投資家やアドバイザーは、モーニングスターのリタイアメント後の引き出しについての調査をどのように活用できるでしょうか?
まず、退職後に毎年の引き出し額の目安として使うべきではないことから始めましょう。
私たちは毎年この研究を見直していますが、2021年の研究結果に従ってある退職者が、2022年に(2021年の推計値、以下同様に前年発表の推計値)3.3%引き出し、2023年に3.8%、2024年に4.0%、2025年に3.7%、そして翌年には3.9%というように、各年の研究結果を反映して毎年異なる引き出し率を適用すべきだと言っているわけではありません。モーニングスターの最新推計値通りに毎年引き出し額を増減させることは、リタイアメント後のキャッシュフローに受け入れがたいほどの変動をもたらす可能性が高いと考えられます。
むしろ私たちの「基本シナリオ」は、退職者が退職開始時に一定の比率で資産を取り崩し、それを若干調整しながら毎年同水準の引き出し額を維持することを想定しています。例えば、2022年初頭に100万ドルの資産ポートフォリオから3.3%にあたる33,000ドルを引き出し、その後、その金額をインフレに合わせて調整するか、またはその他の方法で以降の引き出し額を調整していくといった方法です。
また、本調査を市場予測のように見るべきではありません。たしかにモーニングスター・マルチアセット調査チームの証券・投資銀行に関する想定を反映していますが、その予測は長期的なものであり、資産の取り崩しシミュレーションにはさらに長期的な30年という期間を前提として採用しているものです。「基本シナリオ」における最も安全な引き出し率は、株式比率30~50%のポートフォリオに対応して算出していますが、それは当社がモデルとしている引き出しの前提が極めて保守的なためです。私たちは、退職者がインフレ調整後ベースで毎年同額を引き出すことを想定しています。
むしろ、この調査は以下のような状況において、投資家やアドバイザーにとって最も価値のあるものとなる可能性があります。
活用法1:積極度/慎重度の目安として
本調査では、株式・債券市場のリターンとインフレ率について将来予測データを使用しているため、退職者が近い将来資産の引き出しに対してどの程度積極的あるいは慎重になるかを把握するのに役立ちます。
例えば、基本シナリオにおける安全な引き出し開始率は2021年後半は3.3%でしたが、それは退職後の生活で引き出しを抑制する準備をすべきだというシグナルでした。当時、債券利回りは極めて低く、株式の評価額は高かったためです。実際、ポートフォリオからの引き出しに慎重であることは、利回り・リターンの見通しとインフレの緩和という観点から有益なものでした。2024年、2025年の調査でも、安全な引き出し開始率は同様の水準を示しています。株式のバリュエーションは割安とは言えませんが、債券利回りはバランス型ポートフォリオにとってプラス材料となります。
活用法2:年齢によって変化する引き出し水準を確認する
さらに、本調査では年齢が安全な引き出し率に与える影響についても明らかにしています。他の条件が同じであれば、安全な引き出し率は年齢とともに増加する可能性があります。
基本シナリオのシミュレーションでは30年間の引き出し期間を想定しているため、新たにリタイアメントを迎えた従来の年齢層の退職者に最適ですが、本調査は数年以上退職生活を送っている方にとっても、支出計画の見直しに有益な指針を提供できます。 本調査では、20年(30年ではなく)の予想(余命)/引き出し期間を持つ退職者は、バランス型ポートフォリオの5%超を合理的に引き出すことが可能(その金額はその後インフレ調整できる)なことを示しています。さらに、引き出し期間を15年と想定すると、ポートフォリオの約7%を合理的に支出可能であり、その金額はその後インフレ調整が可能です。これとは対照的に、当社の「基本シナリオ」引き出しシステムを前提とした安全な初期引き出し率を推計する際に、早期退職をした場合はより慎重になる必要があります。例えば、基本シナリオでは、40年の期間をとった場合の安全な初期引き出し率の上限は3.3%です(ただし、本当にあと20年なのか15年なのか、という判断の難しさは常にあるでしょう)。
