キオクシア(285A)は6月2日のインベスター・デイで、需給見通し、長期供給契約(LTA)、今後の株主還元方針などに関する新たな目標を示した。これを受け、同社の株価は当日7%高で取引を終えた。
<重要なポイント>
キオクシアはAI推論の拡大を背景に、NANDフラッシュメモリの需要は底堅く2027年度以降も供給不足の状態が続くと述べ、従来よりもさらに楽観的な見方を示した。それに加えて当社は財務規律を保ちつつ生産能力の増強を継続する方針を示しており、われわれは、これがNAND価格と当社の収益性の下支えになると考えている。
- 現在、キオクシアの年間販売量の50%が長期供給契約(LTA)によるものであり、同社はこの状況は2028年まで続くと予想している。キオクシアが相当量の生産能力をLTA向けに振り向ける方針を示していることは、大口顧客からの購入保証と有利な価格条件を確保している事実を裏付けるものとわれわれは考えている。
- 経営陣は、プロセス技術の進歩を主因として、2025年から2028年にかけてNANDフラッシュメモリのビット供給が年平均22%成長すると予測している。最新のBiCS8および今後発売予定のBiCS10は、従来のBiCS5に比べて密度が大幅に向上しているため、新たなウエハ生産能力の増強がなくてもこの成長率は達成可能とみられる。
<結論>
キオクシアの適正価値推計値を45,000円から65,000円へ引き上げる。説明会の内容に対する市場のポジティブな反応には同意するが、2028年後半以降のメモリサイクル減速リスクを踏まえると、株価は概ね適正水準にあると判断している。
- ビット成長見通しの引き上げを反映し、2027年度および2028年度の売上高予想をそれぞれ11%および23%上方修正する。また、LTA期間見通しの若干の延長により、従来想定していた価格下落の影響はより小さなものに留まる可能性が高まったため、2029年度の売上高予想を84%上方修正する。一方で、われわれの中期的な株価および利益率の見通しには概ね変更はない。
<行間を読む>
キオクシアは、Super High OPS SSDなどのAI向け次世代製品の短期的な普及において優位性を保っている。ただし、NAND分野での技術優位は持続的なものではなく、グローバルおよび中国における競合企業との競争激化により、長期的な価格決定力は低下する可能性が高い。
同社は、2027年度以降、主に配当という形で株主還元を実施すると発表した。さらに、累積フリーキャッシュフロー(M&Aを除く)に基づき、特別配当や自社株買いによる追加的な株主還元実施の可能性も示唆された。本件に関する同社の情報開示は不十分だが、メモリサイクルの影響によるキャッシュフローの変動を平準化するために3年間の累積フリーキャッシュフローに基づいた株主還元を行う韓国の同業メモリ企業と大差のない水準であり、枠組み自体も同様であろう。
われわれはこのキャッシュの活用方針を適切かつ慎重だと受け止めている。経営陣が、中核的な配当政策に関して過度なコミットメントを避け慎重な還元姿勢を示しているのは、短期的なメモリ市場の見通しが明るいにもかかわらずメモリサイクルリスクを認識していることを示唆しているからである。現時点で、われわれはキオクシアの株主還元政策に関する詳細が明らかになるまでは、配当金を業績モデルに織り込むことは見送る方針である。
キオクシアはまた、プロセスノードの進歩により、フロントエンドのギガバイト当たり生産コストを年10%削減すると方針を示した。しかし、われわれはこれによる利益率へのプラスの寄与は限定的だと考えている。キオクシアの製品ポートフォリオは現在高性能サーバーにシフトしているが、その高性能サーバーSSDにおけるDRAMチップ(特にDDR4)の価格高騰による調達コスト高がその影響を相殺すると考えるからである。さらに、キオクシアのBiCS5からBiCS8への生産ライン転換、および2027年度におけるBiCS10の生産能力増強も、短期的なギガバイト当たりのコストを押し上げる要因になるだろう。以上から、われわれは当社の短期的な営業利益率予想を据え置いている。◇
<キオクシアの財務概要および主要指標>
| 2025年 実績 | 2026年 実績 | 2027年 予想 | 2028年 予想 | |
|---|---|---|---|---|
| 収益(10億円) | 1,706 | 2,338 | 9,656 | 13,327 |
| 収益成長率(%) | 58.5 | 37.0 | 313.1 | 38.0 |
| 営業利益(10億円) | 442 | 866 | 7,532 | 10,551 |
| 営業利益率(%) | 25.9 | 37.1 | 78.0 | 79.2 |
| 調整後EBITDA(10億円) | 765 | 1,184 | 7,870 | 10,937 |
| 調整後EBITDAマージン(%) | 44.8 | 50.7 | 81.5 | 82.1 |
| 1株当り利益(希薄化後・円) | 515.45 | 1,009.15 | 9,727.25 | 13,660.94 |
| 調整後1株当り利益(希薄化後・円) | 515.45 | 1,009.15 | 9,727.25 | 13,660.94 |
| 調整後EPS成長率(%) | -209.4 | 95.8 | 863.9 | 40.4 |
| PER | 4.6 | 18.9 | 8.0 | 5.7 |
| PBR | 1.7 | 7.5 | 6.3 | 3.0 |
| EV/EBITDA倍率 | ー | 1.1 | 5.5 | 4.0 |
| FCF利回り(%) | ー | ー | ー | ー |
出所:Morningstar Valuation Model. データは2026年6月3日時点
<モーニングスターによる指標>
- エコノミック・モート・レーティング:「なし(None)」
- 適正価値推計値:65,000円
- モーニングスター株式レーティング:★★★(中立)
- 不確実性レーティング:「非常に高い(Very High)」
- 資本配分レーティング:「標準的(Standard)」
※ 本稿はモーニングスターのエクイティ・アナリスト、ジンジエ・ユによる6月4日付アナリスト・ノートの一部を抜粋してモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。英語原文と翻訳に相違がある場合は原文が優先されます。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

