このイベントはおそらく世界でも珍しいものであろう。個人投資家が主催し、個人投資家が投票して決まる個人投資家のためのファンド賞である。ファンド賞の目的はシンプルだ。
証券会社の宣伝やうたい文句にまどわされず、自分たちにとって本当によいと思える投資信託を個人投資家たちが投票で選び、それを広めることで「自分たちの手でよりよい投資環境を作っていこう!」というイベントです。
個人投資家が選ぶ!Fund of the Year ホームページより
※ 「個人投資家が選ぶ!Fund of the Year2025」の公式ホームページはこちら
完全非営利のファンド賞で、企業によるスポンサーシップや協賛は一切受け付けず、受賞ファンドがロゴや情報を使用する際にも費用を取ることはない。
トロフィーや賞状、イベントの開催費用等すべてを個人投資家のチケット代と寄付(1口1000円)でまかない、手弁当のボランティア運営委員によって開催されている。筆者も初回のFund of the Year 2007(当時は「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year」)からこの賞の表彰を現場で見ており、2013年からは運営委員の末席に加わり、このファンド賞の変遷を見てきた。
Fund of the Year2024からは、それまで投資信託についてのブログを書いている人だけに限定されていた投票を、金融商品に投資経験があるすべての個人投資家に開放し、賞の名称も「個人投資家が選ぶ!」に変更された。同時にアクティブ投信部門とインデックス投信部門に分け、片方でも両方でも投票でき、それぞれの部門について表彰する形式になった。
※ 投票期間は2025年11月1日から11月30日の1か月間。今回の投票者総数292名、有効投票者数286名。各部門3本まで投票でき、1本目3点、2本目2点、3本目1点の配点(1本目のみ、2本目までの投票も可)。得票を集計し、同点の場合は投票者数が多いものが上位となる。なおバランス型ファンドは各資産がインデックス運用されているものも含めて、すべてアクティブ部門に分類される(資産配分を決定する時点で恣意的な決定がされていると考えるため)。
Fund of the Year2025の結果
<アクティブ部門>
| ファンド名 | 運用会社名 | |
|---|---|---|
| 第1位 | セゾン・グローバルバランスファンド | セゾン投信 |
| 第2位 | 結い2101 | 鎌倉投信 |
| 第3位 | ROBOPROファンド | SBI岡三AM |
| 第4位 | ひふみ投信 | レオス・キャピタルワークス |
| 第5位 | コモンズ30ファンド | コモンズ投信 |
| 第6位 | 農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね | 農林中金全共連AM |
| 第7位 | SOMPO123 先進国株式 | SOMPO AM |
| 第8位 | なかの日本成長ファンド | なかのAM |
| 第9位 | eMAXIS Slimバランス(8資産均等型) | 三菱UFJ AM |
| 第10位 | ニッセイ・インデックスバランスファンド(4資産均等型)<購入・換金手数料なし> | ニッセイAM |
アクティブ投信部門のトップ3のファンドについて、以下に簡単に触れておく。
第1位の「セゾン・グローバルバランスファンド」は、第1回の「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year2007」でファンド・オブ・ザ・イヤーに輝いたファンドだ。当時はバランス型にしては比較的安いコストと、運用会社が投資家に直接販売するスタイル、長期・分散・積立の投資で資産形成しようという明確なメッセージを投資家に直接伝えたことでじわじわと定着した。年月を経て運用会社の経営陣が変わっても、変わらない運用哲学と分かりやすさがある。この投資家からの信頼によって、現在では決して安いとは言えなくなったファンドが、コスト至上主義を超えて投資家に支持されていることを示唆している。
第2位の「結い2101」は次なる世紀“2101年”に向けて人と人、世代と世代を“結ぶ”豊かな社会を投資家と共創するというコンセプトのもと、国内を中心にほんとうに必要とされ100年続く「いい会社」の株式に投資することをモットーとするファンドだ。このファンドは2025年に、設定から15年が経過し社会・経済情勢や資産形成環境が大きく変化したことを理由として、運用方針を変更している。設定以来掲げてきたリスク目標10%から「国内株式市場よりも変動リスクを抑制する」とし、リターン目標年率4%以上(信託報酬控除後)から「投資先企業の業績成長に見合ったリターン獲得」(参考情報として投資先企業の業績成長率(年率4.5〜6.7%))と変更した。こうした変更に対しての投資家の評価も含めた今回の投票結果では、本来の理念が維持されていることへの信頼が推察できる。
