S&P 500種指数(以下S&P500)に新たに株式を組み入れられることは、その企業が真に成功を収めたことを示す「認定の証」と見なされてきました。しかし最近の研究によると、長期的にはSアウトパフォームできないどころか、指数に入らなかった同業他社を大幅に下回ることが明らかになりました。
パッシブ運用やシステマティック運用に投資する投資家、アクティブ運用でポートフォリオを構築している投資家、いずれにとってもこの調査結果は重要な示唆を与えています。本稿では、研究論文「S&P 500対同業他社の業績:インデックスへの組み入れは重要か?(S&P 500 vs. Peer Firm Performance: Does Index Inclusion Matter?)」の著者であるニール・サンディファー氏、ジョーイ・スミス氏、ヨハネス・インピンク氏がどのような発見をしたのか、その結論に至った経緯、それが投資判断にどのような意味を持つのかについて解説します。
S&P 500を分析する新たな視点
S&P 500への組み入れに関する既存研究の多くは、短期的な株価の動き、つまり発表後の数日や数週間の株価推移に焦点を当ててきました。
短期的な傾向についてはすでに定説があります。ある企業が指数に組み入れられると、インデックス・ファンドがベンチマークに合わせるために大挙して同社の株式を購入するため、通常その株式は急騰します。この一時的な上昇は、数十年にわたる研究で実証されています。
背景は比較的シンプルです。S&P500への組み入れ予測が大きなビジネスとなっており、先回りする投資家によって組み入れが既に織り込み済みになっているからです。そのため、組み入れ発表日には株価が上昇するものの、実際の組み入れ日には下落する可能性がある点にも注目すべきです。いずれの場合も、初期段階の投資家は、過大評価されている可能性のある価格で指数運用者に仕込んだ株式を売り出していることになります。
しかし、サンディファー、スミス、インピンクは、より本質的な問いに着目しました。「長期的にはどのような結果になるのか、また、適切な比較対象は何なのか」。
彼らは、各株式の指数組み入れ後3年間を対象として、そのパフォーマンスを、当該指数そのものや市場全体ではなく、S&P 500に組み入れられたことのない同業他社を、厳密にマッチングして比較対象としました。
彼らのマッチングアルゴリズムでは、S&P 500に新規に組み入れられた各企業に対して、ファーマ・フレンチの48業種分類に基づき、「同じ業種に属し」、「時価総額が類似し」、「総資産利益率(ROA)で測定した収益性も類似している」指数の組み入れ対象外企業を、対応する比較企業としました。この方法によって、CRSPおよびCompustatのデータベースから抽出した、35年間(1989年~2019年)にわたるデータに基づく331組の企業ペアが作成されました。
S&P 500に組み入れられた企業と、最も類似した非構成企業の株式を比較することで、業界の動向、規模効果、および基本的な収益性の違いを排除し、指数組入効果を特定することが可能となります。
以下に、その主な調査結果を挙げます。
1. 同業他社を大幅に下回る
企業規模、簿価時価比率、収益性、取引高、レバレッジ、および業種・年次固定効果を調整した結果、S&P 500に組み入れられた企業は、同指数に組み入れられなかった対照企業群と比較して、累積異常収益率(cumulative abnormal returns, CAR)が有意に低くなりました。
さらに、この収益の不振は複利で悪化していきました:
- 1年間:組入れられた企業は、同業他社と比較して28.0%アンダーパフォーム。
- 2年間:33.1%アンダーパフォームに拡大。
- 3年間:さらに40.2%アンダーパフォームに拡大。
- 5年間:さらにアンダーパフォームは55.2%に拡大。
サンディファー、スミス、インピンクはは、この効果が10年後でも持続していることを指摘しています。
