スペースXの天を衝く評価額は妥当なのか?

評価額1.5兆ドルはあまりにも高くハイリスクに見えるが、理屈が全く無いわけでもない

スペースXのロゴがスマートフォンの画面に表示されています。
Thomas Fuller/SOPA Images 通じて Getty

スペースXは、史上最大規模の新規株式公開(IPO)に向けて準備を進めており、試算された評価額は1.5兆ドルに上るという。この評価額は極めて高額ではあるが、常軌を逸した数字というわけでもない。スペースXが超重量級の再使用型ロケット「スターシップ」を、予定通り、あるいはほぼ遅滞なく商業化できれば、この評価額は妥当なものとなるだろう。

ピッチブック(※)の最新の分析では、SpaceX の適正価値は 1.1 兆~ 1.7 兆ドルと評価されている。同時に、同社は、イーロン・マスク氏をめぐるキーパーソンのガバナンスリスク、最近行われた約 2,500 億ドルのxAI買収など、大きな不確実性とリスクに直面している。この買収は、「AI と宇宙インフのラプラットフォームとなる」という同社のストーリーを膨らませたが、同時に事業統合は複雑になり、リスクの査定をさらに困難にしている。また、IPO のストーリーには、宇宙データセンターと、常設月面都市「ムーンベース・アルファ」という、2 つの非常に野心的な物語への資本投入目標も含まれている。

※ ピッチブック(PitchBook)はMorningstar, Inc.の完全子会社です。

同社の成長の鍵となるのは、新型ロケットと衛星インターネット事業「スターリンク」である。この2つの事業だけでも、今後5年~7年で1.5兆ドルという評価額を正当化できる可能性がある。

スペースXは、これまで公的な財務諸表を公表したことが無いが、報道によると、上場準備として最大500億ドルの資金調達を目指しているという。IPOに向けて同社が米国証券取引委員会(SEC)にS-1フォームで財務の詳細を提出するまでは、大胆な事業計画を掲げながら財務状況に関する情報が限られているこの企業を評価する責任は、投資家が負うことになる。

以下のグラフは、ロケット事業とスターリンク衛星事業による事業収益の2040年までの推計である。

以下は、スペースXの企業価値評価に関するわれわれの分析と、将来的なIPOがどのようなものになる可能性があるかについての概要である。

スペースXの 価値はいくらなのか?

スペースXが提示している1.5兆ドルという評価は、ピッチブックが行った事業別の評価の積み上げ比較において、売上成長率ベースで見た同業他社の75〜90パーセンタイルに相当する水準である(すなわち1.1兆〜1.6兆ドルのレンジに位置する)。この評価を正当化するには、大型成長株企業全体の中でも上位1割級の成長確信が必要であり、企業収益成長倍率(ERG)は1.9倍と、パランティアに次ぐ第2位の高い水準が求められる。

どちらのフレームワークも、スターシップが予定通り、あるいはほぼ遅滞なく商業化を実現し、直接販売が予測通りの規模達した場合には、IPOが高額ではあるものの根拠が無いわけではないことを示している。主なリスクは事業の方向性ではなく、実現のタイミングにある。この非対称性は、3年~5年の投資期間を持ち、マスク氏が増幅したボラティリティを許容できる投資家にとっては有利に働くかもしれない。

ピッチブックは、スペースXの2つの事業(ロケットによる打ち上げサービスとスターリンク衛星)をそれぞれ独立した損益計算書に分解し、独自の要因を分析するきめ細かなボトムアップ型財務モデルを構築した。SpaceXは非公開企業であるため、公開財務諸表を提出していない。そのため、この分析は既存の公開情報、規制当局への提出書類、第三者によるデータセット、そして当社独自の事業分析を組み合わせて三角測量のように算出している。

なお、財務予測について当社はスペースXと直接やり取りは行っていない。このモデルは、スペースXの事業を深く掘り下げ、様々な変数が業績に与える影響を把握し、同社の成長性を評価したいと考える方にとって、非常に価値のあるものになると考えている。

スペースXは、スターリンク事業における爆発的な加入者数の増加により、2025年に約160億ドルの売上高と75億ドルのEBITDAを達成したと推定している。さらに、2040年には売上高1,500億ドル、EBITDA950億ドルに達すると予測している。

