潔く撤退を:SECが『予測市場型ETF』を却下すべき理由

申請中のイベント契約連動型ETFは、新たな賭博の一種に過ぎない。

フォトコラージュのイラスト:アメリカ国旗のモチーフをあしらった連邦議会議事堂の屋根と、選挙や市場の不確実性を表す矢印。

2026年2月、ラウンドヒル社は、大統領選の勝者や議会上院・下院の支配権など「将来の出来事(イベント)の結果」によって収益が決まる「イベント契約(event contract)」に投資する6本のETFの登録申請を行った

申請されている6本のETFは以下の通り:

  • RPM 民主党大統領 ETF
  • RPM 共和党大統領ETF
  • RPM 民主党上院ETF
  • RPM 共和党上院ETF
  • RPM 民主党下院 ETF
  • RPM 共和党下院ETF

グラナイトシェアーズビットワイズなど、他の複数のプロバイダーもこれに続き、今後の大統領選や議会選に関連するイベント契約に投資する、『予測市場連動型ETF』の登録を申請した。

従来こうした契約はKalshiやPolymarketなどの賭けサイトの領域だった。しかし、もしこれらのETFが実現すれば、この種の契約が金融のメインストリームへと浸透することになり、投資家は「政府機関の支配権の行方」について、証券会社の口座から手軽に賭けられるようになる。

度重なる延期を経て、SEC(米国証券取引委員会)は、ラウンドヒルに対し登録申請済みのETFの立ち上げを見合わせるよう求めた。SECのポール・アトキンス委員長は声明の中で、申請されたETFは「かつてない課題」を提起していると述べ、どのように対応すべきかについて一般から意見を募るようSEC職員に指示した。

その趣旨を踏まえ、申請中のETFがどのように機能するものかを説明し、なぜSECがこれを却下すべきだと私が考えるのかについて、続く本稿で解説したい。

イベント契約の仕組み

まずはこのETFの基本となる「イベント契約」を見ていこう。この契約は、将来の特定のイベントの結果に応じて、一方の当事者が他方の当事者に支払いを行うという契約である。上記ETFでは、2028年11月の米国大統領選挙と2026年11月の上院・下院の中間選挙が、契約の対象となる「イベント」だ。

これらの契約は二者択一型である。イベントの結果が決まると、勝った側が保有する契約の価値は1ドルとなり、負けた側の契約は無価値となって失効する。つまり、イベント契約の当事者は、賭けの予想が外れた場合賭け金の全額を失うリスクを負うのである。

これらのETFは、主にトータル・リターン・スワップを通じてイベント契約を締結する。これは、参照資産の価値変動に基づいて、一方の当事者が、他方の当事者(通常はマーケットメーカーや銀行)とリターンを交換するデリバティブ契約である。この場合、ETFはスワップにおいて「イベント契約のリターンを受け取る」側となり、その見返りとして、相手方に変動金利とスプレッドを支払うのである。

イベントの結果は実際に起きるまで確定しないが、結果の発生確率に対する市場の予測が変化するため、契約の価値は結果が出るまでの間変動する。例えば、昨日50対50の確率と見られていた結果が、今日52対48に変化した場合、契約の価値は確率の差分である約4%上昇し、確率が低下した場合はその逆に動く。このように価値が変化するため、ETFの基準価額も変動するのである。

この仕組みを前提として、これらのETFにはいくつかの使い方が考えられる。たとえば、トレーダーは、ある時点でETFの価額に織り込まれているオッズ(基準価額の変動から推測できる)に対する自身の評価に応じて、売買を繰り返す可能性がある。あるいは、イベントの結果が確定するまで保有し続け、結果に応じた利益を受け取りたい人もいるだろう。

イベントが発生し、結果が判明して契約が決済された後も、これらのETFは運用を終了しない。それどころか、保有する資産をすべて、2032年の大統領選挙、2028年の議会選挙に対するイベント契約に組み替えるのである。

投資と賭けの違い

ある意味では、投資もまた、イベントと結果に左右されるものと言える。株式の場合、重要な「イベント」は将来のキャッシュフローであり、その時期と規模が企業の本質的価値を左右する。そのキャッシュフローは、売上高、費用、設備投資、負債、自己資本、その他相互に関連し合う多数のイベントや結果の産物である。

しかし、キャッシュフローの予測と、大統領選挙の結果を予想することでは、決定的な違いがある。キャッシュフローには、実際に(企業活動に裏付けられた)価値がある。予想より高い/低いといったブレはあるが、見通しが多少外れたとしてもすべてを失うことはない。

例えば、ある企業の利益成長が株価を押し上げると予測する単純な架空シナリオを考えてみよう。PER(株価収益率)は拡大も縮小もなく、発行済み株式数も変わらず、債務や設備投資も変化しないと仮定する。もしあなたの予測が楽観的すぎた場合――利益成長率が予想より低かった場合――投資は失敗でこれで終わり、となるだろうか?もちろん、そんなことはない。たとえ予想を下回ったとしても、1株当たり利益の成長に応じて株価は上昇しているはずだ。

この架空シナリオは、現実の市場を厳密に反映しているわけではない。個別の株式の値動きを予測するのは、バリュエーション倍率の変化や、多くの要因が影響するため困難である。だからこそ、私たちは多数の企業の株式に分散投資を行う。分散投資は企業固有のリスクを軽減し、投資した企業群の総利益成長率と株価の相関を活用する手段となる。

以下は、S&P500種指数(赤)と、1年間の1株当り利益の平均(青)の 1988年末から2025年9月末までの推移を示している。企業の利益成長と指数の相関関係が分かるだろう。

