重要なポイント
- 米司法省が連邦準備制度理事会(FRB)に召喚状を発行したことを受け、FRBが独立性を失うのではないかという懸念が高まっている。
- パウエル米FRB議長は、「金融政策は政治的な『威圧』なしに決定されなければならない」と声明を発表した。一方、トランプ大統領は召喚状について一切知らないと否定している。
- FRBの独立性が低下すれば、債券市場のボラティリティ拡大や長期的なインフレ悪化につながる可能性がある。
世界で最も重要な中央銀行の独立性に対する疑念は、1月11日の日曜日に急上昇した。 米国司法省がFRBに対して召喚状を発行し、刑事捜査を行うと示唆したことを発表した ためである。
この脅威は、FRB本部の改修費用について議会で証言したパウエル氏の発言をめぐるものであり、ドナルド・トランプ大統領とパウエル議長の間で長くくすぶり続けてきた対立が大きくエスカレートしたことを意味する。パウエル氏にとって、これは大統領の利益に沿った金融政策を強要する試みである。市場参加者にとっては、インフレリスクと直面する事態である。
トランプ大統領の圧力がFRBの信頼性に与える影響
「トランプ大統領がFRBに利下げを強要することに成功すれば、最悪のシナリオではFRBの2%インフレ目標は信頼性を失う可能性がある」とモーニングスターの国際エコノミスト、グラント・スレイドは説明する。
スレイドは続ける。「これは長期的なインフレ期待が中央銀行の目標から乖離し、FRBが米国経済の物価上昇を制御することが著しく困難になることを意味する。その結果、米国のインフレは今後より不安定になり、投資家が不確実な長期インフレ見通しに対する補償を求めるため長期国債利回りに上昇圧力がかかるだろう」。
翌12日の月曜日、市場では投資家が金に殺到し、ドルがユーロとポンドに対して下落した。これは、インフレや米国債利回りを含む主要指標に対して投資家が見通しを改めたからである。米国市場は取引開始時に下落したがすぐに回復し、S&P500種指数とMorningstar 米国株式指数はともに日中取引で0.14%上昇した。テクノロジー株中心のナスダック100種指数は0.41%上昇した。
司法省の召喚状と政治介入の連続
11日夜の短いインタビューで、トランプ大統領は司法省による召喚状について「一切知らない」と否定した。くだんの召喚状はパウエル氏に刑事訴追の脅威を与えるものである。しかしこの一件は、長く続いているFRBとパウエル氏へのトランプ政権による政治的介入の最新事例にすぎない。
トランプ氏は金利政策を実施していないとして、同議長を繰り返し批判してきた。昨年、トランプ氏はパウエル氏を 「大敗者」 と呼んで解任を要求したが、その後「解任する意図はない」と述べた。さらに8月には、 FRBの理事の一人であるリサ・クック氏を標的にし、不正な住宅ローン申請を理由に解任を求めた。クック氏は現在も在任しており、双方が訴訟を起こしている。
パウエル氏は11日夜の動画で、この事件を中央銀行の独立性の将来に関わる問題であると捉え、「これは、FRB が証拠と経済状況に基づいて金利設定を継続できるか、それとも政治的な圧力と威圧によって金融政策が決定されるかという問題である」と述べた。
FRBは独立性を失うのか?