3位「ROBOPROファンド」は2023年12月設定の比較的新しい投資信託であるが、40社近い金融機関が取り扱うという幅広い販路を持っている。AIの分析と将来予測に基づいて資産配分を機動的に調整する「下落局面に強い」バランス型ファンドとして、対面販売およびインターネットによる販売で話題に上ることも多くなった。投資家の中には、世界株式並みのリターンをより低リスクで獲得できると評価する向きもある。実際、現時点までの運用実績ではドローダウン抑制に強みを発揮している。まだ実績の短いファンドなので常にそのようなパフォーマンスとなるかは保証のかぎりではないが、こうしたファンドを目ざとく発掘するのもアクティブな投資家の持つ感覚の鋭さを示している。
<インデックス部門>
| ファンド名 | 運用会社 | |
|---|---|---|
| 第1位 | eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | 三菱UFJ AM |
| 第2位 | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | 三菱UFJ AM |
| 第3位 | ニッセイ外国株式インデックスファンド<購入・換金手数料なし> | ニッセイAM |
| 第4位 | eMAXIS Slim 全世界株式(除く日本) | 三菱UFJ AM |
| 第5位 | たわらノーロード 先進国株式 | アセットマネジメントOne |
| 第6位 | 楽天・プラス・オールカントリー株式インデックス・ファンド | 楽天投信投資顧問 |
| 第7位 | eMAXIS Slim 先進国株式インデックス(除く日本) | 三菱UFJ AM |
| 第8位 | Vanguard Total World Stock ETF | The Vanguard Group |
| 第9位 | ニッセイNASDAQ100インデックスファンド<購入・換金手数料なし> | ニッセイAM |
| 第10位 | 楽天・全米株式インデックス・ファンド | 楽天投信投資顧問 |
インデックス投信部門については誰もが納得する結果であろう。こちらもトップ3について以下にコメントする。
サブタイトルの通りこのファンド賞で7連覇を達成した第1位の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は、投資家以外の人さえ「オルカン」の愛称で聞いたことがある人もいるという国民的ブランドになっている。12月末時点で約9兆円だった純資産が直近1月30日には9兆7000億円を超えており、10兆円ファンドまであと一歩だ。ファンド支持率のあまりの高さに、ファンド賞の結果をワクワク待つという投資家の楽しみはここ数年すっかり薄れてしまった。一方で、こうした超低コストのパッシブファンドが誕生し、コモディティ化したことは、日本の投資家にとって素晴らしい環境変化であった。
第2位「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は現在日本最大のファンドであり、2026年1月には純資産総額が10兆円を超えた。このファンドが登場する以前は本ファンド賞でも上位入賞の常連であった海外籍のETF「Vanguard Total World Stock ETF」(2026では8位)の純資産も追い越した。数年前までは投資家の間には、この1位、2位のファンド間で「全世界が良いか、米国株が良いか」という選好議論もあったが、現在は長期積立投資では「オルカン」に軍配が上がっているようだ。その理由としては、米国市場指数に占める超巨大テック企業の比率がきわめて高くなっていること、2025年の市場では米国以外の市場の成績が良かったことなど、米国一強だった市場の空気が変化していることもあるようだ。なお、「第4位、第7位と「eMAXIS Slim」シリーズがトップ10に4本入賞していることからも、コストに敏感な投資家の支持を得ていることがよく分かる。
一方、第3位「ニッセイ外国株式インデックスファンド<購入・換金手数料なし>」であるが、投票理由に特色がある。このファンドの歴史的な価値を挙げる投資家が多数いるからだ。多くの運用会社が低コストパッシブファンドをラインアップに加える潮流を創出した「そもそも」の存在がこのファンドであることを、投資家は忘れてはいない。他の運用会社が既存のパッシブファンドのコストをそのままに、新たに同じ指数の低コストファンドを設定する中、このファンドは、多数の販売会社との対話と説得の労を積んで、既存ファンドの信託報酬を引き下げるという果敢な試みの先鞭をつけた。ただ低コストなファンドを作るのではなく、既存の投資家にもその低コストを提供することを示したのである。そして他社の低コストパッシブファンドとの横並びの信託報酬に安住せず、更に規模拡大とともにコストを下げたことで、日本のパッシブファンドのコスト競争は激化した。業界にケンカを売ったともいえるこの政策によって、日本のパッシブファンドのコストは劇的な低下を遂げ、投資家の投資環境は、その点においては世界最低水準で文句なく整備されたと言える。その功績をたたえる投資家が、このファンドを支持し続けている。
