モーニングスターは、一世紀以上前にグルタミン酸ナトリウム(MSG)を世界に広めたことで知られる日本企業、味の素(2802)のカバレッジを再開する。同社は、近年では最先端の半導体パッケージングの95%以上で絶縁材として使用されるエポキシ樹脂素材「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」を開発し、1999年に製品化している。
<重要なポイント>
モーニングスターは、味の素の適正価値推計値を1株あたり3,800円とする。カバレッジ再開にあたり、モーニングスター・エコノミック・モート・レーティングについては、海外市場における同ブランドの価格決定力と、ABFの競合優位性を再評価した結果、「狭い(Narrow)」から「広い(Wide)」に引き上げる。
- 味の素の株価は、AI関連銘柄を物色する市場からABF事業が注目されたことにより、今年度堅調に推移していたが、中国メーカーの増産に伴う加工用うま味調味料の競争激化への懸念によって最近はやや軟調に推移している。その結果、われわれは現時点で味の素の株価は適正水準にあると考えている。
<事業戦略と展望>
モーニングスターは、海外市場での値上げ効果および堅調な数量増加により、味の素が3%の売上高成長率を維持できると考えている。人口増加が続く地域において強固な市場シェアを堅持しており、海外市場における売上成長の原動力となるであろう。
- 国内の調味料・食品事業については、価格引き上げと製品ミックス改善が主な売上成長のドライバーとなろう。ただし、日本市場におけるシェアは既に高水準に達しており、それに加えて人口減少の影響も受けるため、高い売上成長を実現することは難しいだろう。
- ファンクショナルマテリアルズ事業については、ハイパフォーマンスコンピューティング向け最先端チップの更なる複雑化により、今後5年間で年平均11%の成長を見込んでいる。AIへの積極的な投資がABFの需要を強力に支える可能性が高いと考える。
味の素の株価は、第2四半期決算発表の翌日に16%以上下落した。市場が失望した主因は、ソリューション&イングリディエンツ事業の不振である。同社はアジアのB2B市場で価格決定力を欠き、競合他社の生産増加の影響を受けている。さらに、ブラジル工場では新しい発酵技術の導入に困難があり、一時的に生産を停止したことも収益性悪化の一因となった。
ただし、B2B分野での競争は依然として激しいものの、強力なブランド力を持つB2C分野での効果的な価格戦略により、われわれは味の素が一定の収益性を確保できると考えている。また、ブラジル工場の生産回復が収益性改善に寄与すると予想しており、総じてソリューション&イングリディエンツ事業に対する市場の懸念は過剰だと見ている。
われわれの2025年度(2026年3月期)売上高および事業利益予想は、会社ガイダンスに対してそれぞれ4.2%、1.7%低い水準である。同社の売上計画はやや楽観的だと考えるが、調味料・食品事業での価格戦略やABFの売上寄与増による収益性の改善で、売上の下振れをある程度補うことは可能であろう。その結果、われわれは2025年度の事業利益率を11.4%と予測しており、会社ガイダンスである11.1%を上回ると考えている。
ファンクショナルマテリアルズ事業(ABFを含む)については、2025年度に20%、2026年度に16%の売上高成長率を予想する。これは、2026年もAI関連投資が強力に継続する可能性が高いためである。主要クラウドサービスプロバイダーは、2025年に60%以上の設備投資増を見込んでおり、2026年も30~40%の増加が予想される。新しいAIアーキテクチャやカスタムAIチップの導入が半導体需要を押し上げ、AIチップの複雑化がABF需要をさらに高めると考える。
ただし、2027年度のファンクショナルマテリアルズ事業の売上高成長は前年比横ばいを予想している。われわれはクラウドサービスプロバイダーがこれほど高水準のAI投資を中期にわたって維持することは難しいとみており、その結果、2026年後半または2027年にかけて投資が一時的に減退する可能性が高いと考えているからである。ただし、これは構造的な減速ではなく循環的な要因と考えており、長期的にはAIを中心としたハイパフォーマンスコンピューティングへの半導体需要がABFの成長ドライバーになると考えている。◇
<味の素の財務概要および主要指標>
| 2024年 実績 | 2025年 実績 | 2026年 予想 | 2027年 予想 | |
|---|---|---|---|---|
| 収益(10億円) | 1,439 | 1,531 | 1,550 | 1,625 |
| 収益成長率(%) | 5.9 | 6.4 | 1.3 | 4.8 |
| 営業利益(10億円) | 148 | 159 | 177 | 196 |
| 営業利益率(%) | 10.3 | 10.4 | 11.4 | 12.1 |
| 調整後EBITDA(10億円) | 225 | 200 | 262 | 284 |
| 調整後EBITDAマージン(%) | 15.6 | 13.1 | 16.9 | 17.5 |
| 1株当り利益(希薄化後・円) | 167.43 | 69.77 | 117.29 | 133.47 |
| 調整後1株当り利益(希薄化後・円) | 167.43 | 69.77 | 117.29 | 133.47 |
| 調整後EPS成長率(%) | -4.9 | -58.3 | 68.1 | 13.8 |
| PER | 17.0 | 42.4 | 30.6 | 26.9 |
| PBR | 1.8 | 4.0 | 4.9 | 4.4 |
| EV/EBITDA倍率 | 14.2 | 16.0 | 14.6 | 13.4 |
| FCF利回り(%) | ー | ー | ー | ー |
出所:Morningstar Valuation Model. データは2025年11月26日時点
<モーニングスターによる指標>
- エコノミック・モート・レーティング:「広い(Wide)」
- 適正価値推計値:3,800円
- モーニングスター・株式レーティング:★★★(中立)
- 不確実性レーティング:「中程度(Medium)」
- 資本配分レーティング:「標準的(Standard)」
※ 本稿はモーニングスターのエクイティ・アナリスト部門ディレクターの伊藤和典による11月27日付アナリスト・ノートの一部を抜粋してモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。英語原文と翻訳に相違がある場合は原文が優先されます。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