また、これらの結果は統計的に極めて有意であることも検証されました(基本シナリオでは有意水準1%、t値=-6.37)。さらに、さまざまな頑健性テスト(異なる時間バッファー、異なる産業分類体系、異なる外れ値処理(ウィンゾライゼーション)の水準、およびカーハートの4因子モデル)においても一貫して確認されました。したがって、この結果は特定の仕様による偶然の一致とは考えられません。
彼らはまた、感度分析(sensitivity test)を行い、指数に組み入れられた企業を、マッチングされた同業他社ではなく、他の期間における自社と比較しました。その結果、指数に組み入れられる前の3年間、これらの企業は77%前後の大きなプラスの異常リターンを生み出していたことが明らかになりました。株価が上昇したことは驚くべきことではなく、その根底にある企業価値の上昇こそが、組み入れ候補として検討されるきっかけとなったからです。
では、組み入れ後はどうなったでしょうか?その傾向は急激に逆転しました。指数への組み入れ日は、転換点となったようです。
2. よりボラティリティが高い
パフォーマンスの低さは、単にリターンの問題にとどまらず、より高いリスクをも伴っていました。著者らの調査によると、S&P 500に組み入れられた企業は、同じ3年間において、対照群となる非構成企業と比較して、統計的に有意に(t値=2.84)株価のボラティリティが高かったことが判明しました。
この知見は、指数への組み入れが、その株式の価格動向を他の構成株式に近づける――いわゆる「連動性」と呼ばれる概念――という、これまでの学術研究の結果と一致しています。つまり、個々の企業のファンダメンタルズによるものではないボラティリティが生じる可能性があることを示唆しています。
3. ファンダメンタルズも悪化
この研究の最も重要な点は、株価にとどまらず、企業の収益性まで分析していることです。S&P 500に新規で組み入れられた銘柄は、組み入れ後3年間にわたり、4つのファンダメンタルズ指標つまり、総資産利益率(ROA)、株主資本利益率(ROE)、投下資本利益率(ROIC)、純利益率が、比較対象となる同業他社を下回りました(有意水準5%で統計的に有意)。
名声の隠れた代償
著作者は、自らの調査結果を説明するための理論的枠組みを提示しています。S&P 500への組み入れによるメリット――投資家の認知度向上、流動性の向上、機関投資家の保有状況の変化、および認証効果――については、これまでの文献で十分に立証されています。しかし、その代償となるコストについてはほとんど注目されてきませんでした。著者らは、以下の5つの明確なコストメカニズムを特定しています:
1. (仮説)ハングリー精神の低下
新たに王座に就いたチャンピオンが、かつての輝きをもたらした原動力を失ってしまうように、指数組み入れに選定された企業もまた、そこに到達するまでのような競争への切迫感を失ってしまう可能性があります。S&P 500への採用を目指してたゆまぬ努力を重ねてきた経営陣は、より安住した、積極性に欠ける経営スタイルへと移行してしまうかもしれません。
2. (仮説)大手企業への追従圧力
指数に組み入れられると、企業は既存のS&P 500構成企業――通常ははるかに規模の大きい企業――と比較して役員報酬の水準を合わせるよう圧力を受けます。これにより、報酬水準が引き上げられ、報酬体系(ストック・オプションの増加、基本給の引き上げなど)が調整されますが、こうした変更は株主にとって付加価値を生まない可能性があります。
3. (仮説)アクティブ投資家の監視喪失
指数に組み入れられる以前には、企業は自らの動きを逐一注視する、要求の厳しいアクティブ投資家層を積極的に取り込み、その期待に応える必要があります。ところが組み入れ後は、株主の大部分がパッシブ型インデックス・ファンドとなるため、業績の良し悪しにかかわらず株式を保有し続けてくれます。「アクティブ投資家による監視」という良い意味でのプレッシャー(ユーストレス)は薄れていきます。
4. (仮説)「参加料」の圧力
S&P 500への組み入れは、規制、監査、コンプライアンスに関する負担の増大を招く可能性があります。また、必ずしも経済的価値を生み出すとは限らないものの、社会的には望ましいと考えられる高額な環境・社会イニシアチブやガバナンス体制の導入を求める社会・文化的圧力も生じる可能性があります。