ファンドマネジャーは、トランプ氏がFRBの独立性を完全に奪うとの結論には慎重な見方を示している。
「国債市場はほとんど動いていない。これは今回が初めての警告ではないからだ」とロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメントのマルチアセット責任者トレバー・グリースハム氏は語る。「また、労働市場の軟化はFRBによる追加利下げを示唆しており、50ベーシスポイントの利下げがすでに織り込まれている」。2025年に3回の利下げが行われた後、FRBウォッチャーは概ね、労働市場の冷え込みが続いてインフレが再加速しない限り、2026年には1~2回の利下げを予想している。
先週末の出来事は、2026年の幕開けにトランプ政権が行った一連の国際的介入に続くものである。軍事作戦によりベネズエラ大統領が失脚し、さらに米国政府がグリーンランドを併合する可能性が示唆されたことで、国際政治に不安が広がっている。これらの行動は、トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」政策を断行する場合、複雑な状況をエスカレートさせても構わないと考えているという見方を強めるものである。
また、パウエル氏の任期が2026年 5 月に終了することを受け、FRB は次期議長の人選を進めており、そうした状況の中でこの召喚状は発出された。経済学者ケビン・ハッセット氏はトランプ大統領と政治的に広く一致しており、最有力候補と見られている。
BNP パリバ・アセット・マネジメントのシニアエコノミスト、マーク・アラン氏は、「トランプ大統領の指名を得るためには、パウエル氏の後継者は、金融政策を大幅に緩和することを大統領に約束しなければならないだろう」と述べる。「ただし、議長はFOMCの一人に過ぎず、最初の FRB の会合で他の委員に利下げを命じることはできない。しかし、政策論争では常にハト派の立場を取るだろう。FRB が利下げするか否かの難しい選択に直面するたびに、次期議長が金融緩和を推進する可能性が高いと投資家は予想することができる」。
アナリストは、召喚状がFRBの政策を実質的に変えるとは見ていないが、次期議長にとって状況を複雑にする可能性があると見ている。ウェルズ・ファーゴのエコノミストは「短期的な金融政策の方向性を変えるとは考えていないが、次期議長がFOMCの19人のメンバー間で合意を形成することを一層困難にするだろう」と12日に述べている。さらに、パウエル氏が議長退任後もFRBに残留するかどうかも大きな要因となる。FOMC理事としての任期は2028年まで継続する予定である。
「新議長の下でFRBが変わるかどうかを判断するのは容易ではない。パウエル氏が委員会に残るかどうか、そして住宅ローン関連の訴訟がトランプ氏に新たな戦果を与えるかどうかにもよる」とグリースハム氏は述べる。
一方で、このエスカレーションを大統領の支持率を高める長期的な政治的戦略の一部と見る者もいる。「これらの措置を総合すると、2026年半ばまでにより好ましい経済環境を作り出し、支持率を押し上げ、選挙での敗北リスクを軽減するための計算された行動である。もし一連の戦略が敗北すれば、大統領は残りの任期で政治的に弱体化する可能性がある」とチャールズ・スタンレーの最高投資責任者パトリック・ファレル氏は述べる。
FRBの独立性が失われたら、インフレはどうなるのか?
長期的には、FRBの独立性に対する不確実性が、インフレ予測や主要な経済指標に関して経済学者に深刻な懸念を抱かせている。「トランプ氏がFRBに加える圧力の高まりは、経済学者が『時間的不整合問題』と呼ぶものの典型例である」とモーニングスターのスレイドは述べる。「金融政策は長く変動的なタイムラグを伴って、やがて経済活動、さらに物価上昇に影響を与える。この特性ゆえに、政治的影響下にある中央銀行が長期的な物価安定を犠牲にして、短期的な経済成長を優先するリスクにつながる」。
スレイドはさらに「対照的に、政治から独立した中央銀行は、短期的な経済活動や雇用水準を犠牲にしてでも金融政策を用いてインフレを抑制する可傾向があり、これは中央銀行の独立性を支持する論拠となる」と説明する。これにより、米国の経済成長と景気後退リスクが注目されることになる。
「中央銀行は、2%のインフレ目標の信頼性回復を図るため、インフレ圧力に対抗する手段として『ハードランディング』(景気後退)を意図的に引き起こすという、望ましくない立場に置かれる可能性がある。こうした懸念は、 政府の行政機関からの独立性が損なわれなければ、必ずしも必要ではなかったことだ」とスレイド氏は述べる。◇
※ 本稿はモーニングスターの記事「Fed Independence Threatened as Trump’s DoJ Targets Powell」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と相違がある場合は原文が優先されます。