打ち上げサービスの成功

スペースXはロケットによる衛星等打ち上げサービスを、「特注品で供給能力が限定されたサービス」から、「打ち上げ頻度と再利用性を特徴とする産業としての事業」へと転換した。2025年には、スペースXはファルコン9ロケットで165回のミッション(スターシップを含む軌道投入試行は合計170回)を実施し、その年の世界全体の軌道投入打ち上げの約52%を占めた。

ピッチブックの推定によると、スペースXはファルコンロケットの第1段階ブースターを630回の使用例のうち529回再飛行させており(再利用率84%)、打ち上げコストを最大65%削減している。スペースXは、商業・民間・国家安全保障分野のペイロードにおいて、デフォルトのロジスティクスプロバイダーとなっている。これは単に低コストというだけではなく、競合他社には真似できないペースで確実なスケジュールを実現しているからである。

スターリンクの優位性

スターリンクは、衛星の設計、製造、打ち上げ、ネットワーク運用という通信ループ全体を前例のない規模で垂直統合することで、スペースXの優位性を拡大している。この衛星群は9,600基以上の運用衛星で構成されており、全世界の稼働衛星の約66%に相当する。

スターリンクは世界の150カ国以上で920万人の加入者を擁し、加入者数は2年連続で倍増している。2025年にはスターリンクが106億ドルの売上高と、利息・税金・減価償却費・償却費控除前利益(EBITDA)で58億ドル(利益率54%)を生み出すと推計され、これはスペースXの総売上高の約67%に相当する。

スペースXのIPOはどのようなものになるのか?

2026年6月中旬に実施と噂されているIPOを前に、スペースXはプラットフォーム事業として、約1.5兆ドル(2025年売上高の約94倍)の評価額を目指すと見られる。同社は株式の約3.3%を公開し、史上最大のIPOである500億ドルの戦略資金調達を計画している。この資金は、スターシップ計画のスケールアップ、スターリンク事業の拡張、D2C衛星網の構築(エコースターの周波数帯取得費用196億ドルだけで2025年通期売上高を上回る)などのためのものである。75億ドルのEBITDAと二桁のフリーキャッシュフローマージン(周波数帯取得を除く)など、リスクを低減された財務状況は、スペースXが公開市場の厳しい目に耐えうる基盤を築いていることを示唆している。

スペースXのIPOによる現金の使途

IPOのストーリーには、二つの野心的な資本投入目標が含まれている:一つは宇宙ベースのAIコンピューティング向けに最大100万基の衛星を要するという軌道上データセンター、もう一つは月面都市ムーンベース・アルファである。ピッチブックは、これら二つの計画を長期的な評価のためのコール・オプションとして扱っている。

軌道上コンピューティングの構想は、電力・冷却・規制や許認可といった地球上の現実的な制約への対応策であるが、目標を達成するにはとてつもない規模――年間約6,667回――のスターシップ打ち上げが必要であり、これは現在の世界全体の打ち上げ総質量の約530倍に相当する。このため実現は、どれほど優れた短期計画でも及ばず、それらをはるかに超えた期間を要するものである。われわれのモデルでは、いずれの構想の収益も一切織り込まれていない。

スペースXのIPOとテスラは関連するのか?

スペースXはテスラと同様に、より増幅された市場力学で取引され、ボラティリティはより大きくなるであろう。両社に共通する「工場第一主義」のDNAと、マスク氏のリーダーシップに対する「信頼性の台帳」という力学を生み出す。投資家は経営陣の提示するタイムラインを1.5倍から2.5倍程度割り引いて評価する一方で、事業の方向性に対する確信は維持するであろう。

決定的に重要な変動増幅の要因は浮動株の規模である。テスラが事業計画の遅延で10.0%~15.0%の変動を見せるのに対し、スペースXは同等の触媒要因で20.0%~30.0%のボラティリティが生じると予想される。マスク氏の二重CEOの役割と政治的な注目度は、事業実績とは無関係な「メディアの見出し主導」の大きな価格変動を生み出すことになるだろう。◇

※ 本稿はピッチブックのコメンタリーを基にモーニングスターが作成した記事「Does SpaceX’s Sky-High Valuation Make Sense?」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

編集者注記: 本記事は当初、ピッチブック.comにて公開されました。

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針