2015年1月1日には、1345本のオルタナティブ・ミューチュアル・ファンドが存在していた。これらのファンドは、ヘッジ、ショート、トレンドフォローなどの運用戦略をとり、「マルチ・オルタナティブ」、「マーケット・ニュートラル」、「アブソリュート・リターン」など華麗な名称がついていた。
こうしたオルタナティブ・ファンドのうち今も現役で運用されているものが何本あると思うだろうか?
答えは341本、それ以外の1000本以上がすでに清算または合併されており、きつい言葉で言うならば死亡率は75%であった。より詳しく見るために、2006年までさかのぼり、設定年別に存続または消滅したオルタナティブ・ファンド数を以下に示す。
オルタナティブ・ファンド設立年と存続・消滅の内訳
当然ながら、設定が古くなればなるほど、”死亡率”は高くなる。しかし、世界金融危機の頃にファンドが立ち上げられたにせよ、その後の数年間に立ち上げられたにせよ、私たちはこのような戦略のファンドが多数生まれては消えていくのを見てきた。
今日、運用会社が手数料の高いプライベート・エクイティやデット戦略を個人投資家に普及させようと鎬を削る中、流動性の高いオルタナティブ・ファンドに見られる乱発パターンは、投資家にとって3つの重要な教訓を含んでいると思う。
教訓その1:熱烈な宣伝文句に耳を貸さない
10年ほど昔のこと、運用会社はポートフォリオの大幅な値動きに対する緩衝材として機能すると言って、従来の資産配分には欠けている流動性の高いオルタナティブ資産の能力を大々的に宣伝した。オルタナティブ投資は、個人投資家がより強靭なポートフォリオを構築するための新たな道を開くものであり、旧来の方法は過去のものであると言われた。代表的な例を以下に挙げよう:
「過去5年間で、資産クラスの相関はますます高まっている。伝統的な分散投資アプローチでは、多くの投資家の不安を和らげるのに十分な「ショック・アブソーバー」を効果的かつ一貫して提供できない可能性があると考える。ポートフォリオの安定性を向上させたいと考える投資家やアドバイザーは、「より強力な分散投資」、すなわちオルタナティブ投資戦略を通じて投資対象を新たな分野に拡大することを検討すべきであるというのが我々の意見である」
「新たな選択のための新たな選択肢:リキッド・オルタナティブ導入事例」; Envestnet PMC; 2012年12月
これが当時言われていたことで、誇大広告はまさに誇張された宣伝に過ぎなかった。しかし、運用会社による「プライベート市場の開放」についてのキャンペーンには、こうしたかつての広告と同様の響きを聞きとることができるだろう。当時と同様に、今また新たな分野の「民主化」が語られ、資産クラスのさらなる分散とリスク調整後リターンの向上をもたらす可能性が声高にもてはやされている。
プライベート市場へのアクセス拡大に向けた動きは、もしかしたら個人投資家にとって利益をもたらすかもしれない。しかし、プライベート市場投資に伴う高い手数料や複雑な手続き、そして内包される流動性の低さなどを考慮すると、売り手側には、(私やあなたのような)リテール投資家向けの運用で示した確たる実績に裏打ちされた、説得力のある事例を示す責任があるはずだ。
それまでは、あまり気にせず宣伝は聞き流しておこう。
教訓その2:至る所で賛辞が聞こえたら、一歩引いて間合いをとろう
先のグラフを見れば、10年ほど前に運用会社による流動性の高いオルタナティブ・ファンドの設定が過熱していたことが分かるだろう。例えば、2014年だけで302本のオルタナティブ・ファンドが新規設定され、そのうち今も生き残っているのはわずか54本。それ以外の大部分は設定から5年以内に運用を停止している。
2014年にローンチされ、その後死亡したオルタナティブ・ファンドの寿命の内訳
セミリキッド・ファンド(半流動性ファンド)の分野でも、同様の傾向が見られる。
近年、テンダーオファー・ファンド(以下の棒グラフ、オレンジ)、インターバル・ファンド(同赤)、事業開発会社(同青)などが続々と設定・設立されている。私の同僚たちが、その成長を分かりやすく記録しており、最近の「セミリキッド・ファンドの現状2025(英語)」というレポートを出している。以下のグラフは、そこから引用している(縦軸はファンド数、黄緑はREIT)。
セミリキッドファンド募集(ビークル別、年別

流動性のあるオルタナティブ・ファンドとは異なり、半流動性ファンドが清算されたり合併されたりする心配はない。半流動性ファンドはエバーグリーンと言われて投資家は好きな時に購入できる。ただし、引き出し可能額に制限を設けることで、ファンドが運用に必要な資産規模を維持し、破綻リスクを軽減している。
しかし、たとえファンドが生き残ったとしても、将来のパフォーマンスの問題が残る。結局のところ、オルタナティブ・ファンドの新規設定ラッシュは、(その投資先である)ヘッジファンドの運用成績が下降し始めた矢先に起きたのだ。
以下のチャートは、ヘッジファンド指数(折れ線グラフ赤)と米国株式60%/米国債券40%ポートフォリオ(同、黄)の60ヵ月間ローリングのリスク調整後リターン(例えばシャープレシオ)を比較したものである。リテール向けファンド設定との関係を見るために、ローリング期間の直後の1年間に設定されたオルタナティブ・ミューチュアル・ファンドの数(棒グラフ青)を重ねている。
