AI革命は前例のない設備投資を引き起こしており、大手テクノロジー企業は今後5年間で5.2兆ドルの投資を計画している。市場はこの支出を評価してきたが、歴史を振り返ると懸念すべきパターンが見えてくる。企業によるインフラ投資ブームは通常、過剰投資、過当競争、株式リターンの低下をもたらす傾向があるのだ。
2025年10月に発表された研究論文「AI設備投資ブームを生き抜く(Surviving the AI Capex Boom)」の著作者であるカイ・ウー(Kai Wu)氏は、多角的な視点に立った包括的な歴史分析を行った。
歴史的なインフラ整備の急拡大
Sparkline Capitalの創業者兼CIO(最高投資責任者)であるカイ・ウー氏は、以下のような歴史上の主要な設備投資サイクルを分析した。:
- 1860年代~1890年代:米国鉄道拡張の時代
- 1990年代後半:光ファイバー通信網整備の時代
- 2023年~現在:目下のAI関連インフラ投資ブーム
彼はこれらの投資の規模を国内総生産(GDP)と比較し、インフラを構築する企業の株主が各ブーム期およびその後にどのような状況にあったかを分析した。
企業レベルの株式パフォーマンス
ウー氏は1963年から2025年までの60年以上にわたる市場データを用いて、以下を分析した:
- 資産成長率の高い企業と低い企業のリターン比較
- 資本支出が急増している企業の業績
- 10の市場セクターと主要地域における結果
- 資本集約度と株式リターンの関係
マグニフィセント7の変貌
ウー氏による調査では、資産集約型から資本集約型へ、つまり物理的資産の保有拡大にビジネスモデルを移行しつつある企業、特に「マグニフィセント7」とされるApple (AAPL)、Microsoft (MSFT)、Amazon.com (AMZN)、Meta Platforms (META)、Alphabet (GOOGL)、NVIDIA (NVDA)、Tesla (TSLA)について分析している。
具体的には以下の点を検証している:
- 過去の資本支出の推移
- 投下資本利益率(ROIC)の変動
- フリーキャッシュフローの悪化
- 債務水準の上昇と循環的な資金調達計画
主な調査結果
1. 大規模な設備投資は将来の低いリターンを示唆する
調査から、1963年から2025年にかけてバランスシートを積極的に拡大した企業は、保守的な姿勢の同業他社と比較して、年率8.4%パフォーマンスが下回ったという顕著な傾向があることが明らかとなった。この「資産成長のアノマリー」は、以下の分野で確認された:
- 10の市場セクターすべて
- 複数の地域(米国、欧州、アジア)
- 好況期と不況期の両期
- 異なるタイプの設備投資
資本支出を急速に拡大させた企業も同様に業績不振を示し、その影響は特にドットコムバブル崩壊時に加速したが、それ以外の時期でも一貫して見られた。
2. AIブームは歴史的に見ても莫大な設備投資
現在のAI関連への企業の支出は、GDP比でインターネットブームのピーク時を既に上回っている。AIチップの耐用年数が物理的なインフラに比べて短いことを考慮すると:
- 人工知能への支出は、1860年代から1870年代にかけての米国の鉄道建設費の規模をも上回っている。
- 大手テクノロジー企業は、2025年だけで約4000億ドルを支出する見込みである。
- AIへの設備投資は、米国のGDP成長率の約半分を占めると推定されている。
この規模の投資を正当化するためには、2030年までに年間2兆ドルの売上高が求められる。現在のAI関連売上高はわずか200億ドルに留まっており、つまり、短期で現在の100倍に売上高を拡大する必要があるのである。
3. マグニフィセント7が直面する特有のリスク
マグニフィセント7は、無形資産を活用した資産集約型(有形資産を多く保有しない)のビジネスモデルによって成功を収め、投下資本利益率(ROIC)22.5%を達成した。しかし、現在では重量級の資産を保有するようになっている:
- 2012年以降の設備投資額は、売上高の4%から15%に急増している。
- Meta、Microsoft、Alphabetは、それぞれ売上高の21%~35%を設備投資に充てる予定である。