(参考)総合得票トップ5
| ファンド名 | 運用会社 | |
|---|---|---|
| 第1位 | eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | 三菱UFJ AM |
| 第2位 | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | 三菱UFJ AM |
| 第3位 | ニッセイ外国株式インデックスファンド<購入・換金手数料なし> | ニッセイAM |
| 第4位 | セゾン・グローバルバランスファンド | セゾン投信 |
| 第5位 | 結い2101 | 鎌倉投信 |
(参考)投信ブロガーによる投票トップ5
| ファンド名 | 運用会社 | |
|---|---|---|
| 第1位 | eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | 三菱UFJ AM |
| 第2位 | ニッセイ外国株式インデックスファンド<購入・換金手数料なし> | ニッセイAM |
| 第3位 | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | 三菱UFJ AM |
| 第4位 | 結い2101 | 鎌倉投信 |
| 第5位 | eMAXIS Slim 先進国株式インデックス(除く日本) | 三菱UFJ AM |
(参考)ファンド賞の歴史的な背景
2007年(賞の発表は2008年)といえば、サブプライム・ローン問題が表面化して、好調だった世界の株式市場に影が差してきた時期であった。それでも多くの投資家は原油や金などコモディティは大丈夫、BRICsなど資源国・新興国は大丈夫と信じていた頃だ。そして、まだ世界は「あの」金融危機を知らなかった。そんな2007年の名を冠したファンド賞が翌2008年に発表されたのが始まりである。
2007年末時点、日本で最大のファンドは「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」(国際投信・現三菱UFJアセット)で純資産額は5兆6234億円、以下純資産上位は毎月分配金を支払うファンドが並び、投資信託では「毎月分配型(毎月決算型)」が主流の時代だった。それは、投資信託を購入する顧客層が高齢者に偏っており、年金補完としての分配金が行動経済学的な支持を得ていたからである。投資信託を「資産形成」のツールとして活用している現役世代の人は少なく、金融機関の顧客としてほとんど認識されていなかった。
一方で1990年代終盤には投信が銀行や保険会社、郵便局で販売されるようになり、また、確定拠出年金の導入で自分のために自分で運用するという現実と現役世代が直面することになった。さらにインターネット証券や、投資信託を直接販売する運用会社が登場して、定期的な積み立て投資が少しずつ身近になっていった。時を同じくして、インターネットを通じてブログなどで個人が情報発信することも手軽にできるようになり、投資信託で資産形成をする個人投資家のブログも定着した。彼らの発信は徐々に資産形成層のソートリーダーとなっていた。こうした進展を背景として、SNSの普及によって直接意見や情報を交換することができるようになり、交流会やイベントが各地で開催されるようになったのである。
そのような環境の中で、投資信託を利用して毎月投資を行って資産形成をしようという人々が登場する。自らを「インデックス投資家」、あるいは「コツコツ投資家」と自認して、超低金利の日本で資産を作る方法に投資信託を選択し、その方法を同世代や次に続く世代に伝えようとしたのである。もちろん、それ以前にも同様の取り組みをしている人が全くいなかったわけではないのだが、SNSの拡大によって彼らの存在が可視化され、横のつながりが生まれた。
このような環境の変化の中で、自分たちの手で投資環境をもっと良くしていきたい、良い投資信託を増やしたいとの思いから、「投信ブロガーが選ぶ!ファンド・オブ・ザ・イヤー」は、投信ブロガー自身の手によって生まれ、運営されてきたのである。◇
※ 本稿は情報提供のみを目的としており、特定の投資手法、投資対象、投資商品などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