5.(仮説) 矯飾のメッキが剥げる
上場前の期間において、企業はS&P委員会に対してより魅力的に映るよう、短期的な財務管理を行うことがあります。具体的には、研究開発費の削減、利益の操作、あるいは短期的な指標を良く見せるために借り入れを調整するなど、最終的には事業基盤を弱体化させるような措置を講じる場合があります。なお、著作者らはこの点については検証を行っていません。
さらに別の説明として、この現象の一部は、ヴェルナー・デ・ボンドとリチャード・セイラーが1985年の論文「株式市場は過剰反応するか?」で初めて提唱した「長期反転効果」による影響の可能性も示唆されました。しかし、この新しい論文では、その効果の現れ方がはるかに顕著であるようです。
こうした現象は単に近年起きているというわけではありません。これまでのいくつかの研究では、指数組み入れ効果は2008年頃に変化し、特に後期になるほどよりネガティブな結果が現れるようになったことが示唆されています。そこで、サンディファー、スミス、インピンクは、サンプルを2008年以前とそれ以降の期間に分割することで、この点を直接検証しました。
その結果、2008年以降の期間全体では株式リターンが低くなりましたが、組み入れられた企業のパフォーマンスの低下幅については、両期間において有意な差は見られませんでした。指数組み入れ効果が長期的な相対的パフォーマンスに及ぼす影響は、35年間にわたる全サンプルを通じて一貫しているようです。
投資家にとってどんな意味があるか
この研究結果は、過度に懸念する必要は無いもののインデックス・ファンドについて、慎重に心に留めておくべき点を示唆しています。以下に、考えるに値する主なポイントを挙げます:
1. 指数への組み入れは、買いシグナルではなく、売却の判断材料となり得る
S&P 500への組み入れを「質の証し」と考えるアクティブ投資家は、誤った判断を下している可能性があります。調査によると、組み入れは業績のピークと重なる傾向があることが示唆されています。つまり、企業は組み入れ直前に、その輝かしい節目を迎えるために懸命に努力した結果、最高の状態にあることが多いのです。組み入れ後の3年間は、比較的期待外れな結果に終わる可能性があります。
2. 惜しくも選ばれなかった企業を見逃さない
本調査において、S&P 500の新規採用企業とペアになった、規模、業種、収益性において類似しているものの、採用には至らなかった「非採用の類似企業」は、著しく優れたパフォーマンスを示しました。これらは、まだその実力を証明し切れていない企業です。調査に意欲的なアクティブ運用者にとって、S&P 500の採用ラインをわずかに外れた、大型で収益性の高い企業群は、有望な投資対象となる可能性があります。
3. ロング・ショート戦略はアルファを生み出す可能性がある
著作者は実用的な取引手法として、S&P 500構成銘柄ではない類似銘柄をロングし、S&P 500に最近組み入れられた銘柄をショートするロング・ショート・ポートフォリオを提案しています。パフォーマンスの差(1年から5年で28%から55%)の大きさと、新規組み入れ銘柄のボラティリティの高さを考慮すると、このような戦略のリスク・リターン・プロファイルは魅力的である可能性があります。個別株式の空売りを行う柔軟性を持つ機関投資家のファンドマネジャーにとっては、これはさらに検討する価値のある魅力的なアイデアとなるでしょう。
4. パッシブ投資家は、指数構成のメカニズムを意識しておくべき
この研究は、パッシブなインデックス投資が悪い戦略であることを意味するものではありません。S&P 500は長期的に高いリターンを生み出しており、パッシブ型ファンドのコスト優位性は依然として魅力的です。
しかし、この研究は、インデックスの構成見直しが特有の値動きを生み出すことを浮き彫りにしています。インデックスは、新規企業組み入れに際して相対的に高値圏にある株式を購入する傾向があり、それに連動するファンドもそうならざるを得ないのです。投資家は、インデックスのリバランスという仕組みそのものが、短期視点の市場参加者に利用される可能性があることを認識しておくべきです。