- これは現在の世界の公益事業セクターの平均値を上回るだけでなく、通信バブルのピーク時にAT&T (T)が行った支出額をも上回っている。
同調査によれば、有形資産を多く保有する企業は、資産をあまり保有しない企業より一貫して業績が劣る結果となった。この傾向はセクター別でみても同様で、資産が過重な企業は、同じセクター内の資産を多く保有しない企業に後れを取っている。
4. ファンダメンタルズの悪化は問題の前兆
いくつかの懸念すべき傾向が指摘されている:
- 設備投資が加速するにつれて、フリーキャッシュフローが減少している。
- 循環的な資金調達取引は、ドットコム時代の慣行を彷彿とさせる(例えば、NVIDIAがOpenAIに1,000億ドルを投資し、その後OpenAIがNVIDIAの半導体チップを買うといった流れである)。
- Metaの270億ドルのオフバランス・ファイナンスを含め、テック企業の負債水準は上昇している。
- 減価償却費は、今後5年間で年間1,500億ドルから4,000億ドルに膨れあがる可能性がある。
- GPUの交換サイクルが速いことを踏まえると、耐用年数の想定は過度に楽観的(長め)である可能性がある。
5. AIによる囚人のジレンマ
巨大テック企業は、ゲーム理論上の課題に直面している。最適な戦略は適度で協調的な投資であるにもかかわらず、各社は取り残されることを恐れている。このため、全てのプレイヤーが積極的な支出を余儀なくされ、たとえ個々の企業が技術的に成功したとしても、全体の利益プールが破壊される可能性がある。
AI競争は、従来別々であった市場(例えば検索、ソーシャルメディア、ショッピング)の壁を破壊し、市場セグメントを超えて勝者がすべて独り占めする「総取り競争」へと統合していく。その結果、これらの企業に高い収益をもたらしてきた安定した寡占構造は消滅しつつある。
6. インフラ建設に注力した企業で、過去のブームの勝者になった企業は少ない
歴史的分析によって、以下の事実が明らかになった:
- 鉄道会社は、数十年後に経営が安定するまで、恐慌と破綻を何度も経験した。
- 通信株式は、ドットコム・バブル崩壊後に92%急落し、25年経った今もピーク時から60%低い水準で推移している。
- 鉄道建設業者は、自らが生み出した経済的価値のごく一部しか享受できなかった。
真の勝者は、莫大な設備投資が提供したインフラの恩恵を受けた分野だった。ドットコム・バブル崩壊後、過剰な設備が通信の帯域コストを90%引き下げたことが、Netflix (NFLX)やFacebookの台頭を後押ししたのである。
7. バリュエーション・リスクはインフラを超えて拡大する
資産をあまり保有しない歴史の浅い企業でさえ、過大な評価によるリスクに直面する場合がある。2000年から2019年にかけての「ドットコムの寵児」企業の業績についての分析では、以下の事実が示された:
- 約束通り年間12%の売上高成長を達成したにもかかわらず、これらの企業の株式の評価額は2000年から2002年にかけて80%下落した。
- 問題は、当初の評価が売上高の33倍と高すぎたためで、それが5倍にまで圧縮された点にある。
- ファンダメンタルズが堅調であるにもかかわらず、投資家が損益分岐点にたどり着くまでに18年もの長い年月を要した。
8. バリュー投資アプローチは投資の防御力を強化する
調査によれば、有形資産と無形資産の両方を評価モデルに組み込むことで、投資家は以下のことが実現できる:
- 革新的なテクノロジーへの構造的なエクスポージャーを維持する
- 割高から割安な投資機会へと、動的にローテーションする
- ブーム期と不況期の両方で市場をアウトパフォームする
ドットコム・バブル時代には、この投資アプローチは当初Cisco Systems (CSCO)とMicrosoft (MSFT)を選好し、やがてテクノロジー株式が割高になるとProgressive (PGR)やFedEX (FDX)へとローテーションし、暴落後には低迷していたAmazon.com (AMZN)に再び向かった。
投資家に伝えたいポイント
