優れたファンドに投資すれば、優れた投資成果を得られるとは限りません。実際には、同じファンドに投資していても、投資家によって得られるリターンに差が生じます。その違いを生み出す大きな要因の一つが、売買のタイミングです。
モーニングスターの「Mind the Gap」調査では、ファンドを購入して保有し続けた場合のリターンである「トータル・リターン」と、投資家の実際の資金流出入を考慮した「インベスター・リターン」を比較しています。この両者の差を「ギャップ」と呼び、投資家行動が投資成果にどのような影響を与えているかを分析しています。本記事では、2026年版の調査レポートをもとに、日本の投資家行動を見ていきます。
日本市場ではギャップが小さい
2026年版の日本調査でまず注目したい点は、日本市場では全体的に「ギャップ」が小さかったことです。過去3年、5年、10年のすべての期間でインベスター・リターンはトータル・リターンをわずかに下回ったものの、その差は小幅にとどまっており、海外市場と比較しても投資家の売買タイミングによる負の影響は限定的でした。
日本市場におけるトータル・リターンとインベスター・リターン
背景の一つとして考えられるのが、新NISAを通じた積立投資の広がりです。積立投資は、市場の上昇局面でも下落局面でも機械的に買付を続けるため、市場の動きに左右されるような投資行動を抑えることができます。
米国でも、継続して投資を行うことの重要性が示されています。2026年の米国版Mind the Gapでは、過去10年間において平均的なインベスター・リターンはファンドのトータル・リターンを年率1.2%下回ったものの、規律的な投資を続けた投資家ほどファンドのリターンをより多く享受できていたことも示しています。
ギャップに関する二つの変化
今回の調査では、昨年の調査から、二つの特徴的な変化が確認されました。
一つ目は、株式型ファンドの投資期間10年のギャップが、プラスからマイナスへ転じたことです。昨年の調査では株式型ファンドで正のギャップが観測されていましたが、今回は全期間で小幅な負のギャップとなりました。これは、過去に日銀が実施したETF買い入れによる押し上げ効果が、時間の経過とともに薄れてきたことが主な要因であり、投資家行動の悪化を示すものではないと考えます。
二つ目は、公募投信をアクティブ運用とインデックス運用に分けて見ると、インデックス・ファンドは総じてアクティブ・ファンドを上回る結果となったことです。特に株式型のインデックス・ファンドでは、多くの期間でインベスター・リターンがトータル・リターンを上回る正のギャップが観測されています。
アクティブ・インデックス別のギャップ
背景には、新NISA開始後の継続的な資金流入があります。世界株式や米国株式のインデックス・ファンドに積立投資を行う投資家が増え、その資金流入が市場上昇局面と重なったことで、平均的な投資家のリターンが押し上げられました。
米国版Mind the Gapでも、ターゲットデート・ファンドなど自動的な資産配分や積立投資を活用する投資家の成果が良好であることが報告されています。市場予想や売買タイミングに頼るのではなく、規律的な投資を続けることが成果につながるという点は、日米共通の傾向と言えるでしょう。
依然として残る「テーマ・ストーリー投資の罠」
新NISAを背景に投資家にとって良好な結果が観測された一方で、それが全ての投資家に当てはまるわけではありません。
アクティブ・ファンドをカテゴリ別に見ると、外国株式の特定テーマ・セクター型、テクノロジー株式型ファンド、インド株式型ファンドなどで大きな負のギャップが観測されました。共通するのは、テーマ性やストーリ性を強く持っていることです。好調なパフォーマンスが続くと資金流入が加速し、その後の調整局面で資金流出へ転じる傾向があります。これらのファンドでも、テーマやストーリーに惹かれて価格上昇後に購入し、その後の調整局面で売却する投資家が少なくありません。その結果、インベスター・リターンがトータル・リターンを下回る傾向が見られます。
アクティブ・ファンド内ギャップ上位・下位10カテゴリ
米国でも同じような状況が確認されています。暗号資産ETFのインベスター・リターンはトータル・リターンを大幅に下回り、価格上昇後に投資家が参入し、その後の下落で資金を引き揚げるという行動パターンが観測されました。
日米で大きな負のギャップが観測された投資対象は異なりますが、「人気になってから買い、下がってから売る」という投資家行動は日米ともに見られました。
投資成果を高める鍵は変わらない
高いパフォーマンスを示したファンドを追いかける行動や、市場の短期的な動きに反応した売買は、投資家のリターンを押し下げる傾向があります。一方で、長期・分散・積立という基本を守りながら投資を続ける投資家は、その影響を受けにくい傾向があります。
新NISAの普及によって、日本ではこのような規律的な投資行動が以前より定着しつつあります。今回、日本市場における負のギャップが比較的小幅にとどまったことは、その効果が少しずつ表れ始めている可能性を示しているのかもしれません。
今回の日本版と米国版の調査から見えてくるメッセージは非常にシンプルです。投資成果を高めるために特別なテクニックが必要なわけではありません。多くの投資家にとって重要なのは、市場の動きに振り回されず、自ら決めた投資方針を継続することです。良いファンドを選び、投資を続けること。この両方がそろって初めて、ファンドのリターンが投資家自身のリターンとなるのです。◇
※ 本稿はエクイティ・リサーチによるレポート「Mind The Gap(リターンのズレにご注意)日本版 2026年」を基に構成したものです。

