「トータル・ポートフォリオ・アプローチ」で株式60%/債券40%ポートフォリオを改善する方法

初心者のためのポートフォリオ構築ガイド「トータル・ポートフォリオ・アプローチ入門」 ――各資産の「成長性」と「安定性」をより深く理解しよう

ブリーフケースを主役としたイラストで、背景にはドーナツチャートとドル記号のアイコンが配置され、抽象的な形状で彩られています。

過去何十年間もずっと否定的な予測をされてきた「株式・債券比率60%/40%」のポートフォリオは、米国の株式と債券だけで構築された実に退屈な資産だが、いまだに廃れる気配は無い(褒めている)。一方、投資業界はこれを置き換えさせようと、次々に新たな提案を繰り出す努力を続けてきた。しかしそれらの代替案のほとんどは、より複雑で高コストな上に、過去の市場環境に適したものであった。

その稀な例外と言えるかもしれないのが、「トータル・ポートフォリオ・アプローチ(TPA)」である。最新の業界流行語ではあるが、それにもかかわらず全ての投資家の役に立つ可能性を秘めている。TPAは、お馴染みの株式比率60%/債券比率40%の枠組みを否定し、捨てろというわけではなく、それを下敷きに、ポートフォリオを再構築する手法を提供する。株式比率60%/債券比率40%の固定比率配分から始めるのではなく、まず様々な投資資産についてその値動きを分析することからスタートするのである。

TPAの魅力は実に明快である。TPAの目的は、あらゆる犠牲を払って高いリターンを追い求めるのではなく、市場が荒れた局面で予測可能な値動きとなるポートフォリオを構築することである。なぜ予測可能であることが重要なのか?それは、期待値に近いパフォーマンスを維持するポートフォリオは、困難な時期にも投資家が投資を継続しやすくなるからだ。投資の継続こそが長期的な目標を達成できるか否かの、運命の分かれ目となる。

「トータル・ポートフォリオ・アプローチ」は、2025年11月、6000億ドル規模の年金基金であるCalPERS(カリフォルニア州公務員退職年金基金)がこの手法を採用すると発表したことで、一躍大きな信頼を得た。

「トータル・ポートフォリオ・アプローチ」とは何か?

TPAの考え方の核心は、投資商品をラベル(資産クラスの分類)ではなくリスクに基づいて分類する点にある。問題とするべきは「株式か債券か」という分類ではなく、様々な市場環境で各資産がどんな値動きをする傾向があるかである。

この考え方自体は、それほど革新的なわけではない。伝統的な株式60%/債券40%のポートフォリオも、成長志向の資産と安定志向の資産をざっくりと分けて考える試みであった。株式は長期的な成長を牽引することが期待され、債券は市場の下落時にポートフォリオの緩衝材となる役割を担っている。TPAはこの直感を基盤としつつ、より意図的に適用しようとするものである。

実務では機関投資家向けのTPAポートフォリオは非常に複雑になりがちで、多くの場合、6つ以上の異なるリスク要因を対象としている。そこで、このアプローチがどのように機能するかを、複雑な詳細に埋もれることなく説明するため、ここでは「成長性」と「安定性」という2つの要素のみで構成される簡略化された枠組みを用いてTPAを説明しよう。この2つの要素は、株式60%/債券40%のポートフォリオにおける株式と債券のような役割を担うが、市場ストレス下で各資産がどのように振る舞うかをより明確に示してくれる。

「成長性」では、経済が拡大し市場が上昇している際には良好なパフォーマンスが期待される一方、下落局面では大きな損失を被る傾向のある投資が含まれる。株式が典型的な例だが、それだけではない。リターンが経済成長や投資家のリスク選好に強く関わる資産がここに分類される。

「安定性」では、「成長性」の資産が苦戦する局面において、より堅調に持ちこたえ、場合によっては損失を相殺する役割さえ果たす投資商品を保有する。これらの資産は、強気相場における上昇余地をある程度犠牲にしても、市場の下落局面で安定性を提供する役割を担う部分である。