1. テクノロジーの可能性と投資リターンを混同しない
AIは世界に変革をもたらす可能性が高いが、そのためのインフラ構築に資金を注ぎこむ企業が、必ずしも良好なリターンを保証するわけではない。かつての鉄道やインターネットの事例が示すように、AIは社会に革命をもたらし得るが、それを構築する企業に投資する者にとっては、依然としてお粗末なリターンしか生まない可能性がある。AIというテクノロジーへの信念と、投資戦略とを明確に切り離して考えるべきである。
2. 成長率だけでなく、資本集約度にも注目する
「マグニフィセント7」(Alphabet, Amazon.com, Apple, Meta Platforms, Microsoft, Nvidia, Tesla)が、多くの有形資産を保有する資本集約型ビジネスモデルに移行していることは懸念材料である。このモデルは、歴史的にリターンの低下と関わりがあるからだ。資産を多く保有する企業は、競争優位を維持するために継続的な再投資を必要とする上に、競合他社による模倣も容易である。
ウー氏の調査によれば、AIを早期に導入して活用している企業の株価は現在13%割高な水準にとどまっているが、AI向けインフラ投資に励む企業の株価は137%も割高で取引されている。
3. 分散投資でAI銘柄偏重を克服する
マグニフィセント7は、現在、たった7社でS&P 500の時価総額の約35%を占めており、これはドットコム・バブル時代の集中度を超えている。つまり、市場指数に投資していてさえも、投資家は単一テーマへの過度な依存に陥っているのである。
AIの恩恵を受ける企業は、あらゆる業種・地域に存在し、より優れた分散を備えつつ同等のエクスポージャーを提供することができる。たとえば、インフラ構築ではなくAIを活用して業務改善に取り組む企業には、JPMorgan Chase (JPM)、Caterpillar (CAT)、Walmart (WMT)などがある。
4. 信頼に足る評価指標を活用する
従来の価値評価指標は、多くの場合無形資産を捉えきれず、バリュー投資家がイノベーションを見逃す原因となる。しかし、評価を完全に無視するれば、ドットコム・バブル時代のような惨事を招くだろう。
有形・無形の資本を共に考慮する包括的なアプローチが、最適なバランスを提供するのである。ウー氏の調査では、割安なAI株式は一貫して史上を上回る成績を収めており、割高な株式はテクノロジー分野での成功にもかかわらず期待外れのリターンに終わっている。
5. 過剰供給がAI導入企業を有利にし得る
過去の傾向を見ると、今起きているAIインフラ拡充ブームは、過剰なAIの計算能力を生み出す可能性がある。そうなれば、AIの利用コストが低下し、実質的に初期にAIを導入した企業にとって有利な環境となる。この現象は、過剰な光ファイバーの容量がNetflixやFacebookの台頭を可能にした経緯とよく似ている。
6. フリーキャッシュフローとバランスシートに注視する
設備投資が加速する企業について、以下のファンダメンタルズの悪化に注意すべきである:フリーキャッシュフローの減少、負債水準の上昇、循環的な資金調達がどのように行われているか、そして実際の減価償却費を隠すような過大な耐用年数の見積もり。特に、売上高の伸びを上回るペースで設備投資を拡大している企業には警戒が必要である。そうした企業が、債務を発行して拡張資金を調達している場合や、顧客・サプライヤーとの間で循環的な投資取引を行っている場合は、一層注意しなければならない。
7. 地理的分散とセクター分散を考慮する
AIの恩恵を受ける企業は、米国のテクノロジー大手企業だけではない。台湾、韓国、オランダ、イスラエル、ドイツ、日本、スイスなどの国々も、AIバリューチェーンの様々な分野を通じて重要なエクスポージャーを提供している。
8. 100倍の収益ギャップを忘れてはいけない
繰り返しになるが、現在の設備投資が経済的な合理性を持つためには、AI関連の年間収益が2030年までに200億ドルから2兆ドルへと成長する必要がある。現状と目標値との間にあるこの膨大なギャップは、設備投資の減速、期待外れの売上高、あるいは競争による利益率の圧縮のいずれかが起きる可能性を示唆している。そのため、インフラ構築に励む企業が現在の評価額で投資を収益化できる能力については、懐疑的な姿勢を保つべきである。前例のない収益成長や並外れた価格決定力を抜きにして、この計算が成り立たないことは明らかだ。
