投資判断を誤らせる『3つの罠』にご用心

危険な判断へと誘導する「誤解を招くベンチマーク」「過大評価された債券利回り」「誤った住宅ローン計算」

私はファイナンシャルプランナーとして20年以上にわたって、多くの人々が誤解を招くような投資戦略に惑わされるのを見てきた。今回は、誰もが警戒すべき、人々を誤った判断へと誘導するきわめて一般的な3つの手口を紹介しよう。

「当社は過去10年間、S&P 500を上回る成績を上げてきました」

S&P 500は米国株式市場を測る優れた指標ではあるが、私はダウ・ジョーンズ米国総合株価指数やMorningstar 米国株式指数のようなより広範な市場をカバーする指数の方が優れていると考えている。いずれにせよ、よくある落とし穴のひとつは、ファンドや運用会社のトータル・リターンを、特定の指数のプライス・リターンと比較することである。

たとえばS&P 500構成銘柄は、通常配当金を支払っているが、この指数のリターンには(特に記載がない限り)配当が含まれておらず、価格変動だけに基づいて算出されている。3月時点でのS&P 500の過去10年間の累積リターンは257.2%、年率換算で13.7%だが、配当金を再投資した場合のトータル・リターンは321.7%、年率換算では15.6%に跳ね上がる。

こうしたことから、配当を含む総合的な運用パフォーマンスを、単純に価格だけを反映した指数と比較して強調する「金融のプロ」がいるとすれば、それは誤解を与える比較をしていることになる。

この問題は、とりわけ、S&P 500のリターンを一定の条件下で提供するよう設計された一部のバッファ型ETFや、デリバティブ商品は、配当金を除外した「ピュア・インデックス」を参照している。また、多くの固定インデックス型年金保険も同様に、インデックスの基礎資産である株式の配当を除外している。重要なのは、「ピュア・インデックス」は単に価格変動のみを示しており、その指数のトータル・リターンの一部分に過ぎないという点である。

この落とし穴を避けるには、比較対象としているベンチマーク指数が、配当金を含むトータル・リターンで表示されていることを必ず確認する必要がある。つまり、自身のトータル・リターンを評価する際は、適切な指数のトータル・リターンと比較しなければ意味がないのである。

「地方債ファンドなど不要です!当社に債券運用を任せれば、信用格付けとデュレーションが同等で、地方債ファンドより遥かに高い利回りを実現します」

この手法の一例を挙げると、次のようなものです。

「iShares National Muni Bond ETF(MUB)の利回りはたった3.25%ですが、当社の債券運用なら同様の特性を持つポートフォリオを構築し、4%の利回りを実現できます。つまり、0.75%の利回り差があるということです」

ここで比較されている利回りの数値は、そもそもがリンゴとオレンジのように全く異なるものを比べている。ETF(上場投資信託)や投資信託は有価証券としてSEC(米国証券取引委員会)の規制下にあり、私がここで引用したのはSECが公表している30日間の利回りである。

一方、直接購入する地方債は、自主規制機関である地方債規則制定委員会(MSRB)の規制を受けており、元本償還分を利回りに含める表示が認められている。地方債は通常、プレミアム付きで発行され、満期または償還時に額面価格で償還される。例えば5%のプレミアムで購入した5年物の地方債では、毎年約1パーセントポイントのプレミアム償却分が、見かけ上は「利息収入」として計上されることになる。当然ながらこの例で運用会社が提示した4%の利回りは、実際には債券ETFよりもはるかに低い実質収益しか得られない。

「インカムとは言えないもの」のもうひとつの例は、一部の単純年金保険(Simple Annuity)である。例えば、10万ドルを保有する65歳の男性は、8%の「終身インカム」を受け取ることができるとする。これは、一見すると利回り4.8%の30年物米国債よりもはるかに有利に見える。しかし、被保険者が亡くなった場合には相続人や配偶者が何も受け取れないため、この「終身インカム」には実際には払込保険料(元本)の返還分が含まれている。一方米国債は、満期時においても変わらず10万ドルの価値を維持する。

「住宅ローンを完済する必要はありません。私たちなら、もっとずっと多くの収益を提供できます」

それはこんな主張を展開する。「住宅ローンの金利は5%だが、税控除も受けられるので、税引き後の実質的な負担は3%強に過ぎません。一方、バランス型のポートフォリオなら7%の収益が見込めます。ローンの返済などと迷う必要はありません」

まず、最終的に住宅を売却する際の価格に影響を与えないため、住宅ローンの完済はリスクのない投資であるということを理解する必要がある。株式はもちろん、債券でさえも投資に伴うリスクがある。資金運用におけるリスクのあり・なしを並列して比較するという理屈が通るなら、私たちは皆、信用取引をしても株式への投資額を増やすべきだということになってしまう。当たり前だが、それは途轍もなく危険な行為である。

この主張のもう一つの欺瞞は、税控除によって住宅ローンの金利を5%から3%に引き下げて見せる一方で、ポートフォリオのリターンは税金が無視されている点にある。投資収益は当然ながら課税対象となる。私の経験では、顧客は住宅ローンによる税制上のメリットをほとんど、あるいは全く得られず、一方で所得税とポートフォリオからの収益に対しては所得税と3.8%の投資収益への税を支払っているケースがほとんどである。

賢明な言葉を肝に銘じる

私がこうした営業の手口を顧客に説明すると、彼らはその手法を使う人々を「悪人」と決めつけがちである。しかし、私はそうは思わない。金融サービス業界では、非常に善良な人でもこうした手法を営業に用いることがある。彼らは、慈善活動に資金を寄付したり時間を割いたりしている。

では、なぜ彼らはこうした手口を使うのだろうか?私が思うに、彼らは単に上で書いたような論理を理解していないだけなのだ。地方債の利子収入には、顧客自身の元本返済分が含まれていることを理解しているアドバイザーは、ごくわずかである。住宅ローンは債券とは逆であると説明すると、多くのアドバイザーは私に対して腹を立てる。アップトン・シンクレアが言ったように、「その人が理解しないことに給与が依存している場合、その人に何かを理解させるのは難しい」(※)のである。

※ “It is difficult to get a man to understand something, when his salary depends on his not understanding it.” ――Upton Sinclair

私のアドバイスとしては、ベンチマークを設定するときは、必ず適切な指数のトータル・リターンと比較することである。自分の投資元本がインカムとして計上されていないことを、必ず確認すべきである。借り入れる金利(住宅ローン)より低い金利で資金を貸し出す(債券を発行する)ことは、概して利益にならないということを理解しておいて欲しい。

  • トータル・リターンとプライス・リターンを比較しない
  • リターンの表示に投資元本の払い戻しが含まれている場合がある
  • 借りるより高い金利の安全資産など普通はお目にかかれない ◇

※ 本稿はモーニングスターの記事「Don’t Be Fooled By These 3 Investing Tricks」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針

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