8月31日、最初のインデックス・ファンドが創設50周年を迎えました。1976年のその日、故ジョン・クリフトン・”ジャック”・ボーグル氏が率いる新興の投資信託運用会社「バンガード」が、世界初の公募のS&P 500インデックス・ファンドを立ち上げました。
半世紀が経過した今、「Vanguard 500 Index」の個人投資家向けシェアクラス(VFINX)を含む全シェアクラス合計の純資産総額は1.67兆ドルに達しています。米国投資会社協会(ICI)によると、インデックス・ファンドと上場投資信託(ETF)の運用資産総額は、アクティブ運用型の米国株式ファンドよりも50%上回っています(※編集注:ETFすべてをインデックスファンドと合算していることに留意。アクティブETFをアクティブに算入すると、パッシブ54~55%、アクティブ45~46%程度となる)。
私自身この38年間インデックス投資を実践し、そのうち22年間はアドバイザーとして活動してきました。この間に私にとって状況は劇的に変化を遂げました。もはや、インデックス・ファンドとは何かとか、なぜ手数料が重要なのかなどを人々に説明する必要はありません。それどころか、今では投資家自らが、「手数料の高いアクティブ・ファンドを解約してインデックス・ファンドへ乗り換えたい」と、私に相談に来てくれるようになったのです。
ボーグル氏と知り合えたこと、そして今もなお、彼の長年のエグゼクティブ・アシスタントであったエミリー・スナイダー氏や、ボーグル氏の息子のアンドリュー氏と交流が続いていることを、私はとても幸運に思っています。
ここでは、インデックス投資誕生の経緯と、その成長ぶりが、長年の熱心なインデックス投資家である私でさえも驚かせた理由について伝えようと思います。さらに、もしボーグル氏が最初のインデックス・ファンドを創設していなかったらどうなっていただろうか、という私の考えも述べたいと思います。
S&P 500インデックス・ファンド誕生の概略
ファンドの立ち上げより四半世紀前、プリンストン大学の学生だったボーグル氏は卒業論文で、投資信託(ミューチュアル・ファンド)が市場平均を上回る優位性を持つと主張することはできないと論じました。その後、キャリアを重ねてウェリントン・マネジメントの会長に就任するに至りましたが、その間、彼はインデックス運用という考えを棚上げにしていました。実際彼は1960年に、ジョン・B・アームストロングというペンネームを用いて、『ファイナンシャル・アナリスト・ジャーナル』誌に「投資信託運用を擁護する論拠(The Case for Mutual Fund Management)」と題する記事を寄稿し、プロによるアクティブ運用を擁護しました。
1974年、ウェリントン・マネジメントの取締役会は、ボーグル氏が主導した見通しの甘かった合併を理由に、彼を解任しました。しかし、ボーグル氏は依然として11本のウェリントン・ミューチュアル・ファンドのチェアマンには留まっていました(※編集注:ファンド1本ずつが投資法人であり、その取締役会議長にあたる)。ウェリントンの取締役会は、ファンド管理業務(アドミニストレーション)以外のすべてのファンド運営を継続させることを決議しました。そこで、各ファンドの取締役たちは、ボーグル氏をCEOとする新たなファンド管理会社を設立しました。その会社の名称が「バンガード」です。
ボーグル氏とファンドの取締役たちは、営利企業を設立するのではなく、ファンド自体がその新会社を所有するという仕組みを構築しました。つまり、ファンドの株主がバンガードを所有するということです。ボーグル氏は、投資家と運用会社の所有者を指して、「人は二人の主人に仕えることはできない(No man can serve two masters)」と述べています。
ボーグル氏はプリンストン大学の卒業論文で提唱した構想に立ち返り、1976年8月31日、S&P 500種指数に連動する「First Index Investment Trust」を立ち上げました。当初、このファンドは最大6%の販売手数料が課されていました。ボーグル氏は当初1億5,000万ドルの資金を集めることを目標としていましたが、新規設定時に集まったのはわずか1,130万ドルでした。実際、指数を構成する500銘柄すべてを購入するには資金が足りず、購入できたのは280銘柄でした。ボーグル氏自身がこれを「完全な失敗」と呼んだ一方で、業界はこれを「ボーグルの愚行(Bogle’s folly)」と揶揄し、インデックス運用は「非アメリカ的」だと批判されました。
この失敗の後、ボーグル氏はどのような心境だったのでしょうか。私は当時、同ファンドの主幹事会社だったディーン・ウィッターで役員を務めていたロジャー・ウッド氏に話を聞きました。ウッド氏によれば、投資資金が目標を大幅に下回ることが明らかになった時、ウッド氏は「計画を中止し、バンガードが負担した多額の費用を補填する」と提案したそうです。ところがボーグル氏は、「とんでもない。我々は世界初のインデックス・ファンドを立ち上げる。これは何か大きなことの始まりなのだから」といった趣旨の言葉を、力強く返したそうです。
アンドリュー・ボーグル氏は、私にこう語りました。「父は当初の投資額については失敗と見ていたものの、世界初のインデックス・ファンドが正式に設立されたという点で、このファンドの設定を大成功だと考えていました」。彼はまた、「父は『ボーグルの愚行』という批判を、無料のメディア露出(宣伝)と捉えていた」とも述べました。
バンガードはその後、何兆ドルもの資金を集めることになりました。そして、いかに成功したかを別の角度から語るなら、もし、その最初のインデックス・ファンドの運用開始時に1万5,000ドルを投資していたとすると、私の試算では、今日の価値は360万ドル以上になっているということです。
ボーグル氏は、投資家自身が所有する初の投資信託運用会社を通じて、最初のインデックス・ファンドを創設しました。しかし、彼にはもうひとつ重要な目標がありました。それは、販売手数料を撤廃することです。ファンドの設立から約6か月後、取締役会は、バンガードを初の「ノーロード(販売手数料無料)」の投資信託会社のひとつにするというボーグル氏の提案を承認しました。 「私の主張は、バンガードが販売業務に従事しないという誓約に違反しているわけではなく、単に販売業務そのものをなくそうとしているのだ、というものでした」とボーグル氏は記しています。
もしもあの時、ボーグル氏が解任されなかったら?