ハイイールド債券は、この区分がなぜ重要なのかを示す好例である。伝統的な株式60%/債券40%ポートフォリオでは、もしハイイールド債券を保有するならば債券カテゴリに収まる。ところがハイイールド債券は、市場が不安定になると株式とともに下落し、債券比率「40%」の部分に投資家が期待するほどのクッション効果を発揮しない傾向がある。

「成長性」と「安定性」の枠組みでは、ハイイールド債券は景気後退への感応度が高いため、「成長性」の枠に入れられる。この分類見直しにより、「安定性」部分は株式が下落した際にポートフォリオの緩衝材として機能するという、本来の役割を果たすせるようになるのである。

下図は、従来の資産クラス区分ではなく、トータル・ポートフォリオ・アプローチによってリスク特性に注目して構築した仮想ポートフォリオを示している。「成長性」資産は緑色で示した米国株式とハイイールド債券、「安定性」資産は紫色で示した米国コア債券とキャッシュであり、「成長性」資産と「安定性」資産の比率は60%/40%である。

トータル・ポートフォリオ・アプローチを用いて「株式60%/債券40%」のポートフォリオを再構築した例

ハイイールド債券を「成長性」の枠に入れるのと同様の理屈が、プライベート・クレジット、新興国債券、レバレッジド・ローンを含む他の『債券』型投資商品にも当てはまる。これらの投資商品はしばしば「債券」と分類されるが、市場全体が売りに向かう局面では株式により近い振る舞いをし、分散効果が最も必要とされるまさにその時に、株式との相関性が高まる傾向があるからだ。

この枠組みは逆の方向にも作用する。株式戦略の中には、ボラティリティが低く、より防衛的に働くよう設計された戦略も存在するからだ。例えば、長期間ずっと増配を続けてきた企業に着目する投資戦略は、市場の下落局面でも比較的堅調に推移し、伝統的な株式よりも安定性のある資産に近い値動きを示すことがある。「成長性」・「安定性」の枠組みでは、このような戦略は「安定性」枠に分類するのが理に適っている。

トータル・ポートフォリオ・アプローチ(TPA)の限界

TPAにおける主な課題は、市場が固定されたルールに必ずしも従わない点にある。TPAは、様々な投資商品が異なる市場環境でどのように振る舞うかについての前提に基づいているが、それらの関係は未来永劫、常に同じだとは限らない。資産間の相関は変動し、市場構造は移り変わり、歴史的に安定性を提供してきた資産も、市場の根本的な要因が変化すると全く異なる動きを示すことがある。例えば2022年には、高水準で持続的なインフレが金利の急上昇を招き、従来安定的だと考えられていた高格付債券ファンドが深刻な打撃を受けたのである。

TPAが、より賢明なポートフォリオ構築に役立つ理由

このような限界を認識することが、まさにTPAが有用な点である。このアプローチは不確実性を排除したり、より安定したリターンを保証するものではない。しかし、各投資商品をポートフォリオに組み入れる理由や、各資産が果たすべき役割を、より明確に意識することを投資家に促すものである(訳注:これは各資産への理解をより深めると同時に、不用意に不要な資産を組み入れるリスクを抑制することにも役立つであろう)。

特に、書面上では分散効果があるように見えても、市場の下落局面では株式に近い動きを示すことが多い資産、たとえばハイイールド債、プライベート・クレジット、その他の非公開市場投資のような資産への投資配分について、この規律が大きな価値を持つのである。

このように、トータル・ポートフォリオ・アプローチ(TPA)は株式60%/債券40%方式を放棄することなく、その仕組みをより深く理解し、最も重要な部分を改善する手助けとなるものである。◇

※ 本稿はモーニングスターの記事「How a Total Portfolio Approach Can Improve the 60/40 Portfolio」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は原文が優先されます。

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針