マーク・モビアスさん、ありがとう。89歳で逝去した、伝説の「新興国投資の父」

新興国投資の醍醐味を教えてくれた、人間味あふれる冒険者

マーク・モビウス氏が写真撮影に臨んでいます。
Aalok Soni 通じて Getty

マーク・モビアス氏は、中東、アフリカ、中南米、アジア、東欧など、新興国各地に40年以上にわたり自ら足を運び、投資を行ってきた。数々の危機や困難に直面した逸話と、運用実績によって、いつしかエマージング・マーケット(新興国市場)投資の生ける伝説となったのである。そのマーク・モビアス氏がシンガポールで2026年4月15日、89歳で世を去った。

モビアス氏は、Templeton Developing Markets(TEDMX)を通じて、新興国市場への投資を広く普及させた人物である。「新興国市場の父」とも呼ばれるモビアス氏は、ジョン・テンプルトン卿自身の招聘により1987年から2016年まで、同ファンドの運用を担当した。同氏は優れた語り手であり、投資と旅の臨場感あふれるエピソードを巧みに織り交ぜることで、新興国市場を鮮やかで刺激的なものとして人々に伝えてきた。

かつて投資において新興国市場ブームがあった。AIやドットコム・ブーム以前の話である。投資家や企業が新たな市場に目を向け、その成長可能性に熱狂した時代である。背景には、1989年11月、「鉄のカーテン」と言われたベルリンの壁崩壊や、1994年の年初の北米自由貿易協定(NAFTA、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国間自由貿易協定)発効などがあった。

ユル・ブリンナーを思わせるスキンヘッドをトレードマークとするモビアス氏の風貌は、世界中の投資家から一目で彼だと認識されるほど有名になった。

フランクリン・リソーシズのCEO、ジェニー・ジョンソン氏はLinkedInの投稿で以下のように述べている。

「マークは単に『新興国市場の父』というだけの存在ではなく、私と私の家族にとって、彼は親愛なる友人でした。私の最も大切な思い出のいくつかは、オフィスの外で過ごした時間です。ブラジルで一緒にカーニバルを祝ったり、アムステルダムを探索したり、両親が彼の旅行に同行した時のことなどです。そうした瞬間こそが、マークという人物の本質を私に教えてくれました。彼の温かさ、尽きることのない好奇心、そしていつでも発揮するあの素晴らしい冒険心などです」

「もちろん、金融専門家としての彼の功績は並外れたものです。マークは新興国市場に世界の目を引き寄せ、何世代にもわたる投資家たちに、よりグローバルな視点で、より大胆に、そして可能性についてより豊かな想像力を働かせて考えるよう促しました。彼は、私たちの投資の仕方や、世界中の機会に対する見方を一変させたのです」

モーニングスターのマネージング・ディレクター、ドン・フィリップスは次のように述べている。「彼はまさに『ロード・ウォリアー』であり、真の先駆者でした。絶えず旅を続け、新たな扉を叩き続けていたのです。数多くの企業、さらには一部の国々においても、彼は最初の外部投資家でした。彼の歩んだ道は決して平坦なものではありませんでした。洗練されたプレゼンテーションや信頼できる財務諸表で彼を迎えてくれる企業はほとんどありませんでした。彼は信頼できる投資機会を見出すために、自ら徹底的に調査を重ねなければなりませんでした。しかし、まさに前人未踏の領域を切り拓いていたからこそ、彼はしばしば類まれな投資機会を見出してきたのです」

「今日、彼が成し遂げたことを誰かが再現できるとは思えません。投資ビジネスは、彼が新たな市場を開拓していた当時と比べて、はるかに複雑になり、グローバル化しています。私は、彼が同時代のどの運用者よりも、投資の専門化とグローバル化に大きく貢献したと断言できます。そして、彼の機知と魅力、そして素晴らしい実績が、数え切れないほどのファイナンシャル・アドバイザーとその顧客に、視野を広げ、彼と共にその旅路に加わるよう後押ししたのです」

今でも多くの運用者が出張することはあるが、投資業界でモビアス氏のような人物が再び現れることはまずないだろう。フィリップスによると、世界を飛び歩いたモビアス氏は、モーニングスター・インベストメント・カンファレンスで頻繁に講演を行ったが、ある時、シカゴでこのイベントに登壇したとき、つい数週間前にも別の用事のためにシカゴに来ていたことがあったという。「同じ都市にわずかな間をおいて二度滞在することで、最初の訪問時にスーツの採寸を済ませ、二度目の訪問時に受け取るという機会が彼にはありました。実際、彼はそうしたのです」とフィリップスは語っている。「これこそが、まさに放浪的なライフスタイルと言えるのではないでしょうか?」◇

※ 本稿はモーニングスターの「Mark Mobius, Legendary Emerging-Markets Investor, Dies at 89」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

<日本版付記>

筆者が携わっていた月刊『投資信託事情』でも、マーク・モビアス氏に何度かインタビューをする機会があった。本稿にもあるように、初対面のときのモビアス氏は特徴的なスキンヘッドと、白っぽいスーツに身を包んでおり、白人男性としては小柄ながらも、圧倒的な存在感があった。

時間を忘れるほど闊達に多くのエピソードを披露してくれたモビアス氏は、まさに、パワフルなエマージング・マーケット投資の伝道者だと感じた。楽しそうに語ってくれていた氏の雰囲気が一変したのは、筆者が一つの質問をしたときだった。

「日本では新興国投資はある種の流行として、投資地域をプロモーションし、次々に乗り換えていくものだという扱いが一般的です。これは、新興国投資の本質とは異なると思うが、どうお考えですか?」という質問だ。

そこから彼は教師、または哲学者の顔つきになって語り始めた。

「一つの国が発展の黎明期から成長を遂げるまでにどのくらいの時間がかかるか、想像してごらんなさい。半年や1年のリターンで満足して別の地域へと目移りすることが正しいのか?確かに地域によって隆盛の時期や速度は異なるが、短期間の収益で満足することは、極めてもったいないことだ」

次はブラジル、インド、ベトナム…と個別地域に絞ったファンドが資金を集め、やがて縮小していく姿を見続けて(うんざりして)いた筆者に、新興国投資における本質的な視座を与えてくれた至玉の言葉であった。◇島田 知保(モーニングスター・ジャパン)

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針