バンガードの試算によると、2025年末時点で、インデックス投資によって投資家はおよそ5,700億ドルの節約を実現したとのことです(※編集注:2000年から2025年までの間に、投資家が節約できた手数料。「アクティブ運用ファンドの資産加重経費率に業界全体の資産残高を乗じた額」から「インデックスファンドの資産加重経費率に業界全体の資産残高を乗じた額」を差し引くことで算出されている)。
ボーグル氏は人々にこれほど大きな経済的自由をもたらしたため、私をはじめ多くの人々は、彼が米国で最も栄誉ある民間人への勲章である「大統領自由勲章」を受けるにふさわしいと感じていました。その取り組みは実現には至りませんでしたが、ボーグル氏は何百万人もの人々の人生をより良いものへと変えてくれました。
もしウェリントンを解任されていなかったら、ボーグル氏は実際に最初のS&P 500インデックス・ファンドを立ち上げていたでしょうか?私がアンドリュー・ボーグル氏にその質問をしたところ、彼は次のように答えました。
「もし解任されていなかったら、インデックス・ファンドの立ち上げはもっと困難だったかもしれません。当時の人々にとって、あまりにも急進的で新しい投資手法だったからです。しかし、彼は自分の考えを説得し、突き進むことで知られていました。特に、インデックス・ファンドによって投資家がどのような恩恵を受けるかを数字が明確に示しているような場合にはなおさらでした」。
結局のところ、“ジャック”・ボーグル氏がウェリントンを解任されたからこそ、彼は「運用者の裁量に頼らない(unmanaged)」ファンドを立ち上げることができたのです。アンドリュー・ボーグル氏は、これは人生における「思わぬ幸運(serendipities)」の一つだと語りました。
もしボーグル氏が設立しなかったとしたら、他の誰かが最初のインデックス・ファンドを立ち上げていたでしょうか? おそらく、そうだったでしょう。投資信託(ミューチュアル・ファンド)という形態ではなかったものの、S&P 500指数に連動する運用商品(年金基金など)はすでにいくつか存在していました。1974年後半には、ノーベル賞受賞者のポール・サミュエルソン氏が、市場の動きを忠実に追跡する低コストのファンド創設を提唱していました。つまり、「インデックス・ファンド」という概念はすでに支持を集めつつあったのです。
しかし、だからといって、投資家が過去半世紀の間に私たちが享受してきたほどの恩恵を得られたとは限りません。最初のインデックス・ファンドは、おそらくファンドの投資家自身が所有する会社によって設立されることはなかったでしょう。その場合、ファンドの投資家ではなく、運用会社とその株主に何十億ドルもの利益をもたらすものになっていたはずです。その目的は利益を最大化することにあり、投資家のために徹底的にコストを引き下げることではなかったでしょう。もしボーグル氏が、自身が所有する営利企業としてバンガードを設立していたなら、彼自身も億万長者になっていたかもしれません。
というわけで。
「バンガードS&P 500インデックス」50歳の誕生日おめでとう!
※ 筆者の開示事項:筆者は、 S&P 500指数投資信託の設立50周年を記念して、8月31日に開催されるニューヨーク証券取引所のベルを鳴らす式典に、バンガード社からの招待を受けて出席します。旅費は自己負担ですが、バンガード社が主催するブランチには出席する予定です。
※ 本稿はモーニングスターの「The Index Fund Turns 50: How Jack Bogle Changed Investing Forever」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

