<今回のポイント>
- 米国の経済はますます二極化が進んでいるように見えます。アナリストが「K字型」と呼ぶ現象です。
- 高所得世帯は、株式市場の高いリターンによって資産と自信が急上昇していますが、低所得世帯は苦境に立っています。
- この分断は、経済の見通しをより不安定にしています。市場の低迷は、消費支出の急激な減少と成長の鈍化につながる可能性があるからです。
米国経済はいびつさが目立っています。急騰する株式市場が高所得世帯の持つ資産の価値を押し上げ、それが消費支出と経済成長を支えています。その陰で、低所得層は小銭の節約を強いられる生活をしています。
アナリストは、こうした不均衡が危うい経済の循環的な構造を生んでいると指摘しています。市場が不調になれば高所得層の支出減速を招き、株式市場を含む経済全体に波及効果をおよぼす可能性があります。マニュライフ・ジョン・ハンコック・インベストメンツの共同最高投資ストラテジストであるエミリー・ローランド氏は「株式市場が経済という犬を振り回すしっぽのようです」と説明しています。
パンテオン・マクロエコノミクスの米国チーフエコノミストであるサミュエル・トムズ氏は、所得格差の拡大が「経済をより傷つきやすくしています」と指摘します。高所得者は、旅行やエンターテインメントなど、家計の中で必要に応じて切り詰めやすい使途により多くの支出をします。「生きる上で優先順位の低い支出の分野で強い伸びが見られた場合、家計はとても素早くそれらの支出やめることができます」と同氏は述べています。
「K字型」経済とは?
「K字型」経済という考え方は、Kという文字の右側の二つの「腕」が上と下、異なる方向を指すことに由来します。上向きの腕は、金融市場に投資する傾向のある高所得世帯の好調な状況を象徴しています。 株式市場は過去数年にわたって上昇相場が続いており、Morningstar 米国株指数は2023年に26%、2024年に24%、2025年に17%のリターンを記録しました。この驚異的なリターンが富裕層が保有する資産の価値を押し上げています。昨年初め、ムーディーズ・アナリティクスは米国の上位10%にあたる高所得者が消費支出の約半分を占めると推計しました。
マニュライフのローランド氏は次のように説明します。「株式市場では年間二桁のリターンが連続して記録されました。それ自体が非常に異例なことですが、これが株式を保有する人々に集中的に巨大な富の効果を与え、この二極分化を生む理由の一つとなりました」。
パンテオンのトムズ氏は、「高所得層の間でも貯蓄率の低下が表れており、これが全体の消費支出を彼らが支えている証拠です」と述べています。「高所得世帯は、株式市場で資産が急速に増えるので、貯蓄額を減らしているように見えます」と同氏は指摘します。「彼らは稼いだ分をひたすら消費に回しています」。
以下は2023年以降の米国株式市場の動きです。
一方、Kの字の腕が下を向いている部分は、低所得世帯の状況を象徴しています。株式市場による資産拡大の恩恵は受けられず、賃金上昇も鈍化してインフレに追いつかない事態に直面しています。金利上昇の影響で、住宅ローン、クレジットカード、自動車ローン、その他の消費者向け融資による借り入れコストが高くなっています。 ローランド氏は「これは、借金をより多く抱えがちな低所得層の消費者に打撃を与えています」と述べています。
消費者心理も二極化
消費者心理に関する調査でも、その差が明確に示されています。ミシガン大学の消費者心理調査は、家計が自らの財政状況や経済全体の進路に対してどれだけ自信を持っているかを測る消費者信頼感の指標を提供しています。その最近のデータによると、株式を多く保有している世帯はますます楽観的になっている一方で、株式を全く保有していない世帯では逆の傾向が見られます。
以下のグラフは株式の保有が消費者心理の明暗を分けている状況を示します。ブルーの折れ線は上位3/1の株式を多く保有している人々、黒い折れ線は株式を全く保有していない人々の、消費者信頼感指数の推移を示しています。
この調査の責任者であるジョアン・スー氏は声明で次のように述べています。「最も多く株式ポートフォリオを持つ層の消費者信頼感は2月に急上昇しましたが、株式を保有していない層では停滞し、低迷した水準のままでした」 。
世帯所得別にデータを分析しても同様の結果が得られました。上位3分の1の高所得世帯が他のどの層よりも高い信頼感を示しています。ただし、パンテオンのトムズ氏は、高所得層と中所得層、低所得層の間の格差が、2024年以降縮小していると指摘しています。
以下のグラフは所得階層を3つに分けて消費者信頼感指数の推移を示しています。黄色が所得上位3/1、赤が中位3/1、青が下位3/1を示します。
一方、2月10日に発表された小売売上高のデータによると、ホリデーシーズンの支出は予想に反して横ばいを示し、最も富裕な世帯層以外のすべての世帯で消費意欲が鈍化しつつある兆候があります。EY-パルテノンのチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は「消費の勢いは依然として狭い範囲に集中しており、高所得世帯や、借入意欲の増大、貯蓄の取り崩しなどへの依存度が高いままの状況です」と記しています。
経済における二極化は、昨年の税制改正で増額された今春の還付金によってさらに拡大する可能性があります。バンク・オブ・アメリカの米国経済アナリスト、アディティア・バベ氏は、中所得層および高所得層の世帯が(税制改正の)最大の受益者となると予想しており、2月1週目に出された顧客向けレポートで「『K字型』の支出動向がより顕著になる可能性があります」と記しています。
K字型経済が株式市場にリスクをもたらす理由
アナリストは、こうした傾向は経済を不安定にすると指摘します。最近の個人消費の伸びは「非常に脆弱な印象を受けます」とトムズ氏は述べています。同氏は、高所得世帯における貯蓄率の低下は、彼らも支出の引き締めを今年中に始める可能性を示唆していると考えています。
高所得層の支出は株式市場の動向にも依存しています。モルガン・スタンレーの資産運用部門最高投資責任者であるリサ・シャレット氏は昨年、次のように説明しました。「こうした最上位の富裕層の資産は株式市場のパフォーマンスと密接に結びついているため、彼らの消費パターンは従来のような所得の伸びよりも、市場のパフォーマンスにますます影響されるようになっています」。
マニュライフのローランド氏は次のように述べています。「もし富裕層が自分の資産に対する自信をなくした場合、ある種の消費支出の後退が生じ、それが企業収益の減少へと波及する可能性があります」。利益の減少は利益率の縮小と収益の低下を意味し、株式リターンの低下につながる可能性があります。
「すべてが相互に関連しているのです」とローランド氏は述べています。ただし、「堅調な収益、金利低下、新たな税制改正といった追い風がある中で、市場が大幅に下落することはないと見ています」とも付け加えています。◇
※ 本稿はモーニングスターの記事「Why a ‘K-Shaped’ Economy Means More Risk for Stock Investors」 をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

