<重要なポイント>
- モーニングスターのシニアアナリスト、イェレナ・ソコロヴァは、イラン戦争によって欧州の高級ブランドは売上に打撃を受けているが、「一部の企業の株式は魅力的な投資対象に見える」という。
- LVMHとRichemontは最も過小評価されている高級ブランド株式であり、KeringとBurberryは依然として事業再編途上にある。
- 高級ブランドは有形資産、職人技、希少性に依存していることから、AIによる破壊的変革の第一波に対するヘッジとなり得るセクターである。
カレン・ギルクリスト:イラン戦争の勃発以来、欧州の高級ブランド関連株式は打撃を受けています。経済情勢の悪化が消費関連セクターに重くのしかかり、高級ブランド企業待望の回復を遅らせています。
それでもなお、高級ブランドには投資機会が潜んでいるのでしょうか?あるいは、究極の「AI対策」投資戦略となり得るのでしょうか?こうした疑問や高級ブランド市場の見通しについて、モーニングスター(UK)の欧州担当シニア・エクイティ・アナリスト、イェレナ・ソコロヴァに話を聞きます。
イェレナ、あなたは現在多くの高級ブランド株式が過小評価されているとお考えのようですが、その点についてお聞かせください。
まず、中東の状況から始めましょう。中東での戦争が、高級ブランド企業にとって重要な市場である中東での売り上げや、欧州などでの旅行支出にどのような影響を与えたのか、最近の決算発表から何が見えてきましたか?
イェレナ・ソコロヴァ:確かに戦争は打撃となっています。売上高に占める中東の割合はさほど大きくはなく、対象企業では5%~10%程度ですが、今まで非常に順調に増加していた地域です。また、ご指摘の通り、旅行の動向にも影を落としています。第1四半期の決算報告ベースでみると、中東戦争の影響により売上高は約1%~1.5%減少しており、大きな数字ではありませんが、特に売上全体が弱含みの現状では、その影響は無視できないものでしょう。
ギルクリスト:米国や中国など他の主要市場の状況はどうでしょうか。中国市場の回復は長らく待ち望まれてきました。現時点でどのような傾向が見られますか?
ソコロヴァ:米国では回復傾向にあります。2025年第3四半期から回復基調に入り、第4四半期は一進一退の状況でした。2026年第1四半期も非常に好調に伸び、中東紛争の影響は見られませんでした。重要なのは、この市場のセンチメントです。一方中国では、決算から見ると多くの企業が引き続き低迷しています。不動産市場も極めて弱く、それが景況感の重石となっています。
以下のグラフはイラン戦争開戦後の欧州の主要高級ブランド企業の株価の推移を示している(2026年3月2日を起点とする)。
ギルクリスト:戦争による波及的な影響はいかがでしょうか。インフレや、それが金利上昇につながる可能性については懸念があります。また、様々な投入コストの上昇懸念もあります。さらに、特に富裕層の可処分所得が減れば、需要が冷え込む可能性があります。もしこの紛争が長期化した場合、どのような影響が考えられますか?
ソコロヴァ:2022年(ロシアのウクライナ侵攻とコロナ禍からの経済回復)の記憶として最初に思い出すのは、インフレショックです。エネルギー価格の上昇が多くの最終製品に波及し、さらに肥料などの高騰を招きました。これが第一の要因となります。そうなると、金利の引き下げ余地も狭くなります。株式市場への打撃は、特に米国内消費者動向を映す先行指標でもあるため、これもまた別のマイナス要因となります。
LVMHとRichemont:最も割安水準にある高級ブランド企業
ギルクリスト:それでは、もう少し詳しく見ていきましょう。高級ブランド企業の中には割安水準のものもあるとのことですが、具体的にどのような投資機会があるとお考えですか?最も大きな成長の可能性がある企業や、潜在的なリスクを抱えている企業は?
ソコロヴァ:長期投資の視点では、このセクターはかなり過小評価されており魅力的だと考えています。景気循環による低迷が始まってすでに2年ほど過ぎました。利益率や収益性から見ても、景気サイクルのピークには程遠い状況です。つまり、収益がピークには程遠いにもかかわらず、株価は低い水準にあります。長期的な投資を考えるなら、このセクターの魅力は健在です。
現在魅力的な株価水準の株式を探すならば、質の高い企業を選ぶべきだと思います。ですから、LVMH(LVMH)が私の最有力候補であり、現在の株価水準ではRichemont(SWX)も魅力的です。
以下の表は、主要欧州高級ブランド企業の適正価値推計値、株式レーティング、4月17日時点の終値と過去3か月のリターンを示している(データは4月17日時点)。
ギルクリスト:興味深いですね。それは、おそらく一部の最富裕層の需要が依然として高いからでしょうか?先ほどRichemontが挙がりましたが、こうしたブランドの中でも特に高級なブランドの一つとして有名です。それとも、企業ごとに状況が異なるのでしょうか?