12ヵ月間ヘッジファンド指数と米国株式比率60%債券比率40% のシャープレシオとオルトファンド運用開始本数の比較。
グラフから明らかなパターンを読み取ることができる。金融危機の直前、ヘッジファンド指数が株式60%債券40%のバランス型指数に対して圧勝し、それに呼応して運用会社は多数のオルタナティブ・ファンドを設定した。ところが、多数のファンド設定とほとんど同時にパフォーマンスが逆転し、その後は60/40のバランス型指数がほぼリードしたのである。
プライベート市場ファンドがオルタナティブ・ファンドと同じ運命をたどるとは限らない。以前にも書いたように、プライベート・ファンドのリターンには大きなばらつきがあると予想され、パフォーマンスが必ずしも均一になるとは限らないからだ。そうは言っても、蛮勇よりも慎重を期し、期待感を抑制することが重要である。
教訓その3:リターンが魅惑的に見えるほど、より深く掘り下げて理解しよう
プライベート市場への投資の大きなセールスポイントのひとつは、高いリスク調整後リターンを生み出す可能性があることだ。
彼らはどのようにしてそれを成し遂げているのだろうか?確かに、才能、リソース、その他の利点をこれらのマネジャーは豊富に抱えている。しかし、少なくとも部分的には、投下資の計画的な配分、投資対象の長期保有、そして断続的にポジションを調整することでリターンを平滑化する能力によるものでもある。
こうした運用の鍵となるのは、投資家を閉じ込める――つまり投資資金を縛り付けることだ。プライベート市場投資では、前述の「インターバル」ファンドのような特定の例外を除き、通常は何年間も資金を投資し続けることになる。
ここでもオルタナティブ・ファンドの歴史が参考になる。
2009年1月1日から2014年12月31日までの間に、投資家は1170億ドルの資産をオルタナティブ・ファンドに注ぎ込んだ。しかしその後数年間、多数の投資家が期待外れのパフォーマンスに見舞われ、資金を失っていった。
オルタナティブ・ファンド12ヵ月ネットフロー ($B)
投資家は明らかに、これらのファンドの市場全体との相関性の低さ、もっとわかりやすく言えば株式や債券が暴落したときに、オルタナティブ・ファンドなら暴落を回避できるという触れこみに魅力を感じていた。しかし、そうした結果を生む基本的な運用の特性として、市場急騰時にファンドが劣後する潜在的な可能性が運用手法に組み込まれていることを見落としていた。まさにそれが現実となった。
この悲劇が展開するにつれて、多くの投資家がファンドから撤退した。当社の調査によると、その結果、オルタナティブ・ファンドに投資していた投資家のリターンは惨憺たるものとなった。
プライベート市場投資では、個人が投資から撤退するという選択肢はおそらく無い。そのため、他の目的で資金が必要になったり、購入を後悔した場合でも、他の資金源、例えば上場株式や債券など他の資産から資金を捻出しなければならない。
重要なのは、表面的な魅力だけでは何も判断できないということだ。オルタナティブ・ファンドの投資家は、自分の投資が不適切であると判断した場合、少なくともその保有商品から手を引くことができた。しかし、プライベート市場ファンドの投資家には逃げ道は無い。だからこそ、根底にある投資手法が、ファンドが喧伝するリスクとリターンをどのように生み出すのか、またそれに伴うトレードオフがどのようなものなのかを、深く掘り下げて理解することがより重要になる。
<ご参考>
筆者が読んだり、聴いたり、見たりしているものを以下に紹介しておくので、ご関心があれば:
- ポッドキャスト「Value Investing With Legends」:セス・クラーマン、クリフ・アスネス、ケント・ダニエルが登場
- ポッドキャスト「The Long View」:クリスティン・ベンツとダン・レフコヴィッツが 伝説のクオンツ投資家クリフ・アスネスと対談。
- ポッドキャスト「 Acquired 」:ジェイミー・ダイモンが語る現代銀行業務の妙技。
- 「Wall Street’s Big, Bad Idea for Your 401(k)」:ジェイソン・ツヴァイクがWSJで、評価に向き合おうとしないインターバル・ファンドのいくつかに踏み込む。
- 「事情聴取でライコスは、試験監督が彼の手を撮影する必要があると述べたとき、指の間の文字が見えないように指を舐めたりこすったりし始めたことを認めた」:ここしばらくで読んだ中で、最も興味深いSECの報告書。FINRAの資格試験におけるカンニング事案について。
- 誤解された興行主:ピーター・グラルニックがエルヴィスの長年のマネージャー、トム・パーカー大佐についての新著について語る。
- プロジェクト・ヘイルメアリー アンディ・ウィアー著。「火星の人」(映画「オデッセイ」)の原作者の話題の小説。
- 「ロイター(2006リマスター・ヴァージョン)」 Wireによる終末の歌。
※ 本稿はモーニングスターによる「75% of Alternative Mutual Funds Have Died. There Are Lessons in That for Would-Be Private Market Investors」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

