個別銘柄の選択や市場タイミングの判断を伴うアクティブ投資は、長い間「敗者のゲーム」であると言われてきました。チャールズ・エリスは、名著『敗者のゲーム』(日本経済新聞出版、訳 鹿毛雄二)で、市場を上回る運用をすることは可能だが、その確率は極めて低いので、挑戦するのは賢明ではないことを示しました。
では、投資家にとって賢明な「勝者のゲーム」とは一体何なのでしょうか?
健全な投資戦略は、意見や体験談ではなく、査読済みの学術研究に基づくべきです。市場は、「完全に」とは言えないものの非常に効率的だという圧倒的な証拠があります。つまり、ほとんどの情報はすでに価格に反映されているので、アクティブ運用者がコスト控除後のパフォーマンスにおいて、継続的に(市場平均を)上回ることは極めて困難だということです。
したがって、最も効果的なアプローチは、銘柄選択やマーケット・タイミングに依存する戦略を避け、代わりに透明性が高く、再現可能な戦略、たとえばインデックスファンドや定量的ファクター・ベースの戦略アプローチに焦点を当てることです。
勝者のゲームの原則
1) ミスとコストの最小化
エリスの洞察の中核は、敗者のゲームにおける勝利の鍵は「ミスを少なくすること」、つまり取引を最小限に抑え、マーケット・タイミングに賭けることなく、コストを低く抑えることです。過剰な取引やホットなトレンドを追いかけるといった、リターンを蝕むよくある落とし穴を投資家が避けるには、インデックスファンドやシステマティック戦略はが役に立ちます。
2) リスク調整後リターンは重要である
市場が効率的であるならば、あらゆるリスクの源泉は同程度のリスク調整後リターンを生むはずです。投資家はボラティリティ(標準偏差)だけに注目するのではなく、歪度、尖度、流動性リスクなど他のリスク特性も考慮すべきです。
例えば、負の歪度や流動性の低い資産は、その代償としてより高いリターンを提供する可能性があるかもしれませんが、これらのリスク要因を理解し、管理する必要があります。シャープレシオのような伝統的な指標は有用ですが、投資の全体像を示していない可能性があります。
3) リスクの源泉を分散する
投資家は、(市場ベータのような)単一のリスクの源泉に集中するのではなく、独立した、論理的な裏付けのある、できるだけ多くのリスクとリターンの源泉に分散投資をするべきです。膨大な情報を取捨選択する手間を避けるために、「リスクの源泉」は以下にリストアップした基準をすべてクリアする必要があります:
- プレミアムの持続性:長期にわたって、また経済体制が異なっても変わらずに有効であること。
- プレミアムの普遍性:国、地域、セクター、資産クラスを超えて有効であること。
- プレミアムの堅牢性:様々な定義――例えば、P/B(株価純資産倍率)、営業利益、キャッシュフロー、売上高など――のいずれで測定しても、バリュー・プレミアムが存在すること。
- 投資可能性:理論だけではなく、取引コストなど実際の投資における問題を考慮した上でも、十分に通用すること。
- プレミアムの直観性:プレミアムが存在し、それが継続的であるならば、その理由は、リスクまたは行動科学の観点から論理的説明が可能です。投資家はリスクに基づく説明を優先すべきですが(リスクは裁定取引で解消できないので)、空売りのリスクとコストなど裁定取引に明確な限界がある場合は、行動の側面からの説明も一理あるでしょう。たとえばモメンタム・ファクターは、人々の行動と裁定取引の限界に起因して持続的に起こる行動科学で説明できるアノマリーの一例です。
株式60%債券40%の定番ポートフォリオを超えて
伝統的におススメされる標準的な資産配分である株式60%/債券40%のポートフォリオでは、株式によるリスクが総合的なリスクの85%~90%という大部分を占めます。さらに、2022年のように債券と株式が同時に下落することもあり、分散投資のメリットが損なわれる場合もあります。
投資家は標準的な資産配分にとどまらず、先に挙げた条件を満たすものであれば、資産クラスやリスクの源泉を追加して検討する必要があるかもしれません。
伝統的なポートフォリオを多様化し、勝者のゲームをプレーするための実践的ステップ
勝者のゲームを戦う投資家は、以下のステップを実践すべきです:
- 低コストのインデックスファンドや上場投資信託(ETF)を活用して、幅広い市場へのエクスポージャーを、コストを最小限に抑えて保有する。
- ファクターベース戦略の追加を検討する――アンドリュー・バーキンと私は、共著『ファクター投資入門』(パンローリング、ウィザードブックシリーズ270)の中で、規模、バリュー、モメンタム、収益性/クオリティの各ファクターが、すべての投資基準を満たすことを示す証拠を示した。
- プライベート・クレジット、不動産、再保険、インフラストラクチャー、トレンドフォロー戦略といったオルタナティブ資産クラスを、利用しやすく費用対効果が高い場合に限って、さらなる分散投資のために検討する。
- 自分の目標、リスク許容度、投資期間に合わせて明確な投資方針を策定し、それを遵守することに重点を置く。
- パフォーマンスを追い求めたり、市場の投資タイミングを計ったり、ポートフォリオを頻繁に変更したくなる誘惑に負けない。
ケビン・グローガンと私は、著書『Reducing the Risk of Black Swans』の中で、それぞれ独自のリスクとリターンの源泉を持つ上記の投資戦略に分散投資することで、投資家は結果の潜在的なばらつきを大幅に減らすことができ、退職者が直面するテール・リスクや恐ろしい「リターンの順番リスク」を軽減しながら、ポートフォリオの効率を改善できることを実証しました。
アクティブ投資の罠を避ける
投資における勝者のゲームとは、市場を出し抜くことではなく、ミスを最小限に抑え、コストを低く抑え、エビデンスに基づく戦略を用いて賢く分散投資を行うことです。チャールズ・エリス氏が強調したように、勝つための最も確実な方法は、アクティブ運用の罠を避け、自分でコントロールできる部分、すなわち資産配分、分散投資、そして規律ある執行に集中することです。
『敗者のゲームでは、戦略的なミスを最小限に抑えた方が勝つ……明確に文書化した投資方針と、本当にニーズに応える資産配分を設定することに集中すべきである。資産構成こそが重要であり、市場タイミング、銘柄選択、ポートフォリオ戦略の変更は大した問題ではない。』◇
※ 著者ラリー・スウェドローについてはこちらをご覧ください。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。

