オスカー候補の短編アニメ映画が教えてくれたリタイアメントで本当に大切なこと

ネタバレ注意!:お金とは何の関係もない大切な真実

アイコンや図形を組み合わせた、エイミー・アーノットのフォトコラージュイラスト

「えっ、何?リタイアメントを題材にした映画がアカデミー賞にノミネートされたんですか?」

ポッドキャスト『Stacking Benjamins』のホストであるジョー・ソール=シー氏が、短編アニメ映画『Retirement Plan』の存在を教えてくれたとき、私はそう返しました。普段は「安全な取崩し率」などのありふれた話題の文脈で語られる退職後の計画が、どうすればエンターテインメントになるのか、ましてやアカデミー賞にノミネートされるなんて、想像もできないことでした。

結局、この映画はアカデミー賞を受賞できませんでしたが、すでにいくつかの映画祭で最高賞を受賞しています。私は確かにこの作品に心を動かされました。ありきたりな表現ですが、文字通り笑ったり泣いたりしました。『Retirement Plan』をもう一度観た後、退職後、あるいは退職を控えて準備中の友人や家族にもこの映画を勧めました。

この短い映画が私に教えてくれ主なポイントをご紹介しましょう。

新たな体験に挑戦する

映画全体のトーン――音楽、ナレーション、そして内容――は、哀愁を帯びています。しかし、一つの前向きなメッセージは、リタイアメントという時期こそ、現役時代は忙しすぎたり、恥ずかしかったりして手を出せなかった活動に挑戦する絶好の機会だということです。

退職後の生活が進むにつれ、主人公のレイはバードウォッチングや詩作をはじめ、さらにはマイクロドージングのような怪しげな活動にまで挑戦していきます。春にどの花がいちばん初めに咲くかをひたすら待ちながら観察するといった、浮世離れした体験もあります。パラグライダーやキャンプなどの活動は、あまり上手くいきません。しかし重要なのは、レイが挑戦し続けていることです。

研究によれば 新しい活動に挑戦することは、健康的に年をとることに有効なことが示されています。これは、心の中で「すること」と、それよりもはるかに長い「しないこと」と単純に振り分けたリストに囚われてはいけない、と改めて思い出させてくれました。

人とのつながりを重視する

あまり前向きな印象ではないのですが、この映画で最も心に残ったのは、レイの孤独でした。彼がこれほど多くの活動を独りで続け、最終的には孤独に老いて最後を迎える姿は、観る者をやりきれない気持ちにします。

友人との夕食やハイキングは無いし、丹精込めて作られたイタリア料理を味わうのにグラスを合わせるパートナーや相棒もいません。レイは、最高の自分になるために退職後の生活に全力で取り組みますが、いっしょに失敗を笑い飛ばしたり、成功を祝福したりしてくれる人は誰もいません。

そして実際、 健康で充実した人生を送るための要因を調査した研究は、決定的なただ一つの要素があることを示しています。それは『人間関係』、つまりあなたが愛し、あなたを愛してくれる人々とのつながりです。孤独な人は、実りある人間関係を持つ人よりも幸福度が低いだけでなく、健康状態も良くないことが多いのです。こうした人間関係はまた、 生きる目的や、この世界で「自分には意味がある」という自己肯定感を醸成しますが、これが充実した老後を送るためのもう一つの鍵となります

人付き合いが苦手な人にとって朗報があります。人とのつながりと言っても、必ずしも広い人脈を持つ必要はありません。何十年にもわたって成人の心身の健康状態を調査してきた「ハーバード成人発達研究」の責任者であるロバート・ウォルディンガー氏は、「 たった一つでも確かな人間関係さえあれば、心身の健康に大きな影響を与える可能性がある」と述べています。

そして心強いことに、人間関係を築き、深めるのに遅すぎることは決してありません。「何千人もの人々を追跡調査した結果、『自分は人間関係が苦手だ』と考え、もう手遅れだと思っていた多くの人が、思いがけないタイミングで人間関係を築いていたことが分かりました」とウォルディンガー氏は語っています。

リタイアメント・プランはお金だけの問題ではない

私の身の回りの業界、そしてもちろんここMorningstar.comにおいても、退職後の生活設計をお金と同一視しがちです。十分な資金はあるか、どう投資するか、どう使っていくのか、そして自分が残したお金を誰が受け取るのか、と論じます。しかし驚くべきことに、『Retirement Plan』というタイトルとは裏腹に、この短編アニメは金銭的な問題にはほとんど触れていません。この映画が焦点を当てているのは「時間」です。時間をどのように過ごすのか、そして、たとえ退職当初は重要だと思った活動に多くの時間を費やしたとしても、時間は指のすき間からこぼれていく砂のようにあっという間に過ぎ去ってしまうということです。

「現世での時間配分」の方が「ポートフォリオの資産配分」よりもずっと重要だという主張に、私は深く共感しています。

先延ばしは禁物

最後に、私がこの映画から得た最も重要で切実なメッセージは、『退職後にやるべきことを山ほど溜め込まない』ということでした。レイには、現役中は時間がなくてできなかった事がいっぱいありました。写真の整理から体形を整えること、世界旅行に至るまで、「やりたい事」の長いリストを抱えてリタイアしたのです。しかし、物語が進むにつれて、時間は彼の味方ではないことが分かります。彼は、元気なシニアから 瞬く間に高齢者へと変わってしまうのです。

この映画のメッセージは、退職後は情熱を追い求め、楽しみ、それまで時間がなくてできなかったことに取り組むのに最適な人生の段階ではあるけれど、そうした活動を先延ばしにするのは間違いだということです。未来に何が起きるかは誰にも分かりません。大きな抱負を抱いて退職したものの、その後すぐに健康上の問題に見舞われてしまったという人を、おそらく誰もが思いうかべることができるでしょう。

だからこそ、私はますます、退職後の最良のモデルは「突然の完全な退職」ではなく、「徐々に仕事を離れる」移行だという確信を強めています。つまり、緩やかに仕事から距離を置きつつ、自分の情熱を追求するための時間の余裕を、より早い段階から自分に与えることです。この映画は、時間ほど貴重なものはないということを私たちに改めて教えてくれます。◇

※ 本稿はモーニングスターの「What an Oscar-Nominated Short Film Can Teach Us About Retirement」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

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