金融政策は1960年代を彷彿とさせる事態に陥る可能性がある。」グラフ:コアCPIの5年間の変化率(年率換算)の推移を示している。

ここ5年間で、長期的なインフレ率は驚異的な上昇を見せています。誰もが、私たちは5年から15年前と同じ環境で生活していると考えています。ここで、政治的な主張と受け取らないでいただきたいのですが、脱グローバル化(国内回帰)によって、モノだけでなく労働力の供給も制約されています。そのため、賃金インフレがさらに加速する可能性も高まっています。

そして、人々は米国経済がいかに健全であるかを十分に認識していないように見えます。2025年第3四半期には、パンデミック後の時期を除けば15年ぶりに名目GDP成長率が約8%に達しました。この健全な経済状況に加えて、景気刺激策が実施されるでしょう。

以下は、リチャード・バーンスタインのXのポスト:「消費者は、もちろんガソリン価格の上昇を好まないが、歴史的に見ると、現在の価格は賃金水準に比べてまだ低すぎるため、需要の減少を引き起こすことはないだろう。」グラフ:青の折れ線は時給1時間(非管理職・非農業部門)に対するガソリン価格(米国全グレード・全配合小売り1ガロンあたり)の比率。黒は増減率、赤は±1標準偏差を示している。

ノートン:当然のことですが、この戦争は金利に大きな影響を与えています。今後の見通しはいかがでしょうか?

バーンスタイン:需要面だけでなく、あらゆる面に影響が出ています。全米独立起業連盟(NFIB)の調査によると、アメリカの中小企業の不確実性は統計上極めて高い水準に達しています。事業計画を立てることを阻害する深刻な問題です。雇用状況を見てもそれが分かります。解雇はそれほど多くありませんが、新規採用も同様に低い状態です。

好配当株式が魅力的だと考える

ノートン:さて、では市場のどの分野が割高で、どの分野が割安だとお考えですか? 例えばハイテク業界についてお聞きしたいです。

バーンスタイン:工業株や米国以外の株式についての質問ではないですね。失礼な言い方かもしれませんが、人々は少し視野が狭くなってしまっているように感じます。市場には無数の成長ストーリーがあるのに、誰も関心を持たないのです。というわけで、私たちは弱気ではありません。問題は、いわゆる「マグニフィセント・セブン」に対して、私たちは特別に強気でも、弱気でもなかったという点です。確かに立派な企業ですが、他にも同等かそれ以上のペースで成長している企業がたくさんありました。1999年のITバブル期には、S&P 500構成企業の平均利益成長率は30%に達していましたが、誰も気に留めませんでした。今、まさに同じことが起きているのです。

実際には、同程度の成長が見込め、配当利回りも期待できる銘柄を、はるかに割安な株価水準で手に入れることができます。過去数年間はそうはいきませんでしたが、今年はいくつかの理由から状況が好転しました。

第一に、FRBは市場予想ほど利下げできないということです。これは、市場から投機的な動きをいくらか抑制します。流動性は投機の生命線であり、FRBはその主要な供給源だからです。

第二に、不確実性です。不確実性が高まると、人々はより一層ファンダメンタルズに注目するようになります。もし15倍のPERで15%の成長が見込めるのと、30倍のPERで15%の成長が見込める株式があるとしたら、当然15倍の株式を選ぶでしょう。

第三に、インフレが根強く続いていることです。これも、市場の投機的な要素を抑制します。簡単に言えば、パンやガソリンが買えなくなれば、誰も仮想通貨に興味を示さなくなるからです。数四半期以上の期間を前提に投資を考えている投資家にとって、今はまさに絶好の機会だと言えます。

ノートンHALO株式(Heavy Asset, Low Obsolescence、大型資産を保有し陳腐化リスクの低い株式)について、どうお考えですか?

バーンスタイン:実のある話題だと思います。企業は成熟するにつれて配当を支払う傾向が強まります。配当利回りは、市場で最も過小評価されている要素の一つです。過去25年間トータルリターンベースでは、S&P配当貴族指数はナスダックと互角のパフォーマンスを示してきました。配当の複利効果は驚くべきものです。だからこそ、私たちのマクロ株式ポートフォリオにおける主要なテーマの一つは、配当です。

資本集約度が高いことは、キャッシュフローを生み出している限り問題ありません。しかし、キャッシュフローがない場合は廃業に向かう古い企業に過ぎないでしょう。キャッシュフローを生み出し、かつ配当を支払っている企業という見方は、市場で現在非常に過小評価されている側面です。

プライベート・クレジットの問題について

ノートンプライベート・クレジットの縮小は市場にどのような影響を与えていますか?

バーンスタイン:低格付けクレジットの長期的な見通しについては、100%理解しています。30年以上前、私は、低クオリティ株式と低格付け債券の組み合わせが、長期投資として非常に有望だといち早く論じた一人でした。

しかし、エントリーポイントは非常に重要です。誰もが突然、自分は長期投資家ではないと気づいたのです。過去1年間、マクロの視点に基づき、私たちは債券ポートフォリオで社債に一切投資していません。端的に言えば、クレジットスプレッドが極めて薄かったのです。私のキャリアの中で、クレジットスプレッドがこれほど縮小したことは3回だけでした。1回目は1990年代のアジア・ロシア通貨危機の前、2回目は世界金融危機の前、そして3回目は2022年のインフレ懸念の前でした。

これら3回とも、直後にクレジットスプレッドは急拡大しました。私たちは戦術的な債券ポートフォリオ・マネジャーであり、社債の保有をゼロにしていたため、周囲からは正気ではないと思われていました。しかし、結果的にはこの大きな災厄を免れたわけです。

現在の状況はシステミックな問題なのでしょうか。私たちは、デフォルトに対する保険であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドに注目しています。現在、テクノロジーセクターのCDSスプレッドは急激に拡大しています。私たちの懸念は、これが他のセクターにも波及しているか否かです。もし波及しているならば、それはシステミックな問題であり、経済全体に影響を及ぼしていると言えるでしょう。しかし、今のところ、そのような兆候はありません。テクノロジーセクターのCDSスプレッドは依然として非常に高い水準にありますが、他のほとんどのセクターのスプレッドは実際には縮小しています。

ポートフォリオにおける現金の役割

ノートン:あなたは、以前の「銃とバター」時代と同様に、現金が他の資産をアウトパフォームすると主張されています。

バーンスタイン:当社の株式のみで構成されるポートフォリオでは、キャッシュ比率を8%にしています。このキャッシュは他の部分から捻出したもので、通常は2%程度です。インフレ期に現金が相対的に良好なパフォーマンスを示す理由は、人々がパンやガソリンを買うために、より高いリターンを必要とするからです。1970年代のようなインフレの話をしているわけではありませんが、通常よりも少し多めの現金を保有しておくべきだという主張も一理あると言えるでしょう。◇

以下の表はバーンスタイン氏がグローバル株式ETF戦略で保有しているETFトップ10のリストである。

※ 本稿はモーニングスターの「Forget the 1970s; Here’s Why Richard Bernstein Says Investors Should Be Wary of 1960s-Style Inflation」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

文が優先されます。

※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針