S&P 500種指数:指数水準と過去1年間の1株当たり利益の比較

一方「イベント契約」では、キャッシュフロー、分散効果、複利効果などのメリットは一切得られない。契約の本質的な価値は、イベント結果について予測が的中した場合のペイオフ、あるいはその間の発生確率の変化に由来する価格変動である。

また、一見似通った金融商品――例えば、投資家が一括で投資をする、ハリケーンや地震等特定の災害が発生しない限り、定期的な利払いと償還時の元本返還が行われる「CATボンド(カタストロフィー債)」など――とは異なり、イベント契約には実質的なキャッシュフローの流れはなく、投資資金も実体経済の中で生産的に使われることはない。

ゼロサム・ゲーム

政治的な事象であれその他であれ、将来のイベントの結果に賭けて、より直接的な収益を追求したい人々を、ここまでの説明で思いとどまらせることはほぼ不可能だろう。イベント契約は、こうした人々を悩ませてきた金利やインフレ率の水準や推移など、他の複雑な要因を考える必要はない。

イベント契約、ひいてはこうしたETFによって、イベントへの賭けがこれまでになく手軽になるかもしれにあ。であればこそ、投資家は賭けをする時点で、オッズにはその結果の発生確率が既に反映されているという事実を肝に銘じておく必要がある。それは、その「事象」がすでに価格に織り込まれているにもかかわらず、ある事象が株式に「プラス」に働くか、債券に「マイナス」に働くかと予想する行為と似ている。投資家は、そのシナリオが実現すれば、かなりの利益が得られると誤った期待を持って投資するが、思ったような収益は得られない。

申請中のRPM ETFは、選挙という非常に多くの人々の関心を集めるイベントに連動する契約を扱う。そのため、オッズの設定は極めて効率的だと考えられる。このオッズは当然、時間の経過とともに変化する。問題は、入手可能な情報を基にその変動を事前に予測できるかどうかである。

これは、株式や債券の短期的な価格変動を正確に予測しようとする時に直面する課題と似ている。それはほとんど不可能なことだ。しかし株式や債券なら、投資期間を長期に延ばせば、リスクに見合ったリターンを得られる可能性は高くなる。長期でのリターンは、長期債券の利回りに株式のリスク・プレミアムを加えたものに近くなる。繰り返しになるが、株式や債券にはプラスの期待リターンが存在している。

一方、イベント契約の場合は、契約締結時点での期待リターンは0%である。その理由を説明しよう。たとえば、対象となるイベントの確率(オッズ)がコイン投げと同じで、結果が1年後に判明すると仮定する。1年後に資金が倍になる確率は50%、すべてを失う確率も50%である。これはゲームとしては成り立つかもしれないが、資金の有効活用とは到底言えない。

これだけは確実:いずれにせよコストがかかる

申請中の予測市場ETFが承認された場合の費用については、予備登録届出書に記載がないため、現時点では不明である。

とはいえ、SECが申請通りの形でETFを承認した場合、少なくとも2つのコストが発生する。ETFの経費率と、イベント契約へのエクスポージャーを得るために利用するトータル・リターン・スワップに関わるコストである。

前述の通り、スワップ取引は、ETFがSOFR(担保付翌日物調達金利、最近は3.6%前後で推移)のような変動金利に加え、エクスポージャーの提供とリスクの保有に対する相手方への補償としてスプレッドを支払うような仕組みになると考えられる。

このスプレッドは、「アカデミー賞の司会者が誰になるか」といった、極めて特異でヘッジが難しいイベントに連動する契約ほど大きくはならないだろう。しかし、それでも100ベーシスポイントを超える可能性が高く、SOFRと合わせると、スワップコストは5%近い水準になるだろう。期待リターンがゼロの資産に投資するには、非常に高い代償である。

レンガの壁:超えてはならない一線

これら申請中の商品の基本的な特性や、投資家にとっての有用性について疑問を呈する私の主張は、無視さる可能性もある。何しろ私たちは、レバレッジ型個別株式ETF、仮想通貨ETF、ゼロデイ・オプションETFなどの時代に生きている。SECの懸念は、投資としての価値よりも、むしろ市場の健全性や、申請中のETFに対して現在の規制体制が十分なのかという懸念にあるのかもしれない。もしそうだとすれば、それは本稿の範疇を超えており、私の専門分野とも言えない。

とはいえ、そもそもETFや投資信託がこれほどまでに普及し得たのは、これまで築いてきた投資家の信頼と信用の賜物だと、胸に刻みこむ価値があるだろう。ETFや投資信託は、世界の市場への比較的低コストで信頼性の高い入り口であり、数兆ドル規模の富を生み出し、子供の大学進学や、退職後の安心で快適な生活といった重要な人生の目標達成に貢献してきたのである。

申請中の商品は、まさにその対極にある。これらはゼロサム・ゲームであり、資本形成の促進やイノベーションの活性化など、経済において生産的な役割を一切果たさない。また、コストがかさむ可能性が高く、投資家の心理を煽り、結果として損失につながりかねない。

こうした理由から、SECは明確に線引きを行い、イベント契約に投資するETFを政策として禁止すべきだと私は考えている。◇

※ 本記事に記載されている見解や意見は筆者個人のものであり、モーニングスターまたはその関連会社の見解を必ずしも反映するものではありません。

※ 本稿はモーニングスターの「Know When to Fold ‘Em: Why the SEC Should Reject Prediction-Market ETFs」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針