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活用法3:様々な引き出し戦略と資産配分に伴うトレードオフを理解する
本研究のもう一つの潜在的な活用法は、「基本シナリオ」のような固定的な定額引き出し戦略から、より柔軟な変動を伴うダイナミックな引き出し戦略まで、様々な引き出し戦略にどんなトレードオフがあるかを明らかにすることです。本研究の知見は、退職者の主要な変数に関する選好を踏まえ、アドバイザーや個人投資家が適切な引き出しシステムを特定するのに役立ちます。
生涯支出額:本研究で検討する柔軟な支出戦略のほぼ全てが、実質引き出し額を一定に保つ「基本シナリオ」と比べて、生涯引き出し額が増加します。これは、柔軟な戦略がポートフォリオの評価額下落後は引き出しを抑制し、多くの戦略で大幅な評価額上昇後に引き出し額増額を許容するからです。社会保障や年金などポートフォリオ以外の収入源から生活費の大部分を賄っている退職者にとって、柔軟な戦略は最適と言えるでしょう。
キャッシュフローの安定性:退職後においても、かつての給与と同様の安定したキャッシュフローの安定性を重視する退職者にとって、変動の大きい引き出し戦略、特に株式比率の高いポートフォリオは適切ではないでしょう。「基本シナリオ」のような定額引き出し戦略、あるいは引き出しを適度に調整する戦略の方が、より適していると考えられます。
遺贈について: 退職者は、生前贈与を含め、生涯を通じて消費を最大化したいと考えているのでしょうか。それとも、死後に家族や慈善団体にそれなりの遺贈を残すことが同じくらい重要なのでしょうか。継続的なポートフォリオ調整を制限する戦略、特に「基本シナリオ」は、最終的な資産残高を最大化する傾向があります。とはいえ、同様の目的を達成するより直接的な方法もあります。その一つは(当然のことながら)、退職開始時点で遺贈向けポートフォリオを、老後生活で使うためのポートフォリオとは別のバケツに分けて保有することです。
活用法4:包括的な退職後の資金計画作りに活かす
最後に、ポートフォリオからの支出は、退職後の資金計画というパズルの一つの要素に過ぎません。ほとんどの退職者は、ポートフォリオからの引き出しに加えて、社会保障給付(Social Security)を受けられるます。さらに、より少数の退職者は(企業または個人の)年金に頼ることができるでしょう。年金保険からの収入がある人や、何らかの形で働いて収入を得たり、不動産賃貸収入を得たりすることを望む退職者もいるでしょう。このようなポートフォリオ以外の収入源は、ポートフォリオからの引き出しと組み合わせることができます。
社会保障給付の受給開始を遅らせたり、何らかの基本的な年金保険を購入することは、生涯で使える資金を増やす助けになります。重要なことは、ポートフォリオからの引き出しでは得られない、予測可能なキャッシュフローを提供してくれることです。また、このような追加収入の中には生涯にわたって支払われ、退職者本人と配偶者にとって貴重な長生きリスクへを補うものもあります。このような戦略は、柔軟なポートフォリオからの引き出し戦略と組み合わせることで、特に効果を発揮します。
同時にこれらの戦略は、30年目に相続人や慈善団体に残せるポートフォリオの額を減らす可能性もあります。例えば、社会保障の受給開始を遅らせると、退職後の早い時期での引き出し額が多くなるかもしれません。あるいは、ポートフォリオの一部を年金保険購入にあてた場合には、早い時期にその分資産が減少します。いずれの選択も、生涯にわたるキャッシュフローは増加するものの、ポートフォリオの複利効果を得る機会を減らします。そのため、こうした戦略は、最後に遺産を残すことよりも、自身の消費(生前贈与を含む)を最大化したいと考える退職者にとって、より適しているものと言えます。 ◇
※ 本稿はモーニングスターの記事「How to Use Morningstar’s Retirement Income Research」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

