長年にわたり、プライベート・クレジット市場は活況を呈し、機関投資家は堅調なリターンを享受してきた。しかし、資産運用会社が個人投資家に向けてプライベート・クレジットの販売を本格化し始めた矢先、暗雲が立ち込めつつある。原因のひとつはAIが、資金の主要な借り手であるソフトウェア企業に悪影響を及ぼすことへの懸念である。ここ数か月、プライベート・クレジット・ファンドの運用実績に関する報道を受けて、個人投資家がファンドから資金を引き上げようとする動きが強まっている。
プライベート・クレジットおよびバンクローン市場の現状を把握するため、ピッチブックのクレジット、米国プライベート・エクイティ調査部門グローバル責任者であるマリーナ・ルカツキーに話を聞いた。彼女は、ピッチブックで米国・欧州のレバレッジド・ローン、ハイイールド債、プライベート・クレジット市場に関する調査・分析を統括している。クレジット(信用)の質に関する最新レポートが先頃発表されたことを受け、ルカツキーに、この調査で明らかになったプライベート・クレジット市場の懸念材料とは何か、債権者が保有するローンをどのように評価しているか、そしてなぜ「2028年」が注視されているのかについて解説してもらった。(聞き手はモーニングスターのシニア・エディトリアル・ディレクターのトム・ラウリチェラ)
※ 本インタビューは、分かりやすさと長さの調整のため一部を抜粋して編集している。
トム・ラウリチェラ:まずは全体像から聞かせてください。プライベート・クレジットやバンクローン市場において、「クレジット(信用)の質」はどのような状況にあるのでしょうか?
マリーナ・ルカツキー:ピッチブックのデータによると、「綻(ほころ)び」が生じ始め、財務的なストレスが高まっていることが分かります。BDC(事業開発会社)のポートフォリオ内において何らかのプレッシャーにさらされている企業の数は、企業全体の数よりも速いペースで増加しています。とはいえ、ストレスが爆発的に高まっているわけではなく、徐々に高まっているという状況です。しかし、プレッシャーが増していることは確かです。
ラウリチェラ:ソフトウェア企業への懸念が引き金となり、この件は大きな注目を集めています。問題の兆候が見られるのはその分野だけなのでしょうか、それとももっと広範囲に及んでいるのでしょうか?
ルカツキー:範囲はさらに大きいです。BSL(大型シンジケート・ローン)市場であれ、プライベート・クレジットであれ、ソフトウェア業界が最大の借り手セクターとなっています。しかし、流動性の高い市場においては、ソフトウェア関連ローンとそれ以外のローンのパフォーマンスには大きな格差が見られます。プライベート・クレジットの借り手を分析したところ、昨年末時点では、サービス業の借り手の方が、ソフトウェア業の借り手よりも経営状況が厳しいケースが多かったのです。
以下はピッチブックのデータによるBDCの借り手の信用リスク別企業数です。赤:非稼働(利息不計上)、ピンク:資金難ーフェアバリュー80%未満、オレンジ:フェアバリュー低下、黄色:警戒シグナル、を示しています。
機関投資家からの資金流入が、依然として個人投資家からの資金流出を上回っていることは明確にしておくべきでしょう。しかし、現在私たちが経験している激動は、間違いなく市場の需給バランスに影響を与えています。個人投資家に大きく依存している貸し手は事業規模を縮小しており、それがローン案件への需要に影響を及ぼしています。また、多額の解約請求に直面しているファンドは、資金の投入(特定のローンへの資本配分)を鈍化させており、これもローン案件に対する需要に影響を与え、ひいては需給バランスに影響を及ぼしています。
これは、昨年を通じて続いてきた、借り手が主導権を握っていた状況に変化が生じていることを示しています。その状況は、スプレッドの大幅な縮小、融資条件の緩和、そして借り手にとって非常に有利な条件という形で表れていました。しかし現在では、そのバランスが再調整されつつあり、貸し手側の影響力が強まっています。貸し手は相手をより厳選するようになっており、スプレッドも若干拡大しています。ソフトウェアなどのセクターが加わると、そうした取引を成立させることはさらに困難になります。
ラウリチェラ:そうした環境で、融資の減少が見られますか?
ルカツキー:第2四半期の数字は第1四半期に比べて大幅に減少しており、その背景には複数の要因があります。その一つは、レバレッジド・バイアウト(LBO)全体が鈍化したことです。プライベート・エクイティのスポンサーによる買収件数が減少すると、必要な資金調達額も減るため、プライベート・エクイティによる買収案件も大幅に減少します。その結果、シンジケート・ローン市場と直接融資(ダイレクト・レンディング)のいずれも、必要とされる融資が大幅に減少しました。
ラウリチェラ:信用の質の問題についてですが、業界の幹部は、これは単なるメディアによる誇張報道に過ぎず、債務不履行率は決して深刻な水準ではないと繰り返し述べています。しかし、一方で、PIK金利の利用増加など、ストレスの兆候を指摘する声もあります。PIK金利とは何か、なぜそれが重要なのか、そしてピッチブックの調査ではどのような状況が確認されているのか、説明していただけますか?
