米国・イラン停戦は、市場の「一服」にすぎない

原油・天然ガス価格の高止まりと市場の不確実性はなお続く

<重要なポイント>

  • イラン戦争の停戦合意により原油価格は下落、株式市場は一時的な反発を見せた。しかし、依然として大きな不確実性が残っている。
  • 海運、保険、物流・供給網の混乱を踏まえると、原油価格が戦争前の水準に戻るには時間を要するとアナリストは警告している。
  • キャピタル・エコノミクスによると、被害を受けた原油生産拠点の操業再開までには4~6週間かかるという。

たとえイラン戦争が停戦となっても、投資家は世界経済や市場がすぐに正常化すると期待すべきではないとアナリストらは警告している。

2週間の停戦合意と恒久的な戦争終結に向けた交渉開始という発表に、株式市場は反発し、原油価格は下落した。しかし、交渉の進展状況、ホルムズ海峡通行の安全確保、停止したエネルギー生産の再開スピードなど、多くの不確実な要素が残っている。さらに、同地域のエネルギーおよび産業インフラが受けた甚大な被害により、液化天然ガスやアルミニウムなどのサプライチェーンの復旧には数か月、あるいは数年を要する可能性がある。

サクソ・バンクの商品戦略責任者であるオレ・ハンセン氏は、「正常化への道のりは長く、幾重もの不確実性に覆われている」と述べている。

以下は、イラン戦争開始後の各国市場の下落率の比較である(4月8日09:45米東部夏時間時点)。

原油・天然ガス価格は高止まりの見込み

中東での5週間以上にわたる戦闘により、数十カ所の製油所、貯蔵施設、油田・ガス田が操業停止に追い込まれた。保険料は急騰し、ホルムズ海峡の船舶航行はほぼ麻痺状態に陥った。キャピタル・エコノミクスの気候・コモディティ担当チーフエコノミスト、デビッド・オクスリー氏によると、正常化への道のりは「一進一退」となる可能性が極めて高いと言う。

オクスリー氏は、ホルムズ海峡における船舶渋滞の解消には、少なくとも10日はかかると見ている。一方、継続的なリスクを考慮すると、十分な数のタンカーがホルムズ海峡を通航する誘因が整ったとしても、操業停止中の湾岸各地の施設で原油生産が再開されるには、4~6週間かかるだろうと述べている。

イーブリーの市場戦略責任者であるマシュー・ライアン氏によると、ホルムズ海峡を通過する船舶の通航量がどの程度回復するかは、依然として大きな不確定要素だと言う。「保険料が非常に高額なままであり、さらなる攻撃のリスクも高まっていることを踏まえると、ホルムズ海峡を通過する船舶航行の回復度合いは不透明だ」と同氏は説明する。「投資家は交渉の詳細と通航量の両方を精査するため、今後数日間はボラティリティが高い状態が続くだろう」。

4月8日、ブレント原油先物は14%下落し、1バレルあたり94ドルとなったが、戦争開始前と比べると価格は依然として30%高い水準にある。モーニングスターの国際エコノミスト、グラント・スレイドは、「この停戦は中東における今回の紛争が恒久的に終結する保証ではなく、中東地域の原油・ガス供給がいつ正常化に向かうのかも不明である」と述べている。

キャピタル・エコノミクスは、原油価格は第2四半期まで95ドル前後で推移し、年末までに80ドルまで下落すると予測している。

以下は、開戦以降のブレント原油価格の推移である。

キルター・インベスターズの投資ストラテジスト、リンジー・ジェームズ氏は、「現在の状況では、戦前の水準まで原油価格が戻ることはまずないだろう」と述べている。

天然ガス生産への長期的なダメージ

一方、天然ガス供給の正常化は、施設への深刻な被害を考えるとさらに時間がかかる見込みである。世界最大の液化天然ガス(LNG)生産会社であるカタール・エナジーは先月、「不可抗力(フォース・マジュール)」を宣言し、イランの攻撃により最大5年間、同社の生産能力の17%が失われたと警告した。「これはすぐには回復しないだろう。世界のエネルギー市場に対するその影響の全貌は、まだ明らかではないと見ている」とオクスリー氏は述べている。「たとえ正常化に至ったとしても、ガス関連施設への長期的な損害は後遺症として残るだろう」と言う。

オランダTTFベンチマークで見る欧州天然ガス価格は4月8日に15%下落し、1メガワット時あたり45ユーロとなった。キャピタル・エコノミクスは、欧州とアジアの主要輸入国が供給を巡って争奪戦を繰り広げるため、第2四半期は価格がこの水準で推移し、下半期には上昇すると予測している。オクスリー氏は、「窒素系肥料や、半導体や医療機器に使用されるヘリウムなど、LNGの重要な副産物についても、今後しばらくの間供給の混乱が続く可能性がある」と付け加えている。

株式・債券市場は交渉の行方を注視

8日の戦闘一時停止の報を株式市場は好感し、モーニングスター・欧州指数は3.7%上昇した。とはいえ、同指数は戦争開始以来4.7%下落したままである。

サクソ・バンクのチーフ・インベストメント・ストラテジスト、チャル・チャナナ氏は、「戦争で大きな打撃を受けたセクターが、原油価格の下落と経済見通しの改善から最も恩恵を受ける」と指摘している。欧州でこれに該当するセクターには、生活必需品株、消費循環株、資本財株、ハイテク株、およびそれらに関連するサービスなどの株式が含まれる。一方、エネルギー関連株は出遅れると見ている。

しかしながら、アナリストらはリスクオンへの完全な回帰は、交渉の成功にかかっていると指摘する。イーブリーの市場戦略責任者であるマシュー・ライアン氏は、「恒久的な停戦合意が成立するまでは、市場参加者が『リスクオン』取引に全面的に乗り出すことはなく、原油先物や米ドルも開戦前の水準に戻ることはないだろう」と述べている。

インフレ見通しの改善への期待から、米国債価格も同様に上昇した。市場で、最近の利上げ予想が後退したためである。

チャナナ氏は、市場が再び多少の利下げを織り込み始める可能性を示唆しつつ、一方で、「エネルギー供給が速やかに正常化し、外交的な努力が持続しなければ、戦争がもたらしたショックは払拭されないだろう」と付け加えた。同氏はさらに「今は一息ついたに過ぎず、完全なリセットとは言えない。短期的に市場の緊張が緩む局面があったとしても、原油供給、インフレ、地政学的リスクという根本的な問題は消えていない」と述べている。◇

※ 本稿はモーニングスターの「Why US-Iran Ceasefire Won’t Mean a Quick Return to Market Normalcy」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

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