ソコロヴァ:まず第一に、これらの企業は、業界で最も強固な競争力を持っています。リシュモン、LVMH、そしてエルメス(RMS)の3社が、エコノミック・モート・レーティングで「広い(wide)」と評価されており、ブランド力は確固たるものです。また、ブランドへの再投資を行い、常に顧客の心に留まるブランドイメージを維持するための財務基盤も備えています。そして、この環境下で生き残り、成長を続けるための財務の柔軟性も持っています。これが私の第一の判断基準です。
LVMHは、高級ブランドに憧れる消費者層に強く訴求していると言えます。Richemontはご指摘の通り、より富裕な顧客層に支えられていることが、堅調な業績の要因です。もちろん、Richemontは中東市場への依存度が最も高い企業の一つであるため、中東情勢の緊張による影響がより大きいでしょう。しかし、長期的な購買動向という観点から見れば、それは一時的なものだと考えています。
KeringとBurberryにとって、事業再生戦略が希望の光
ギルクリスト:なるほど。では、Kering(KER)がGucciに対して打ち出している計画や、Burberry(BRBY)など、こうした大手企業が見せている事業再生戦略についてはどうお考えですか?これらの企業について、今後どのような取り組みを期待しますか?
ソコロヴァ:Keringは最近、キャピタル・マーケット・デイ(CMD)を開催しました。同社は、より多角化したグループであることをアピールしようとしたのでしょう。ところが、投資家の視線はGucciに集中して、Gucciの今後、つまりKeringがGucciブランドを立て直せるか否かに関心が集まっています。特にクリエイティブ面の方向性が重要で、デムナ・ヴァザリア氏率いる新たなデザインの行方が注目されています。
それが効果を発揮するかどうかを見極めるには、時期尚早でしょう。また、業績不振店舗の閉鎖による収益性の改善や、商品構成の簡素化、投資と品質に見合った価格改定など、各所で経営改善策を実施しています。もちろん、成果が出るまでには時間がかかるでしょう。一方で、現在の経営陣にどれだけの時間的な猶予があるかが問題です。ですから、事業再生はまだ進行中の段階です。株価は依然として割安ですが、上下いずれの方向にも動くリスクがあります。
Burberryについては、現在非常に前向きな取り組みが行われています。戦略が功を奏し始めている兆候が見て取れます。Burberryの戦略で私が評価しているのは、ブランドの最大の強みを再び前面に打ち出していることです。アウターウェア、イングリッシュ・ヘリテージ、スカーフなど、Burberryブランドが最も差別化を図れる分野に注力しており、それが今、消費者の共感を呼んでいるようです。
高級ブランド株式はAIリスクのヘッジとなり得る
ギルクリスト:最後に、AIの台頭が多くの業界に影響を与えるという懸念が高まる中、高級ブランド株式こそが究極のヘッジになり得るという意見もあります。高級ブランドが重視する資産や職人技は、必ずしもAIで再現できるものではないからです。これについて、どうお考えですか? 本当にAIリスクに対する「緩和剤」になり得るでしょうか?
ソコロヴァ:たしかに、参入障壁は依然として高いと思います。テクノロジーによって置き換えられる分野はほとんどありません。バッグはバッグですからね。また、これらのブランドが象徴するステータスシンボルとしての役割を再現することも容易ではありません。ステータスシンボルとなるためには、ブランドが広く認知される必要があります。それには長い時間と多額の投資が必要です。だからこそ、テクノロジーによる陳腐化や競争激化といったリスクは比較的低いと言えます。それが、これらのブランドが強固な競争優位性を持っている理由です。
私が唯一リスクと見なしているのは、AIが雇用、特に高賃金の職種に与える影響です。なぜなら、高賃金の職に就く人々が将来の高級品購買層になるからです。すでに高級品を買う人の数は減少傾向にあり、市場は二極化が進んでいます。ですから、潜在的な将来の顧客が減少することは、この業界にとってリスクとなり得るでしょう。
ギルクリスト:とても興味深い話でした。今後の動向が注目されます。イェレナさん、お話をどうもありがとうございました。モーニングスターのカレン・ギルクリストがお伝えしました。◇
※ 本稿はモーニングスター(欧州)の記事「Are European Luxury Stocks Undervalued? LVMH, Kering, and Burberry in Focus」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。
