セミリキッド(半流動性)・ファンドに潜む「見えにくい手数料」の罠

成功報酬を常に徴収されるのに、コストの情報開示はされたり、されなかったり、比較困難。実際の期待リターンも分からない。

建物のイメージを背景に、グラフィック要素を組み合わせたコラージュイラストです。

セミリキッド・ファンドが気になっている投資家がこの手のファンドのコストを知ったら、特に低コストのETF(上場投資信託)や公募ファンドに慣れている場合は、その手数料の高さに相当びっくりするだろう。投資家が普段接しているETFや一般的なファンドと、セミリキッド・ファンドとで、大きく異なる手数料体系の要素は「成功報酬(インセンティブ・フィー/パフォーマンス・フィー)」と呼ばれる手数料である。多くのセミリキッド・ファンドには、この手数料が組み込まれている。

そもそも「成功報酬」というものは、条件付きで徴収されるべきもので、ファンドマネジャーの行動が直接プラスの結果につながった場合に限って徴収されるべきものである。ところが残念ながらセミリキッド・ファンドの場合、(後で詳しく説明するが)その構造上、成功報酬は事実上無条件に徴収される。つまり、運用者が手堅く行動したか否かに関わらず、ほぼ常に成功報酬が徴収される仕組みになっている。さらに、運用会社が報酬の予測可能性について曖昧な姿勢をとっているせいで、手数料に関わる開示が同じ形式で提供されないため、同一条件でファンド間の手数料を比較することが必要以上に困難なのである。

最近発表したレポートで、筆者はセミリキッド・ファンドにが徴収する成功報酬の体系とその開示慣行に関わる問題点を網羅して挙げている。いくつかの改善策を提案し、なぜ投資家がこの手数料に注意すべきなのかも説明している。

以下では、特にセミリキッド・ファンドの構造を利用して急成長を見せている資産クラスの一つであるプライベート・クレジットついて、二つの問題点を重点的に取り上げて解説する。

問題1:一貫した情報開示がなされない

ほとんどすべての投資関連広告は、「投資を行う前に、投資目的、リスク、手数料と費用などを慎重にご検討ください」といった内容の注意喚起を投資家に提示している。これは、投資信託の運用会社に法的な義務として課されているもので、投資家がファンドを購入する前に、きちんとそのファンドの目論見書を読むことを促すためである。

しかし、もしも目論見書自体が投資家の誤解を招くものだったらどだろう?セミリキッド・ファンドでは、実際にそういうケースがしばしばある。これらのファンドの多く、特にBDC(Business Development Company)と呼ばれる非上場事業開発会社は、成功報酬を徴収しているにも関わらず、目論見書の手数料一覧にそれを記載していないのである。成功報酬を記載しない理由として、ほぼ全てのファンドが同じ文言の但し書きを記している:「必要な運用目標を達成できるかどうか予測できないため、この表では成功報酬を記載しておりません」。

これらの手数料はこのように予測不可能とされているため、目論見書の経費率から除外することができるのである。とはいえ、すべてのセミリキッド・ファンドが成功報酬を予測不可能と見なしているわけではない。実際、同一の手数料体系を持つファンドであっても、レバレッジやその他の付随費用を調整した後でも、目論見書上の純経費率が異なるケースがしばしばある。この違いはすべて、ファンドによって成功報酬の取り扱い方がバラバラであるために生じているのである。

以下は実例として、実際にはほぼ同水準の手数料を徴収している2つのファンドの情報開示を比較したものである。

同一の手数料体系でありながら、異なる手数料テーブル

規制上の曖昧さは目論見書手数料の総額を歪める可能性があります。

上のグラフは「Blue Owl Credit Income」と「Blackstone Private Credit」の最新の目論見書(左側の2つの棒グラフ)と年次報告書(同右側)に記載されている調整後純経費率を示している。投資家が目論見書に書かれた費用一覧だけを確認した場合、Blue Owl (左2本のグラフのうち右側)の方が、借入コスト控除後の年間経費率が大幅に安いと誤解される可能性があるだろう。年次報告書に記載されている本当の経費率は、実際に徴収された成功報酬を含めれば、右の2本のグラフが示す通り2つのファンドはほぼ同じであることが分かるだろう。ここから得られる教訓は単純明快である。目論見書上の経費率だけを見ると、投資家は間違った方向に誘導される危険があるということだ。

