原油価格の今後を占う3つのシナリオ

長期的な高止まりを招く構造変化が起きている可能性がある。

<今回のポイント>

  • イラン戦争が始まって以来、ブレント原油価格は1バレルあたり100ドルをほぼ上回って推移しており、アナリストは開戦前の水準を大幅に上回る状態が続くと予想している。
  • たとえ停戦が継続しても、原油価格は高止まりするとみられている。
  • 一部のアナリストは、当面の紛争が解決した後も、原油価格が高止まりすると予測している。

ドナルド・トランプ米大統領がイラン戦争について楽観的な見通しを発するたびに、原油価格は一時的に急落するかもしれない。しかし、アナリストたちは原油価格は当面、開戦前の価格を大幅に上回った水準が続くだろうと予想している。

イラン戦争は11週目に突入し、開戦前には1バレルあたり70ドルだったブレント原油価格は、100ドルを上回る水準に上昇したままである。紛争中の最高値では、一時120ドルを突破する局面もあった。

今後の展開について、アナリストやファンドマネジャーは複数のシナリオを想定している。

ホルムズ海峡の船舶航行の一部が阻害された状態が続き、外交交渉が継続される場合、ブレント原油価格は100ドルから120ドルの間で推移し続ける可能性がある。一方、紛争が拡大し、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が長期化する場合は125ドルを超える可能性がある。あるいは、信頼に足る停戦が成立し海峡の航行が再開される場合は、物流が完全に回復してから2、3か月以内に90ドルを下回る水準まで戻る可能性がある。

以下は、2026年のブレント原油価格の推移を示している。

根本的な問題は、イラン戦争が始まって以来、市場への原油供給量が歴史的な規模で減少していることである。国際エネルギー機関(IEA)の最新の石油市場レポート(4月版)によると、4月の世界の原油および精製製品の在庫は1日あたり約400万バレルのペースで減少しており、これは英国とドイツの1日あたりの消費量の合計に相当する。戦争勃発以来、世界の原油在庫は約2億5000万バレル減少している。

「ホルムズ海峡の封鎖はいつまで続くのか?」。投資家にとって最も重要なこの疑問は、同時に予測不可能な問題でもある。この海路が封鎖されている間、原油価格を左右する2つの主な要因は、供給量と、価格高騰による需要減退の可能性だ。そして、海峡が再び開かれた場合には、現在停止している生産が再開され、世界の製油所への原油供給が可能となるまでの時間が、その後を左右する鍵となるだろう。

アナリストはこの戦争の影響が、原油価格の高止まりを招き、しばらく続く可能性があると指摘している。

シュローダーのコモディティ担当ファンド・マネジャーであるマルコム・メルヴィル氏は、「紛争の結果に関わらず、我々は、すべてのシナリオにおいて、今回の紛争が原油価格の長期的な下値を引き上げたと確信しています。唯一の例外は、イランが西側諸国寄りの国になるというシナリオだが、それは実現する可能性は低いと考えている」と、述べている。

また、アクティブトレーダーズのシニアアナリスト、リカルド・エヴァンジェリスタ氏は、「ホルムズ海峡が事実上封鎖されたことで、世界の原油・ガス生産量の約20%が市場に供給されなくなっている」と述べている。

戦争で一変した原油価格の構造

原油を巡る論点は、戦争勃発以前は供給不足ではなく、供給過剰のリスクだった。ブレント原油価格は、世界経済の減速懸念、中国の需要低迷、非OPEC産油国の供給増加の見通しから、年間を通じて1バレルあたり70ドル~85ドルの間で推移していた。

OPECは価格を支えるために減産を維持していたものの、減産遵守への懸念や需要の伸び悩みによって、市場への減産措置の効果は限定的であった。主要消費地域の在庫は比較的余裕のある水準を維持しており、原油価格の変動は比較的穏やかに抑制されていた。

しかし、ホルムズ海峡の封鎖が原油市場の状況を根本から覆した。現在の供給混乱は、エネルギー供給ショックとしては近年で最大級とみられる。

地政学的リスクが現物不足を招いた

フォントベルのコモディティ部門責任者であるケルスティン・ホットナー氏は、「市場はすでに深刻な原物不足に直面している」と述べている。ホットナー氏によると、中東の原油生産量は現在、1日あたり約1,300万バレルが停止しており、この事態が世界的な原油の在庫を徐々に減少させているという。

「この供給不足は、すでにアジアの一部地域で原物不足を招いており、ベトナム、パキスタン、バングラデシュなどの国々では影響が出ている。一方、欧州は、比較的高い在庫水準と戦略的備蓄の計画的な放出が奏功して、今のところ深刻な原油不足は免れている」とホットナー氏は述べている。