5. 新規組み入れ企業のファンダメンタルズを注視する
S&P 500に新規に組み入れられた企業のパフォーマンス不振は、単に株価が平均値へ回帰したためではなく、事業ファンダメンタルズの悪化に起因している可能性があるため、アクティブ投資家は、最近組み入れられた企業の利益率、総資産利益率(ROA)、株主資本利益率(ROE)を注意深く監視すべきです。指数に組み入れられた後の四半期における利益率の低下は、注意信号となる可能性があります。
S&P 500への組み入れについての重要な注意点
著作者は、この研究は相関関係と時間的な先行関係を示すものであり、因果関係を論じているわけではないことを慎重に指摘しています。
指数への組み入れが業績不振を引き起こすとは断定できません。指数に組み入れられるような企業は、企業のライフサイクルにおいて、その時点でそもそも業績不振になりやすい傾向があるのかもしれません。しかし、本研究の手法、特に綿密なペア企業抽出の方法や感度検証は、こうした懸念を払拭する上で大いに役立っています。
留意点として、この研究では長期にわたるデータ(企業ごとに少なくとも7年分)が必要とされるため、必然的に最も最近に上場した企業は対象外となり、その結果、分析結果は過去の観測値に偏ったサンプルを反映したものとなります。この知見が、ごく最近上場した企業にも同様に当てはまるかどうかは、今後の検証を待つ必要があります。
また、データセットが2019年で終了している点にも留意すべきです。これは、コロナ禍による市場の混乱や、パッシブ投資の市場シェアが継続的に拡大した時期よりも前で終わっているということです。研究自体が2008年以降の状況が関連性を持つ可能性を認めています。ですから私たちは、将来組み入れ効果がどのように現れるかに、2020年以降の構造的変化が影響を与える可能性についても検討すべきでしょう。
最も重要な点として、指数に組み入れられた後の初年度における28%のアンダーパフォーマンスという結果は、現実的とは思えないほど高い数値です。私はこの点を著作者たちに直接指摘しましたが、彼らはデータを再確認した上で、この結果を支持すると回答しました。
とはいえ、さらに2つの堅牢性検証を行うことで、この結果に対する信頼性をさらに高めることができるでしょう。第一に、著作者はケン・フレンチのデータベースを使用し、SMB(第1~5デシル対第6~10デシル)ではなく、第9~10デシル対第1デシルを用いて規模を調整し、規模効果についてより深く掘り下げるべきです。このアプローチは、著作者自身のマッチング運用プロセスをより忠実に反映するものとなるでしょう。
第二に、単純な検証方法として、組み入れられた企業とその時点で既にS&P 500に組み込まれていた企業と比較することも考えられます。既存の構成銘柄は規模の面でより適切な比較対象となり、また、中心的な論点は「新規採用銘柄は採用後にパフォーマンスが劣る」という点であるため、新規採用銘柄は既に構成銘柄となっている同業他社に対しても同様に遅れをとることが予想されます。
投資家にとっての結論
S&P 500への投資は、決して悪い選択ではありません。しかし、この調査によると、指数への組み入れという瞬間――つまり、米国を代表する企業群への待望の加入――こそが、その株式への投資比率を高めるにはまさに不適切なタイミングである可能性が示唆されています。
組み入れ基準をクリアしきれなかった、つまり「あと一歩で組み入れ」となる企業は、依然として意欲旺盛で、アクティブ投資家の支持を求め続け、パッシブファンドからの確実な需要という緩衝材なしに事業を展開しています。こうした企業こそが、より優れた長期リターンを秘めているのかもしれません。◇
※ 本稿はモーニングスターの「The S&P 500 Bump That Doesn’t Last」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

