パウエル議長のジャクソンホール講演に利下げ期待が高まる

「リスクバランスの変化が、政策変更を正当化するかもしれない」と金融緩和を示唆

拡大鏡の下に描かれた連邦準備制度理事会(FRB)と背景に描かれたグラフのコラージュイラスト。

<注目ポイント>

  • 関税によるインフレ圧力にもかかわらず、ジャクソンホールでのパウエル議長の講演は利下げに積極的であることを示しているとエコノミストは見ている。
  • パウエル議長は、弱含みの労働市場と総合的な経済成長鈍化のリスクを挙げた。
  • 先物市場では、9月に4分の1ポイントの利下げが実施される可能性は89%とされている。

ワイオミング州ジャクソンホールで開催された中央銀行の年次会合で、8月22日にパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が行った待望の基調講演を受けて、アナリストは9月に利下げが実施される可能性が非常に高いと述べた。パウエル氏は、関税によるインフレ上昇圧力を指摘する一方で、リスクバランスは景気減速へと傾きつつあるように見えると述べた。

パウエル氏は、「政策が引き締め的な領域にある中、基本的な見通しとリスクのバランスの変化は、政策スタンスの調整を正当化する可能性がある」と述べた。「インフレ率は目標にかなり近づいており、労働市場はかつての過熱状態から冷えつつある。インフレの上振れリスクは減少している」という。

パウエル議長の講演を受け、債券先物トレーダーは9月のフェデラル・ファンド(FF)レートが現在の目標である4.25%~4.50%から引き下げられる確率を高めた。CME FedWatchによると、9月の利下げ確率は8月21日の73%から90%に近づいている。

FRBは9月17日に次回の金利決定を発表する予定である。

【CME FedWatchによる9月の米FFレート目標とその確率】

(棒グラフ左から7月22日、8月21日、8月22日の各時点。4.00%-4.25%への引き下げ予測が高まっている)

このニュースを受けて株式市場は急伸し、モーニングスター・USマーケット・インデックスは22日午後に1.7%上昇した。

債券市場では、10年物米国債利回りが市場開始時の4.31%から午後の早い時間帯には4.26%まで低下した。FRBの政策との関連性がより強い短期債では、パウエル氏の発言前には3.79%だった米国債2年物の利回りは3.69%に低下した。

以下は、パウエル氏の今回の講演に関するモーニングスター、その他機関のストラテジスト、エコノミストによるコメントの抜粋である。

<パウエル議長が利下げの必要を述べる>

Dominic J. Pappalardo、モーニングスター チーフ・マルチ・アセット・ストラテジスト

パウエル氏は講演の冒頭で、利下げを支持する3つの要因を挙げた:

  1. 『インフレ率はFRBの目標に近づいている』――インフレ率は依然としてFRBの目標である2%を上回っているが、過去2年間で大幅に低下した。
  2. 『労働市場はかつての過熱状態から冷えつつある』――直近の雇用統計では、雇用者数の増加が予想を下回った一方で、(さらに重要なことだが)前月のデータの大幅な下方修正も発表された。
  3. 『インフレの上振れリスクは低下した』 ――労働市場の軟化と、経済活動の減速はしばしば同時に起きる。そのいずれも、インフレ率が大幅に上昇する可能性を低下させる要因となる。

このようにスピーチを始めることで、パウエル氏が事実上利下げを主張したことは明らかであろう。これは、FRBが9月に利下げに踏み切るとの期待の高まりに対して、暗に裏付けを与える意図が含まれていたと考えられる。パウエル氏が想定した”聴衆”の中には、これまで利下げに消極的だった委員も含まれている可能性がある。前回のFRB会合では、少なくとも2人の委員が金利据え置きに反対し、その時点で利下げを希望していたことが分かっている。パウエル氏は、FRBは引き続き忍耐強く、データに基づいて対応していくと断固として主張してきた。しかし、FRBが重視するデータは明らかに悪化しており、忍耐強く対応し続ける能力にも限界がきつつあるようだ。

またパウエル氏は、GDP成長率の鈍化について次のように述べた。「GDP成長率は今年上半期に1.2%ペースと著しく鈍化し、2024年の2.5%ペースの約半分となった。これは、主に個人消費の減速を反映した結果である。労働市場と同様に、GDP鈍化の一因は、供給、つまり潜在産出量の伸びの鈍化にあると考えられる」

この発言は、雇用情勢の悪化とその二次的影響をFRBが重視していることを印象付け、リスクバランスがインフレから経済・雇用の減速へと変化したことが確認された。

パウエル氏は、関税が消費者物価に影響を与えていることを認め、「金融政策にとって重要な問題は、現在の物価上昇が継続的なインフレリスクを大幅に高めるか否かである」と述べた。パウエル氏は、関税はインフレの常態化を引き起こすのではなく、一過性の物価上昇にとどまる可能性が高いとの見方に傾いているようだ。ただし、これは長期的に金利の低下を阻む潜在的なリスクの一つであると強調した。

