個人投資家に広がるプライベート資産投資

見えにくいリスクとコスト。プライベート資産について分かりやすく解説

An illustration of an eye-shaped icon looking through a keyhole at a gated landscape, symbolizing the private market, with a financial building and chart representing the public market on a teal background.

これまで個人投資家の資産運用は、上場企業の株式、国債や社債なの債券、またこれらを組み合わせた投資信託が中心でした。近年では、その選択肢が、「プライベート資産」と呼ばれるものへ、拡がりつつあります。

プライベート資産投資とは、非上場企業や企業向け融資、不動産、インフラなどへの投資で、従来は機関投資家や超富裕層など、一部の投資家のみが行うものでした。これが、近年個人投資家も投資できるようになりつつあり、日本でも2023年頃から関連ファンドの設定が増え、2026年3月末時点では残高が1.5兆円を超える規模にまで成長しました。

日本の個人投資家向けプライベート資産ファンドの残高推移

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なぜプライベート資産に投資するのか?

プライベート資産は、大きく4つに分類できます。

株式投資に該当するものが「プライベート・エクイティ」で、非上場企業の株式を取得し経営に直接関与することで、企業価値を高めてその株式をIPOや売却することで利益を得ます。

債券投資に該当するものが「プライベート・デット」です。銀行に代わり非上場企業等への融資を行います。このうち、直接融資を行うものが「プライベート・クレジット」と呼ばれます。

その他の資産では、商業・住宅・物流施設などへの投資を行う「不動産」があります。投資対象としては上場REITと同じですが、取引所で取引されないので日常的な価格変動はありません。道路・空港・港湾・エネルギー施設などへの投資を行う「インフラ」もあります。インフラ投資の多くはインフレ連動条項(インフレの影響を受けない)を持っています。

これらのプライベート資産の広がりについては、複数の要因が背景にあります。ここでは、株式と債券に対する代表的な要因を紹介します。

一つ目は、株式投資です。近年、世界の先進国では上場企業数が減少しています。米国では、過去25年で約4,400まで半減しました。これは、従来であれば株式市場で得られていた企業成長の一部が失われていると見ることができます。一方、株式を取得し経営に関与するプライベート・エクイティなどが資金を供給する非上場企業は80,000社に達しています。投資家の側から見れば、上場していない企業も含めて投資機会を捉えたい、というニーズが存在します。

二つ目は、債券投資です。世界的に起こった金利環境の変化が背景にあります。従来型の債券投資は、低金利状態からの金利上昇では不利な状況となりますが、主に非上場企業へ直接融資を行うプライベート・クレジットでは、変動金利での融資がベースとなるため、相対的に金利上昇への抵抗力があります。よって、金利水準や金利の方向性に関係なく安定したインカムを得たい投資家からの関心が高まっています。

個人投資家も投資できる時代

少し前まではプライベート資産への投資は敷居の高いものでした。最低投資金額は数億円以上であり、その資金を10年程度にわたり拘束し、途中で解約することもできませんでした。従って、一般の個人投資家が容易に投資できるようなものではありませんでした。

しかし、近年では新たなタイプの運用商品が登場し、個人投資家もプライベート資産への投資ができるようになってきました。それが、「セミリキッド」と呼ばれるタイプのファンドです。

このタイプのファンドは、四半期ごとなど、一定のタイミングで解約の機会が用意されており、また最低投資金額も数百万円(典型的には5万ドル)と超富裕層でなくても投資できる金額に設定されています。なお、運用期間についても期限が設けられていないものが多く、このことから「エバーグリーン」ファンドとも呼ばれています。

日本の個人投資家向けプライベート資産ファンド

プライベート資産投資で気を付けたい点

必ず解約できるとは限らない

個人のプライベート資産投資の代表的な運用商品であるセミリキッド・ファンドは、四半期ごとに解約を受け付けています。ただし、必ず解約できるとは限りません。

このように聞くと、何を言っているのか意味が分からないと思います。多くのファンドでは、解約は四半期ごとに受け付けています。一方で、ファンド全体としては解約額に上限を設けており、典型的にはファンドの純資産の5%までです。解約が殺到し、この上限に達すると解約を停止することがあります。2026年2月に起きたブルー・アウルのファンドの解約停止がこの例です。

解約制限は、解約せずファンドに残る投資家を守るためのものと言えます。つまり、解約が殺到して無理に資産を不利な条件で売却し、ファンドに残った投資家の資産を毀損させることを避けている、ということです。従って解約制限自体は「悪」ではありません。

投資家の方に理解していただきたいのは、ファンドの投資先であるプライベート資産自体の流動性と、ファンドの流動性は一致しないということです。ファンドは四半期ごとに解約を受け付けているものの、ファンドの投資先であるプライベート資産は、ファンドの資金の出入りに応じて(上場資産のように)柔軟に売買できません。つまり、解約の仕組みがあっても、希望通りに資金を引き出せるかどうかは、その時の状況次第です。市場が不安定なときには解約が集中し、「出たくても出られない」という状態になる可能性があることは、十分に理解する必要があります。

参考: セミリキッド・ファンドの流動性に関するより詳細な記事はこちら。

見かけ上の低リスクの可能性

プライベート資産は市場の価格変動の影響を受けにくいので、上場資産とは異なり価格が安定して推移する、というようなことが言われていますが、本当にそうでしょうか?

