モーニングスターの推計では、米国のミューチュアル・ファンドとETF(上場投資信託)に投資した場合、2024年末までの10年間の平均で投資家リターンは年率7.0%だった。この投資家リターンは内部収益率計算のようなもので、この10年間の投資家によるファンド(含むETF)の売買を考慮している。
一方2024年末までの10年間、これらのファンドを最初に一括購入して保有したと仮定した場合のトータル・リターンは年率8.2%だった(下記棒グラフ中央)。投資家による売買を考慮した(金額加重の)年率リターンは前述の7.0%(同左)であるから、トータル・リターンを約1.2パーセントポイント下回っている(同赤)ことがわかる。この「ギャップ」つまりファンドそのもののリターンと実際に投資家が手にすると推計されるリターンの「ズレ」は、投資家が行うファンドの売買タイミングと、売買金額の規模によって生まれるものだ。
図表1: 米国オープンエンド・ファンドおよびETFの投資家リターンおよびトータル・リターン (2024年12月31日までの10年間)
これは、モーニングスターが毎年行っている『Mind the Gap』の調査から得られた重要な示唆である。レポートの全文(英語版)はこちらでご覧いただけるが、全文を読む時間がない方のために、この調査の2025年版が示す5つの重要なポイントを紹介する。
※ 本調査の2025日本版についての解説記事は以下からお読みいただけます。
日本語版も以下のリンクからレポート全文をダウンロードしてお読みいただけます。
リターンの「ギャップ」はなくならない
年率1.2パーセントポイントのリターンの「ギャップ」は、この期間のファンドのトータル・リターンの約15%(=1.2%/8.0%)にあたり、2020年から23年の各年末までの10年間で推計したギャップともほぼ一致している。言い換えれば、この「ギャップ」は何年も継続して起きている現象なのである。
図表2:10年間の投資家リターン・ギャップ
投資家へのアドバイス1: 投資家のリターンの「ギャップ」の原因が何であるかについては議論の余地があり、投資家の行動に起因するという指摘もあれば、投資家がファンドをどのように利用しているかなどをはじめとして、多数の要因が影響しているだろう。ただ、原因が何であれ、これはファンドの経費率と同様に投資家にずっと付きまとうコストのようなものだ。
とはいえ、投資家が最も安いファンドを探すことの重要性を学んだように、ファンドの売買について、その必要性、タイミング、そして本質を慎重に見極める投資家は、ファンドのリターンを可能な限り確実に取り込むことができる。
オール・イン・ワン > ビルディング・ブロック
ファンドのトータル・リターンに対して絶対値で最も大きなギャップを示して負けたのは、セクター株式ファンドに投資をしている投資家だった。
一方、アロケーション・ファンドの投資家は、ファンドのトータル・リターンに対して最もギャップが少なかった。年率6.5%のファンドのトータル・リターンに対して、その約97%を占める年率6.3%の金額加重収益率を獲得したのである。
図表3:カテゴリー・グループ別の年間投資家リターン・ギャップ(2024年12月31日までの10年間)
投資家へのアドバイス2:投資家は、ターゲット・デート・ファンドのようなオール・イン・ワン・ファンドにおいてトータル・リターンに近いリターンの獲得に成功してきた。一方で、セクター株式ファンドのような、単体または非戦略的な使われ方(※ポートフォリオの中で明確な位置づけを持たず、評判や射幸心で売買するなど)をする可能性が高い特化型ファンドでは苦戦している。つまり、資産配分や リバランスのような日常的な作業がファンドの機能として内包され、投資家が自分でメンテナンスをする必要がない、幅広く分散投資を行うファンドを、できるだけ本数を絞って保有することの有効性を示唆している。
投資家が売買すればするほど、リターンは低下する
ファンドの資金フローは、投資家によるファンド売買の状況を知る指標となる。資金フローの変動性が高いファンドは、より安定したファンドよりも金額加重収益率が低い傾向があった。
資金フローが最も安定している、つまり最も投資家が頻繁に売買を行わないファンドの金額加重収益率は、ファンドのトータル・リターンを年率0.8%下回ったが、これは、資金フローが最も不安定な(投資家が頻繁に売買する)ファンドの「リターンのズレ」より1パーセントポイントも少なかった。
図表4: キャッシュフロー・ボラティリティ五分位ごとの年間投資家リターン・ギャップ (2024年12月31日までの10年間)
投資家へのアドバイス3:投資家が売買すればするほど、ファンドのトータル・リターンと比較して金額加重収益率は低くなる。つまり投資家にとって重要なのは、売買行動を最小限に抑制することである。リバランスなど必要なルーチンを可能な限り自動化することは、これを実現する一助となる。
「特別」なものが成功につながるわけではない
ファンドのリターンがその運用スタイルに適したベンチマークからかい離する(TE:トラッキング・エラーが大きくなる)ほど、投資家リターンとファンドのトータル・リターンのギャップが拡大する傾向が明らかになった。
TEが最も小さいファンド群の金額加重収益率は、トータル・リターンとのギャップが年間1パーセントポイント未満での負けだったが、TEが最も大きいファンドでは、その差は2倍近かった。ファンドのトータル・リターンは同程度であったにもかかわらず、TEの大きさ別に5つに分けて見ると、TEが大きくなるほど金額加重収益率である投資家リターンは低下した。
図表5: トラッキング・エラー(TE)五分位ごとの年間投資家リターン・ギャップ (2024年12月31日現在までの10年間)
投資家へのアドバイス4:独自の投資戦略を持つアクティブ・ファンドにはメリットがあるかもしれないが、投資家が直面する潜在的なトレードオフの1つは、ファンドのトータル・リターンをどの程度獲得できるかという問題である。より特殊な投資を行うTEの大きいファンドは、投資家の判断力を試すもので、間違ったタイミングで売買しがちになり、その結果トータル・リターンとのギャップが拡大する可能性が高くなる。この傾向が、米国株式ファンドと課税対象債券ファンドで顕著であったことは注目に値する。
価格変動性が(またもや)投資家を混乱させる
ファンドの価格変動性(ボラティリティ)が大きいほど、投資家はファンドのトータル・リターンを獲得するのが難しくなる。このことは、ボラティリティの大きさ別に5つに分けて見ても、最もボラティリティの高いファンド群で、投資家リターンとトータル・リターンのギャップが非常に大きかったことからも明らかである。
図表6: 標準偏差五分位ごとの年間投資家リターン・ギャップ(2024年12月31日までの10年間)
投資家へのアドバイス5:ボラティリティの高いファンドほど投資家の心を乱し、タイミングの悪い売買のせいで金額加重収益率が台無しになる可能性がある。それだけでボラティリティの高い戦略を敬遠する理由にはならないだろうが、リターンの変動が大きいことで高パフォーマンスを夢見る投資家を誘発したり、急落によって投資家を売却に駆り立てたりする可能性があることを、肝に銘じるべきである。◇
※本稿はモーニングスターのJeffrey Ptakによる8月18日付記事「The More Investors Traded, the Worse They Performed」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。英語原文と翻訳に相違がある場合は原文が優先されます。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