9. 投資を継続しつつ、厳選することが重要
以上のような懸念があるにもかかわらず、割安なAI関連株式は一貫して市場を上回るパフォーマンスを示してきた。目標はAIを避けることではなく、バリュエーションや資本集約度などのリスクを管理しつつ、投資を続けることである。
結論
AI革命は目下の現実であり、経済を変革する可能性が高い。しかし、歴史が示すように、「テクノロジーが約束する世界像」から「投資家が利益を手にするまで」の道のりは、過剰投資、過剰供給、そしてインフラ構築に挑む企業の期待外れのリターンなどによって、しばしば妨げられてきた。
S&P 500の約35%を占める「マグニフィセント7」が続々と史上最大の設備投資に乗り出している。これによって投資家は、資産軽量型ビジネスモデルから歴史的に課題の多い重量級の資産保有型事業へと移行する企業への集中投資というリスクに直面している。
解決策はAIを放棄することではなく、その恩恵を享受する方法をより広い視野でとらえることだ。AIへの投資機会と本源的価値を重視する投資規律を組み合わせ、大規模な設備投資をせずに早い時期からAIを導入した企業に焦点を当て、広範なセクターや地域を視野に入れて、AIバリューチェーン全体での分散投資を維持することを考えよう。そうすれば、投資家はAI革命に参加しつつ、資本サイクルの歴史が示唆する「重大なリスク」を管理することが可能となるだろう。
過去のインフラブームの勝者は、往々にしてインフラを建設した企業ではなく、それを賢く活用した企業であった。今日の賢明な投資先は、何千億ドルもAIデータセンターに投じる企業ではなく、この前例のない設備投資が生み出すイノベーションと過剰供給の可能性から利益を得る立場にある企業にあるのかもしれない。
ウー氏が経営するSparkline Capitalでは、彼の知見を実装する2つの上場投資信託(ETF)を提供している:
「Sparkline Intangible Value ETF (Sparkline無形価値ETF) (ITAN)と「Sparkline International Intangible Value ETF(Sparkline国際無形価値ETF)(DTAN)である。
モーニングスターのデータによると、前者のファンドは、現在のP/E(株価収益率)は14.4倍で、Vanguard S&P 500 ETF (VOO)の22.9倍と比べて割安である。またグローバルに投資を行う、後者のファンドのP/Eは、さらに低く12.6倍である。
AQR、Avantis、Bridgeway、Dimensionalといった運用会社のファンドと同様に、Sparklineの投資戦略は実証的な研究にもとづいており、体系的かつ透明性が高く、再現可能な方法で運用されている。◇
筆者であるラリー・スウェドロウは、最新刊『 Enrich Your Future』を含む18冊の投資に関する書籍の著作者/共著者である 。彼はまた、投資戦略の教育者として、登録投資顧問(RIA)向けのコンサルタティングを行っている。
※著者はフリーランスのライターであり、本稿は著者個人の考えにもとづいて書かれています。モーニングスターは多様な考え方を尊重しており、様々な視点からの記事を掲載しています。
※ 本稿はモーニングスターによる「Why the AI Spending Spree Could Spell Trouble for Investors」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
※ 本稿は情報提供のみを目的としており、いかなる投資も推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、投資資金の性格、投資姿勢などを考慮して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