<労働市場で需給ともに減速>

Jan Hatzius、ゴールドマン・サックス証券 チーフエコノミスト

パウエル氏は、労働市場は「労働者の供給と需要の両方が顕著に鈍化した結果生じた奇妙な均衡状態」にあり、「労働供給は需要に伴い軟化している」と指摘した。この文脈でパウエル氏は「雇用の下振れリスクが高まっている」と判断し、これらのリスクは「レイオフの急増や失業率の上昇という形で」急速に顕在化する可能性があると述べた。また、GDP成長率が「著しく鈍化した」ものの、鈍化の一部は「供給または潜在産出量の伸びの鈍化を反映している可能性が高い」と指摘した。

<労働市場の均衡が崩れる可能性がある>

Michael Feroli、JPモルガン 米国市場 チーフ・エコノミスト

パウエル氏は、失業率がほぼ1パーセントポイント上昇した昨年の政策調整について言及し、「歴史的に景気後退期以外では見られなかった展開」であると、今回の見通しについての議論のはじめに述べた。労働市場はその後均衡を保っているが、パウエル氏はその均衡が長続きすると信じておらず、むしろ「レイオフの急増と失業率の上昇」のリスクを懸念している。

<長期的なFFレートの動向は依然不透明>

Jeffrey Roach、LPL Financial チーフ・エコノミスト

マクロ経済見通しは、FRBが9月17日会合で利下げに踏み切ることを支持している。パウエル氏が今後の利下げを暗示したことで、短期的に利回りは低下し、市場は上昇するだろう。しかし、先を見据えると、経済の構造変化によって長期的なFFレートは不確実性を高めている。中立金利は2010年代よりも高くなるだろうと言えば、十分であろう。

<FRBはかつての枠組みに回帰した>

Michael Gregory、 BMOキャピタル・マーケッツ 副チーフ・エコノミスト

「FRBは柔軟なインフレ目標の枠組み(オーバーシュートとアンダーシュートの両方を懸念し、いずれに対しても柔軟に対応できる)に回帰した。また、「雇用は、時に物価安定に影響を与えずに、最大雇用のリアルタイム評価を上回ることがあると、FRBは引き続き認識している」ものの、予防的な政策引き締めを妨げる可能性は低くなっている。

「パウエル氏の利下げシグナルは予想以上に強かったが、9月の利下げはまだ確定したわけではない。今後約1ヵ月分のデータと、その間に政権による政策展開が起きる可能性もある。しかし、今のところFRBは利下げに傾いている」。

<基調講演のトーンは明らかに変化した>

Oliver Allen、パンテオン・マクロエコノミクス 米国シニア・エコノミスト

今週初めに発表されたFRB7月会合の議事録では、ほとんどのFOMCメンバーがインフレの下振れリスクよりも上振れリスクの方が「より顕著」であると見なしていることが示唆されていたが、今回の講演は、そこからトーンが大きく変化している。

パウエル氏は今回の講演で、リスクバランスが「変化しているように見える」と認めた。この変化をもたらした明確なきっかけは、7月の雇用統計が極めて軟調だったことである。雇用者数の平均増加数は2024年の16万8000人から、過去3ヵ月間ではわずか3万5000人に落ち込んでいる。

パウエル氏はまた、関税によるインフレ率上昇リスクが、引き続き政策決定者の頭上に重くのしかかっていることを示唆した。パウエル氏はまた、我々が以前から主張してきたように、現状のように労働市場が弱いと、労働者は、関税による商品価格の急上昇に応じて実質所得を守るために賃上げを要求するに足る交渉力をが持てない、との見解を示した。

我々は、このまま雇用の低迷が続けば、失業率は数ヵ月以内にFOMCの年末予想の中央値4.50%を上回り、2025年末には4.75%近辺まで上昇すると見ている。一方、関税によるインフレは、そのほとんどが商品価格に限定されたものにとどまるだろう。こうした状況を踏まえると、FRBは9月の25ベーシス・ポイントの利下げに続き、11月と12月にもさらに25ベーシス・ポイントの利下げを実施すると予想する。これは、市場が織り込んでいるより若干大きな緩和幅である。

<FRBの基本シナリオ:関税は一時的な価格変動である>

Christopher Hodge、ナティクシス 米国担当チーフ・エコノミスト

パウエル氏は、利下げを視野に9月会合で議論されることを示唆したが、そのタイミングについては(いつものように)データ次第となるだろう。今回の講演はハト派的なものと受け止められたが、パウエル氏は、「リスクバランスの変化により、政策スタンスの調整が必要となる可能性がある」と認めた上で、インフレと失業率の両方が誤った方向、つまり「困難な状況」に向かっているとも認めた。

パウエル氏は、関税の影響は依然として続いているが、「合理的な基本シナリオでは、関税の影響は比較的短期的なもので、物価水準の一時的な変動にとどまる」と述べた。FRBは常にこれを基本シナリオとしてきたが、FOMCは関税がインフレに広範な影響を及ぼす可能性配慮する必要がある。実際サービスへの対価は、相次いで値上げされている。

※ 本稿はモーニングスターによる「Why Powell’s Jackson Hole Speech Suggests an Interest Rate Cut Is on the Way」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

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