確かに、プライベート資産投資を行うセミリキッド・ファンドの多くは、市場価格の影響を受けるファンドに比べて値動きが穏やかに見えます。以下のグラフは、プライベート・クレジットに投資を行うセミリキッド・ファンドである未上場BDCと、取引所で取引可能な上場BDCの価格推移です。保有資産は全く同一ではありませんが、概ね同じような投資を行っています。上場BDCのほうが市場からの評価を反映している分、価格変動は大きくなっている一方で、未上場BDCの価格は安定して推移しています。しかし、これは見かけ上の低リスクの可能性であることに注意が必要です。

上場BDCと未上場BDCの累積リターン

プライベート資産に投資するファンドは、投資先資産の価値評価にもとづき基準価格を算出します。プライベート資産は日々市場で価格がつくものではなく、一定のタイミングで評価が見直されます。そのため、変化がゆっくり反映される傾向があり、実態よりも価格が安定して見えることがあります。

また、市場価格ではなく価値評価、という点も理解する必要があります。プライベート資産は前提や見方が異なればその評価も異なります。特に、非上場企業の株式評価については、評価者によってバラつきが生じることが少なくありません。上場間近の企業になれば評価のバラつきは比較的小さくなってきますが、いずれかのタイミングで評価が急激に見直され、ファンドの価値に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、プライベート資産投資では、プライベート・クレジットのようにレバレッジの活用や、信用リスクの高い投資がリターンの源泉になっているケースも少なくありません。このような要素も日々の価格に反映されるわけではないため、表面上は見えにくくなります。

言い換えると、リスクが低いのではなく、見えづらい形で内在しているということです。

参考: プライベート・クレジットの評価に関するより詳細な記事はこちら。

分かりにくい費用構造

プライベート資産投資では、「いくら費用がかかっているのか」を直感的に把握しにくい構造になっています。

日本で販売されている商品の多くは、国内向けのファンドから海外のプライベート資産ファンドに投資する形を取っています。そのため、投資家は、国内向けファンドの信託報酬に加えて、投資先となる海外ファンドの費用も負担する構造となっています。

ここで分かりづらいのは、投資先である海外ファンドにおける成功報酬(インセンティブ報酬)です。一定の収益を上回った場合にのみ発生する仕組みで、その計算方法は目論見書売等で明記されています。しかし、個人投資家の方々の中で、以下のような記述を見てすぐに理解できる方は多くないと思います。

四半期ごとに発生するインカムゲインから費用を控除した額の年率12.5%。ハードルレート(年率5%)を超過した場合にのみ適用される。キャッチアップ条件あり。

成功報酬は事前に目論見書等で具体的な数値を示すことはできません。さらに、本来は事後的に把握できるはずの成功報酬についても、分かりやすく整理されていないケースがあります。日本語の資料だけでは十分に把握できず、投資家自らが海外の投資先ファンド等の英語の開示資料までたどって、ようやく把握できるということも珍しくありません。

最終的に重要なのは、投資家の手元にどれだけの収益が残るかです。しかし同時に、その収益の裏側でどの程度の費用がかかっているのかを理解しておくことも欠かせません。プライベート資産に投資するファンドの多くは、証券会社等の対面チャネルで販売されています。気になる場合は、担当のアドバイザーに実際にどの程度の成功報酬が発生しているのか確認してみてもよいでしょう。

参考: セミリキッド・ファンドの費用に関するより詳細な記事はこちら。

まとめ

ここまで見てきたように、プライベート資産は投資の選択肢を広げる一方で、これまでの上場資産とは異なる前提の上に成り立っています。

流動性については、解約の仕組みがあっても、必ずしも思い通りに資金を引き出せるとは限りません。価格についても、安定して見える一方で、その変動が遅れて反映されている可能性があります。さらに、費用についても、表面上見えているものと実際にかかっているものの間にギャップが生じやすい構造となっています。いずれも、リスクの大きさそのものというよりは、「見え方」の違いによるものです。

プライベート資産は、株式や債券に代わるものではなく、それらを補完する存在として位置づけるのが現実的でしょう。そのうえで重要なのは、この資産クラスに何を期待するのか、そしてその前提となる制約を受け入れられるかどうかです。

投資対象が広がること自体は前向きな変化です。ただし、その広がりに伴って、投資家自身が理解すべきことも確実に増えています。プライベート資産への投資を考える際には、「どこまで理解しているか」を一度立ち止まって考えてみてもよいかもしれません。◇

※ 本稿はモーニングスターのマネジャー・リサーチによるレポート「プライベート資産投資の現状2026年」を基に構成された記事です。全文は以下からダウンロードしてご覧いただけます。

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針