2026年5月、日本の公募株式追加型投信の残高が200兆円を突破しました。新NISAを中心とする継続的な資金流入と、良好な市場環境が重なった結果です。数字だけを見れば、日本の個人投資家による資産形成は着実に広まっています。しかし、資金流入や残高の数字が拡大する中で、投資家層の分化や分散意識の揺らぎなども見えてきます。本記事では、モーニングスターの「NISA概要レポート 2026年上半期」をもとに、新NISAの現在地と資金フローの特徴、これからの資産形成で意識したいことを述べていきます。
NISAの残高は拡大、しかし活用は限定的
日本証券業協会が2026年5月に公表したデータによると、新NISAの残高は、2025年の1年間で倍以上に拡大しました。残高拡大の要因として、良好な市場環境による評価益もありますが、資金流入による影響が大部分を占めています。
しかし、残高の拡大ほどNISAの普及・活用は進んでいません。NISA口座の開設率は約26%、証券会社にあるNISA口座のうち、2025年中に買付があった口座は6割程度にとどまります。つまり、実際にNISAを活用している人は約6〜7人に1人程度です。制度の認知は進んでいると考えられますが、実際に口座を開設し最初の投資に踏み出すまでのハードルは、依然として低くはありません。
口座利用の実態には、世代差も明確に表れています。20〜40代はつみたて投資枠が中心、60代以上は成長投資枠が中心です。同じ制度でも、ライフステージによって使われ方は大きく異なります。2027年に始まる「こどもNISA」も含め、今後は、口座数を増やすことだけでなく、一人ひとりが自分に合った形でNISAを活用することが課題となります。
年代・投資枠別新NISA利用率
売却率が示す長期投資の姿勢
NISAは長期にわたる資産形成をサポートするための制度です。そこで、NISA口座における売却率を見ることで、NISAが長期投資のために活用されているかを分析してみました。売却率は全体では前年並みを維持しており、成長投資枠のなかでも投資信託の売却率は低く、つみたて投資枠はさらに低い水準にとどまっています。売却率から単純に保有年数を推計することは困難ですが、この売却率をあえて逆算して保有年数を推計すると、少なくともNISAにおける投資信託の投資は、20年近い保有期間に相当する計算になります。市場が変動しても、購入したファンドを保有し続ける長期投資の姿勢は、数字にも表れています。
一方で、例外もあります。つみたて投資枠のなかでも、アクティブ投信等に分類されるファンドの売却率は、つみたて投資枠全体の平均を大きく上回る水準にあります。つみたて投資枠は、本来「長期・積立」に適したファンドに限定して設計された制度ですが、その趣旨から見れば違和感のある動きです。
背景にあるのは、この分類のなかに、値動きの大きい少数銘柄で構成される指数に連動するファンドなどが含まれている点です。これらは制度上の要件は満たしているものの、実際には短期的な値動きを狙った売買の対象になっている可能性があります。つみたて投資枠の要件を満たしているという安心感から選ばれても、投資家自身が長期保有を前提としていなければ、制度の趣旨と実際の使われ方に乖離が生じてしまいます。
この問題は、単に売却率という数字にとどまりません。長期の資産形成を支える器として設計されたつみたて投資枠に、性質の異なる商品が混在することで、投資家が「つみたて投資枠に入っているファンドは長期投資向けである」と単純に理解しにくくなる恐れがあります。制度への信頼を保つためにも、対象商品の選定基準や、投資家への情報提供のあり方について、今後さらに議論を深める余地があるように思います。投資家側も、つみたて投資枠の対象という肩書きだけで判断せず、そのファンドが本当に長期保有に適しているかを確認する姿勢が求められます。
投資枠・商品別売却率
高水準を維持する投信資金流入
上半期の投信市場における純資金流入額は前年同期を大きく上回り、月間1兆円超の流入が10カ月連続で続いています。NISAにおける年初一括買いの反動が出やすい第2四半期も資金流入は緩みませんでした。ただし流入先を細かく見ていくと、投資家が同じ方向を向いているわけではないことが分かります。
