<重要なポイント>
- クリティカル・ミネラル(重要鉱物)の供給網の混乱は、様々な業界にとって不可欠なマイクロチップの生産を阻害する可能性がある。
- 中東は、半導体製造に必要なヘリウム、アルミニウム、臭素などの主要な供給地域である。
- AI開発の進展に伴い、巨大テクノロジー企業によるマイクロチップの需要は急速に拡大している。
中東での長期化する紛争で、今度は世界のテクノロジー企業が影響を受ける可能性がある。半導体供給網への新たな圧力が、人工知能(AI)ブームの重石となる恐れがあるためだ。
イスラエル・米国とイランとの紛争は、巨大テクノロジー企業が使用するマイクロチップの生産に不可欠とされる重要鉱物やその他の元素のサプライチェーンにおいて、中東が果たす重要な役割を浮き彫りにした。
キャピタル・エコノミクスのグループ・チーフ・エコノミストであるニール・シアリング氏は次のように述べている。「この紛争が長引けば長引くほど、この地域で生産され、他のサプライチェーンに組み込まれている重要鉱物――例えば、半導体に使われるヘリウムなど――の供給不足が問題となってくる可能性が高い」。
韓国のある国会議員は今月初めに、イランとの戦争によって、同国を代表する半導体産業に不可欠な主要なマイクロチップ材料の供給に混乱が生じる可能性があると警告した。実際、半導体大手のSamsung Electronics(KRX)やSK Hynix(KS)は、紛争の激化やハイテク株の高すぎるバリュエーションへの懸念から、最近のKOSPI指数の急落で最も大きな打撃を受け、ともに20%下落した。
下のグラフは3月2日をゼロとした3月19日までのSumsung(赤)とSK Hynix(青)の株価のドローダウンである。
SamsungとSK Hynixは、Micron Technology(MU)と並ぶメモリチップの世界三大サプライヤーとして、民生用電子機器やAIデータセンターに不可欠なメモリチップを提供している。顧客には、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるNVIDIA(NVDA)、Microsoft(MSFT)、Apple(APPL)などの巨大テクノロジー企業が名を連ねている。
これらの半導体チップの製造は、ヘリウムやアルミニウムといった重要鉱物に大きく依存しており、そのかなりの部分は中東地域から調達している。
中東は重要鉱物のハブである
カタールは、世界のヘリウム供給量の3分の1以上を占めており、半導体製造における熱管理や、チップ回路の微細加工に用いられるリソグラフィーに不可欠なヘリウムを供給している。現在、カタールに代わる現実的な供給源は存在していない。
カタールでは、液化天然ガス(LNG)の製造過程で副産物としてヘリウムを生産している。しかし、今月イランによるドローン攻撃を受けてカタール・エナジー社のラス・ラファン工業団地が操業停止に追い込まれたことで、同国のヘリウム生産も停止状態に陥った。
また、イスラエルとヨルダンは、半導体製造工程におけるもう一つの重要な原料である臭素の世界生産量の約3分の2を占めている。
また、中東地域は世界のアルミニウム生産能力の約8%を占めており、金属の輸出と酸化アルミニウム輸入をホルムズ海峡に依存している。同地域の主要生産企業の数社が「不可抗力」を宣言して契約を履行できなくなったため、生産はさらなるエネルギーショックに対して脆弱な状態にある。
アルミニウム価格は3月に4年ぶりの高値となる1トンあたり3,544ドルを記録した。ING(ING)は、業界が「深刻な混乱」に見舞われた場合、価格は1トンあたり4,000ドルに達する可能性があると指摘している。
INGのコモディティ・ストラテジストであるエヴァ・マンシー氏は、「サプライチェーンの混乱はすでに顕在化しているが、影響は生産損失そのものではなく、むしろ輸送の遅延や貨物の迂回といった形で現れている」と述べている。
「こうした事態は、多くの重要鉱物のサプライチェーンがいかに集中化しており、物流に依存しているかを露呈した。ショックが実物市場に急速に波及する可能性がある」と彼女は指摘している。
テクノロジー業界への影響はどれほど大きいのか?
AI開発の進展に伴い半導体需要が急増する中、半導体メーカーは重要鉱物のサプライチェーンリスクに直面している。データセンターによる需要の高まりが、すでにラップトップや自動車など他の製品で供給不足を引き起こしている。
中東で供給の混乱が長期化すれば、テクノロジー業界やAIブームに投資をしている人々にとって、その影響は甚大なものとなる可能性がある。
「『長期化』――これは、テクノロジー系投資家なら誰も聞きたくない言葉だろう」と、ウェドブッシュ・セキュリティーズのテクノロジー調査部門グローバル責任者であるダン・アイブス氏は述べている。「もしイラン情勢が5月まで続けば、AIのインフラ整備に不可欠な重要鉱物のサプライチェーンに問題が生じるだろう。一方、4月中旬までに収束すれば、影響は誤差の範囲に収まると考えている」
重要鉱物の備蓄は、供給途絶による当面の影響をある程度緩和する効果があるだろう。『コリア・タイムズ』は、韓国の半導体チップメーカーは約6か月分のヘリウムを備蓄していると報じている。
SK Hynixはこの混乱についてコメントを辞退した。一方、Samsungからは回答が無かった。半導体受託製造大手のGlobal Foundries(GFS)は、「同地域のサプライヤー、顧客、パートナーと直接連絡を取り合っており、影響を最小限に抑えるための対策を講じている」と答え、一方、台湾の半導体メーカーであるTSMC(TSM)は、「状況を注意深く監視している」と述べた。
半導体業界は今後、紛争の規模と期間、そして生産停止の状況を注視していくことになるだろう。しかしアナリストらは、想定以上に戦争が長期化しすれば、その影響が今後数か月にわたりテクノロジー業界だけでなく様々な分野に及ぶ可能性があると警告している。
「今後数週間で海運の混乱が回復し始めれば、半導体メーカーは耐えられるはずだ。しかし、ホルムズ海峡を通る輸送船への混乱が長期化したり、カタールのガス・LNG生産施設に長期的な損害が生じれば、より深刻な問題となるだろう」と、キャピタル・エコノミクスの気候・商品担当チーフ・エコノミスト、デビッド・オクスリー氏は述べている。
「たとえ明日生産が再開されたとしても、サプライチェーンの完全な回復にはさらに4~6か月を要すので、つまり脆弱な状態は合計で6~9か月に及ぶことになると見られる」と、クオンタム・ストラテジーの社長、デビッド・ロッシュ氏は述べている。
「これは、テクノロジー、ヘルスケア、科学の分野にまたがる、極めて重要で代替のきかない原材料をめぐる危機である。半導体チップの生産は、喫緊の懸念事項の中心にある」とロッシュ氏は付け加えている。◇
※ 本稿はモーニングスターの「Iran War Threatens AI Chip Supply as Critical Minerals at Risk」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