ルカツキー:PIKとは「Payment in Kind(現物払い)」の略で、企業が現金で利息を支払うのではなく、その利息を元本に加算することで(場合によっては株式や優先出資持分などで)支払いを繰り延べる仕組みです。例えば利息が10ドルの場合、私にその10ドルを支払うのではなく、その10ドルが元本に上乗せされ、債務の満期時に一括して支払われることになります。すべてのPIKが悪いというわけではありません。例えば、企業が成長段階にあり、買収のために現金を温存する必要がある場合などです。一方、問題となるPIKとは、企業の業績が明らかに低迷しており、現金で利息を支払えないためにPIKを利用せざるを得ない場合です。
ラウリチェラ:そうしたPIKの悪いケースが増えているのでしょうか?
ルカツキー:私たちの調査では、さまざまな要因を分析しています。市場シェアも確認していますが、データからはPIKを伴うローンの割合は前年比で比較的安定しています。これはプラスの要素と言えます。しかし、そうしたPIK付きローンの適正価値は低下しており、対象企業の多くはソフトウェアセクターに属しています。
また、私たちはPIK単独ではなく、PIC(Paid-in-Capital、追加出資による資本注入)や、利率の変更、満期の延長、フェアバリューの変動なども併せて見ています。これら複数の指標を組み合わせることで、より一貫性のある全体像を把握できるからです。その全体像は、何らかの圧力に直面している企業が増えているということを示しています。まだ経営破綻や債務不履行の状態にはありませんが、借り手には信用面での圧力がかかっており、リスクが高まっていることを示唆しています。つまり、特定のひとつの要因が問題なのではなく、全体にじわじわとリスクが高まっている状況なのです。
ラウリチェラ:一部のローンについて、評価額を引き下げるというお話ですが、引き下げの規模はどの程度でしょうか。過去と比べてどのような状況ですか。
ルカツキー:現在、BSL市場におけるソフトウェア関連のローンのフェアバリューは、1ドルあたり86セント前後の水準にあります。プライベート市場では、それよりも高い水準を維持しています。プライベート市場におけるフェアバリュー引き下げの動きは、流動性の高い市場ほど劇的ではありませんが、過去数四半期に比べると、より大きなものとなっています。
以下は、2025年末時点(ピンク)と2026年3月末時点(赤)の借り手についてセクター別のシェア示しています。
ラウリチェラ:他にどのようなトピックに注目されていますか?
ルカツキー氏:「満期の壁(マチュリティ・ウォール)」は、我々が非常に注視している点です。2028年には、約400億ドルのソフトウェア関連融資が満期を迎えます。重要なのは、この満期を迎えるローンの、かなりの割合を占めているのが、Bマイナス格以下の低格付け企業だという点です。この「壁」の50%以上が、市場の中でもよりリスクの高い部類に属しています。
こうした企業は、すでに高いレバレッジ(負債比率)を抱えており、現在は金利の高止まりが続いているため、多額の利払いを強いられています。こうした圧力がかかっている一方で、Bマイナス格の企業に対する投資意欲は昨年ほど高くありません。貸し手は、特にソフトウェア関連企業に対して、借り換え(リファイナンス)に応じることに消極的になっています。
ラウリチェラ:これらの融資は、基本的に金利がゼロだった時期に実行されたものですね。
ルカツキー:その通りです。2021年当時、金利はゼロでした。現在、金利は大幅に上昇しており、元々レーティングが低い企業は、より重い債務負担に直面しています。リスクとなるのは、貸し手が借り換えに応じない、あるいは借り手にとって受け入れがたい利率でしか応じないという事態です。どちらの場合でも、借り手は「借り換えができないまま満期を迎える債務をどうするか」という決断を迫られることになります。
ラウリチェラ:そうすると、債務不履行(デフォルト)が相次いだり、企業が売却されることになる可能性があるのですか?
ルカツキー:はい、その通りです。「アメンド・アンド・エクステンド(条件変更による返済期限の延長)」が行われる可能性があります。これは、貸し手がより高いクーポン(金利)と引き換えに、債務の返済期限延長に合意する仕組みです。また、投資ファンドなどプライベート・スポンサーが自己資本を追加投入して債務の一部を返済することで、貸し手のリスクを抑えるという方法もあります。借り手は別の市場に目を向けることも可能です。シンジケート・ローンを抱えている場合、プライベート・クレジットの貸し手が借り換えに応じる可能性もあります。しかし、ここでも問題は「どのような条件で」応じてくれるのかということです。利率が極めて高く、到底支払えないような水準ならば、結局は債務再編やデフォルトというシナリオに戻ってしまうことになります。
ラウリチェラ:これまでの話をまとめてみましょう。プライベート・クレジットや銀行シンジケートローン市場の現状について、投資家はどのような点を理解しておくべきでしょうか?
ルカツキー:両市場における重要なテーマは「二極化」です。市場は「持てる者」と「持たざる者」に分かれており、現時点ではソフトウェア業界は「持たざる者」の側にあります。あらゆる貸し手がリスクの再評価(リプライシング)を進めています。彼らはすべての借り手に対して「AIによって打撃を受けるのか、それとも恩恵を受けるのか」「AIへの対応で先行しているのか、それとも遅れをとっているのか」という視点で、それぞれの借り手を精査しています。結局のところ、融資の本質は与信だからです。シンジケート・ローンであれ直接融資であれ、融資審査のプロセスは非常に似通っており、貸し手は借り手の信用力を評価するのです。◇
※ 本稿はモーニングスターの「PitchBook’s Lukatsky on Where Cracks Are Appearing in Private Credit」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