低コストの世界株式・米国株式インデックスは引き続き資金流入全体の中心であり、淡々と積み立てを続ける投資家層があります。シンプルで分かりやすく、コストが低い商品を長期で保有するという投資行動が、はっきりと数字に表れています。一方、流行のテーマやストーリーに反応する投資家層があります。AI、半導体、素材、新興国株式など、ストーリー性のあるファンドにも、上半期を通じてまとまった資金が流入しました。ただしこれらの資金は、カテゴリ全体に均等に広がっているのではなく、特定の個別ファンドや、販売会社の商品提案に反応する形で動いているケースが目立ちます。
分散投資への意識にも変化が見られます。アロケーション型ファンドには継続的な資金流入があり、株式一辺倒ではないポートフォリオを志向する動きは残っています。一方で、金関連を含む「その他」の資産クラスは第2四半期にマイナスへ転じ、昨年後半に見られた株式集中からの脱却の勢いには、いったん一服感も出てきました。
国内株式の動きも興味深いところです。日経平均株価が高値圏で推移しても、日経平均連動型のインデックスから目立った流出は起きていません。かつては相場が上昇するたびに利益確定売りが増えるのが国内株ファンドの特徴でしたが、今回はその動きが限定的でした。国内株式を長期保有資産として見る投資家が、徐々に増えている可能性があります。
2026年上半期純資金流入額上位10カテゴリ
新設ファンドが集めるのは、やはり「物語」
上半期に新規設定されたファンドの本数は、過去数年のペースと大きく変わりません。ただし、新設ファンドが集めた金額は、近年のなかでも際立って多くなっています。上半期終了時点で前年通年に近い水準の資金を集めており、年率換算すれば、新設ファンドの設定が盛んだった2010年代前半に近い水準です。
AI、素材、新興国株式など、成長やイノベーションを想起させるテーマ性を打ち出したファンドが、設定直後から一気に資金を集めています。一部の投資家は今も、物語のあるファンドに強く惹かれています。ここで一度立ち止まりたいのが、テーマ性・ストーリー性の強いファンドとの向き合い方です。テーマ型ファンドは、期待が高まり株価も上がった局面で設定・販売される傾向があります。一方で、新規設定のタイミングや投資時期によっては期待外れの結果になる可能性もあります。加えて、テーマ型ファンドは一般に運用コストがやや高めで、長期のリターンをじわりと低下させる要因にもなります。
金融機関の担当者からテーマ型ファンドを提案される場面では、多くの場合、そのテーマの長期的な成長ストーリーが語られます。10年、20年先を見据えた大きな流れを説明されると、投資家としても腰を据えて向き合おうという気持ちになるかもしれません。しかし実際のところ、担当者が推奨してくるテーマやストーリーは、時間の経過とともに移り変わっていきます。しかも、想像以上に短いサイクルで入れ替わることも珍しくありません。そこで、テーマ性の強いファンドを提案されたときには、一度こう尋ねてみるのも一つの方法です。
「2〜3年前におすすめされていたインド株は、今はどうなっていますか」
あるいは、数年前に人気だった別のテーマについて、その後の状況を聞いてみるのもよいでしょう。もし、そこで話題をそらされたり、歯切れの悪い返答が返ってくるようであれば、今提案されているテーマも、本当に長期的な視点から選ばれたものかどうか、少し立ち止まって考える価値があります。長期の投資対象として語られたはずのテーマが、数年で担当者自身の関心から外れているとしたら、その提案の性格はおのずと見えてきます。
話題になっているテーマに惹かれる気持ち自体は自然なものです。ただし、それだけで投資を決めるのではなく、自分のポートフォリオのなかでそのファンドがどのような役割を担うのかを一度整理してみましょう。中核ではなく味付け(サテライト)として、限られた比率で組み入れるなどが現実的なところではないでしょうか。
新規設定ファンド当初2カ月の純資金流入額
まとめ
投資信託市場は残高200兆円という節目を迎えました。NISA制度を通じて資産形成に踏み出す人が着実に増えている一方、口座を開いたまま動かしていない人、つみたて投資枠でリスクの高いファンドを購入し短期で売却する人など、制度の趣旨と実際の使われ方の間には、まだ小さくない距離があります。今後は、投資家一人ひとりが自分の目的に照らしてNISAをどのように活用するかが重要になります。NISA制度は確かな器としてすでに存在しています。あとは、その器に何をどう盛るか、投資家自身が主体的に考える段階に入ってきているのではないでしょうか。