イタリアを拠点とする独立系コモディティ・アナリスト、マウリツィオ・マッツィエロ氏は、市場はすでに、高価格と供給不足による需要減少の兆候をみせていると指摘する。IEAは、世界の原油需要は2026年に前年比で1日あたり42万バレル減少すると予測しており、これは戦争前の見通しと比べて1日あたり130万バレル少ない。現在、最も大きな影響を受けているのは、石油化学セクターと航空セクターである。

現段階では、アナリストたちは大きく分けて3つのシナリオが最も可能性が高いとの見解で一致している。

シナリオ1:原油価格は「制御下の危機」により現状維持

現在の市場の基本シナリオでは、原油価格が100~120ドルの間で推移する「制御された危機」が想定されている。ホルムズ海峡の航行が部分的に妨げられたまま、外交交渉が断続的に続き、在庫は減少を続けながらも、戦略備蓄によって本格的なパニックは回避されている。

「こうした状況の下で、ブレント原油価格は1バレルあたり100ドルを上回る水準を維持すると予想する。トレーダーは引き続き、米国とイランの外交協議の進展に注目しており、今のところこの交渉から生じる期待や挫折が、原油価格の主要な決定要因となっている」と、アクティブ・トレーダーズのエヴァンジェリスタ氏は述べている。

「ホルムズ海峡が閉鎖されている限り、原油価格は日々徐々に上昇傾向を示し、在庫の減少に伴い1バレルあたり120~125ドルに至る可能性があると予想している」と、フォントベルのホットナー氏は述べている。

シナリオ2:紛争激化で原油不足が深刻化する

戦争が激化すれば、原油価格は125ドルを突破して急騰するとみられる。戦争が物理的に拡大し、エネルギーインフラへの攻撃や、ペルシャ湾の長期にわたる全面封鎖などが起これば、欧州で原油不足が急速に起こり、価格高騰から需要の急減を招く恐れがある。

しかしケルスティン・ホットナー氏は、このようなシナリオが起きても、原油価格が1バレルあたり150ドル以上に急騰するとは予想していない。同氏は、もしそのような水準に達すれば、需要の大幅な落ち込みと世界的な配給制の実施を招くだろうと主張している。

シナリオ3:停戦により原油価格が下がる

マウリツィオ・マッツィエロ氏によると、最終的に、信頼に足る停戦と航路の再開が実現すれば、原油価格は短期で急落し、ブレント原油価格は90ドルを下回る可能性があるとみている。

しかし、たとえ明日ホルムズ海峡が完全に再開されたとしても、世界の原油流通が正常化するには数週間から数か月かかるだろうと、大半のアナリストは予想している。

原油価格高騰が長引く可能性とその理由

このような状況を踏まえると、原油価格は今後数か月間は高止まりする可能性が高いというのが大方のアナリストの見方である。

ゴールドマン・サックスのコモディティ・ストラテジストによると、今後数か月以内に原油施設への攻撃が再開されず、ホルムズ海峡が安全に全面再開されるという前提の下では、湾岸地域の原油生産量は海峡再開から数か月以内にほぼ回復すると考えられる。同時に、彼らは「回復の最終段階が大幅に長引き、特に、ホルムズ海峡の封鎖がさらに長期化した場合は、完全な回復が実現しないという重大なリスクがある」と指摘している。

ゴールドマン・サックスの基本シナリオでは、6月末までに湾岸諸国のエネルギー輸出が正常化し、原油価格は短期的には安定した後、年末までに1バレルあたり90ドルまで下がると予想している。現在の水準から下がるとはいえ、これは以前の推計より大幅に高い水準である。戦争開始直前には、同社は第4四半期のブレント原油価格を1バレルあたり66ドルと予想していた。その1か月後の3月には、71ドルに見通しを引き上げた。

マウリツィオ・マッツィエロ氏は、「たとえ停戦が長期で実現したとしても、破壊された施設の復旧や輸送のボトルネックの解消には時間がかかるため、原油価格は少なくとも6か月間は戦前よりかなり高い水準が続くだろう」と述べている。

さらに、海峡の航行が再開されれば、将来の原油供給リスクを避けるために、各国政府や精製業者が原油備蓄を戦略的に積み増す可能性が高い。ホットナー氏によると、この備蓄補充サイクルは今後1年~1年半の間、原油価格を下がりにくくする構造的な要因となる可能性がある。

「長期的には、この紛争はエネルギー供給システムの脆弱性と、多くの国の戦略的な原油備蓄不足という二つの現実を浮き彫りにした」と、シュローダーのメルヴィル氏は述べている。◇

※ 本稿はモーニングスター(欧州)の「3 Scenarios for Where Oil Prices Go from Here」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針