<今回のポイント>
- 今回の暴落はファンダメンタルズのリセットではなく、投資家の貴金属への投資が清算されたことによるポジション調整のショックであった。
- ボラティリティは今後も続く可能性が高い:長期的な買い手が参入する可能性はあるが、レバレッジが解消される過程で短期的な価格変動は高水準で推移する見込みである。
- 金の構造的な強気要因は維持されている一方、銀はより脆弱な状況にある。
次期FRB(連邦準備制度理事会)議長候補として予想外にタカ派的な人物が指名され、過熱していた市場の構造的な動きが相まって、金銀市場における現在進行中の歴史的な調整を引き起こしたのである。
現代の貴金属史上で最も激しい売りの一つが、1月30日の金曜日に始まった。金価格は9%急落し、1オンスあたり5,390ドルから4,895ドルへと下落した。これは1980年代初頭以来最大の1日下落率となった。銀はさらに劇的な崩落となり、日中に最大35%下落し、過去最大の1日下落幅を記録した。終値は1オンス85ドルで、寄り付きの115ドルから26%の下落となった。
この日の下落規模は異常であった。ポジション調整、レバレッジ、流動性制約が重なった「完璧な嵐」によって大量の投げ売りが誘発され、金・銀の市場価値はわずか1日の取引で合計で約7兆ドルを失った。
Standard Charteredでグローバル商品リサーチチームを率いるスキ・クーパー氏は、2026年初頭の数週間にわたり両貴金属が「積極的に買われ過ぎの領域」で取引されていたことを踏まえると、この大規模な売りが起きたことに驚きはなかったと述べている。「両市場とも調整が必要であり、とりわけ長期的な上昇トレンドを維持するためには避けられなかった」とクーパー氏は語る。
売りが起こる前、金のスポット価格は2026年1月28日までの1年間で96%上昇するという異例の買い上がりを記録していた。銀のスポット価格は、同期間に278%上昇し、1年前の30.82ドルから2026年1月28日には116.61ドルに達していた。1月だけ見ても、金価格は29%上昇、銀価格は68%急騰した。
両市場はこうした過熱状態の中で、投機的なポジションが集中し、ますます過熱した市場センチメントに支えられていた。
市場を崩落させた原因は?
WisdomTreeのコモディティ責任者であるニテシュ・シャー氏によれば、1月30日は金・銀双方にとって「史上最もボラティリティの高い日」の一つとして記録されるだろうと言う。「これは通常、1年かけて起きるような価格変動であり、1日の取引で起こるものではない」と述べている。
アナリストらは、政治的背景の急激な変化が引き金となったと指摘している。ケビン・ウォーシュ氏が次期FRB議長に指名されたことで政治的なリスクが低下し、貴金属のモメンタムが失われた結果、急激なポジションの巻き戻しが引き起こされたという指摘である。
しかし、より根本的な要因は市場(参加者)の構造にあった。「これは流動性イベントだ」とEquitaのリサーチ責任者であるルイジ・デ・ベリス氏は述べる。「ボラティリティの急上昇に伴い、リスク制限、証拠金追加要求(追証)、ボラティリティ・コントロール戦略などによって売りが増幅された。銀は市場規模が小さく、より投機的な性質があり、ポジションが特に集中していたことがストレスを増幅した」。
Vontobelの商品部門責任者ケルスティン・ホットナー氏は、この動きを典型的な「デレバレッジ(レバレッジ解消)」ショックと表現している。「過度に拡大した投機ポジションが、ストップロスや追証が市場を連鎖的に駆け巡る中で、過密化していたモメンタム取引から強制的に退場させられたということだ」。
重要なのは、この暴落がファンダメンタルズの急変によるものではなかった点である。Zaye Capital Marketsの最高投資責任者である、ナーム・アスラム氏は次のように述べる。「インフレ指標が突然変わったわけでも、政策見通しが一夜にして逆転したわけでも無い。崩壊したのは、防御的資産として広く認識されていたものが、ストレス下でも流動性を維持するという前提だ」。
今回の暴落によって金や銀の防御的資産としての役割が疑問視されたわけではない。しかし、投資家が一斉に同じ取引に殺到した場合、たとえ防御的資産であってもボラティリティが急上昇しうることを示したのである。
金・銀への構造的な支持要因は健在
この激しい値動きにもかかわらず、多くのストラテジストは今回の動きが貴金属サイクルの終わりを意味するとは見ていない。
シャー氏は、金・銀が構造的なレジームシフトの途上にあると主張する。「金の買い手は、中国の保険会社、インドの年金基金、そして急成長するデジタルおよびトークン化された金商品へと拡大している。これらの要因は、従来のバリュエーションモデルでは捉えきれない領域へと価格を押し上げている」と述べる。
今回の調整規模は、これまでのところピークから約1,200ドルであり、過去に機関投資家の買い場となった急落を想起させる。J. Safra SarasinのFXストラテジストであるクラウディオ・ヴェウェル氏は、金が心理的に重要な4,000ドルを明確に割り込むには、大きなマクロショックがさらに必要になるだろうと指摘する。「底に近づいているが、短期的にはボラティリティの高止まりが続くだろう」と述べている。
INVESCOのストラテジスト、ルカ・シモンチェリ氏の意見も同様である。「金・銀を支えるファンダメンタルズと戦略的な要因は依然として維持されている。貴金属への資産配分は、戦術的なものではなく、ますます戦略的なものとなってきている」。
これらの動きは長期でどんな意味があるのか
シャー氏は、この急激な下落が短期的な投機筋を遠ざけ、一方でより長期的な視野を持つ投資家の参入を促す可能性があると指摘している。「市場は投機的なバブルの泡をほぼ洗い流した可能性があり、長期戦略に基づく買い手が資産の再配分を行う余地が生まれている」。
Vontobelのホットナー氏は、金に対し引き続き強気であり、耐久力のある構造的追い風要因があると指摘する。「中央銀行の買い、ETFへの資金流入、安全資産需要、通貨価値の希薄化は依然として強力な構造的追い風である。当社は金へのオーバーウェイトを維持しており、今回の調整を潜在的な買い場と捉えている」。
J. Safra Sarasinのヴェウェル氏も同様の見解を示し、中期的には地政学的な要因や法定通貨に対する制度的な不信感が金相場を支え続けると付け加える。「地政学的不確実性の高まりと、米国における法の支配への圧力は、ドルへの信認を引き続き低下させる可能性が高い。我々は、米国中間選挙に向けて金が恩恵を受けると予想しており、現在の調整は買いの機会と見ている」。
しかし、銀については事情が異なる。産業需要は依然として弱く、特に太陽光発電機器メーカーが銀の使用量を減らし続けていることが影響している。「投機的なポジションが依然として銀価格を支配しているため、我々は関与しない」とホットナー氏は言う。「価格はファンダメンタルズからかけはなれた状態である」。◇
※ 本稿はモーニングスターの「Why Are Gold and Silver Plunging?」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
※ 本稿は情報提供のみを目的としており、特定の投資手法、投資対象、投資商品などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