これはBlue Owl だけの問題ではない。非上場BDCの半数以上は、目論見書に成功報酬を記載していないのである。それにも関わらず、こうしたBDCのほとんどは目論見書には無い成功報酬を実際には徴収しており、手数料体系もほぼ同じなのである。

以下は似通った手数料体系の非上場BDCが、目論見書上の手数料率ではどれほまちまちの数字を記載しているかの例である。赤で示されているのは成功報酬を含む開示、青は含まない開示である。それでも、成功報酬の取り扱い方によってこれだけの違いが生じている。

非常に似通った手数料水準であっても、非上場BDCの目論見書上の手数料は大きく異なる。

非常に似通った手数料水準であっても、非上場BDCの目論見書上の手数料は大きく異なる。
Source: Morningstar Direct, SEC Filings. Expenses are based on D share classes.

問題2:「インセンティブ」の正体とは?

果たして運用会社による「成功報酬は予測不可能である」という主張は本当なのだろうか?株式中心のポートフォリオであれば予測は可能であろうが、たしかにプライベート・クレジットではほとんど不可能である。

セミリキッド・プライベート・クレジット・ファンドは、一般に変動金利で融資を行っている。つまり、担保付翌日物金利(SOFR)などの参照金利にスプレッドを上乗せした金利で貸し付けを行うのである。一方、成功報酬は固定の「ハードルレート」に基づいおり、この「ハードルレート」とは、ファンドが成功報酬を受け取る前に達成すべき最低リターンのことである。 しかし、これらのプライベート・クレジット・ファンドは通常、そのハードルレートと同じかそれ以上のスプレッドで融資をするため、ほぼ常に継続して成功報酬を徴収できると保証されているも同然なのである。

変動金利で貸し出す一方でハードルレートを固定しているというこの不整合により、特にレバレッジの活用で貸出利回りが押し上げられている現状を踏まえると、プライベート・クレジット・ファンドが成功報酬を徴収できない状況は、極めて特殊な場合に限られることになる。

例えば、以下の表は、異なる金利およびレバレッジのシナリオの下でファンドが成功報酬を「理論上獲得可能な最大値に対してどれだけ得られたか」の割合を示している。ここでは、一般的な非上場BDCの手数料体系(5%のハードルレート)を前提として、ファンドが参照金利(SOFRなど)に対して5.5%のスプレッドで貸し出し、2.0%のスプレッドで借り入れると仮定している。

レバレッジが40%(すなわちファンド総資本の40%を借入)であれば、参照金利がゼロであってもファンドは成功報酬を満額受け取ることができる。これは決して難しい条件ではなく、典型的な非上場BDCは45%程度のレバレッジで運用されており、40%を下回るケースはほとんどないからだ。インターバル・ファンドは法律でレバレッジ上限が33.3%に制限されているが、最大レバレッジの場合には、金利がゼロでも成功報酬がほぼ最大になる。参照金利が2%以上であれば、レバレッジ比率にかかわらずハードルレートをクリアすることが事実上保証されるのである。

基本料金およびレバレッジシナリオによる最大インセンティブ手数料獲得率

金利がゼロではなく、適度なレバレッジがかけられているため、インセンティブ報酬の回収はほぼ確実です。
異なる基準金利およびレバレッジシナリオ下で徴収可能なインセンティブ報酬の割合を示すテーブルです。非上場事業開発会社(BDC)における典型的な手数料体系を前提としております。
Source: Author's calculations. Assumes the typical BDC fee structure (1.25% management fee, 12.5% incentive fee with full catch-up over 5% hurdle) and that funds lend at a 5.5% spread and borrow at a 2.0% spread.

上の表を見ると、当然こんな疑問が湧くだろう。「ここで言う『インセンティブ』とは一体何を意味するのか?」。

運用会社は参照金利をコントロールできない。自分たちの能力で対処できないこの変数に基づいて投資家に手数料を課すことは、運用会社のスキルに対する成功報酬とは言えないだろう。こうしたファンドの構造を考えると、「インセンティブフィー/パフォーマンスフィー/成功報酬」は、何と呼んだとしても実質的には追加徴収される運用手数料である。

上の表は単純化した仮想的な例ではあるが、実際のデータもその実態を裏付けている。上場BDC全体を考えてみよう。上場BDCはセミリキッド・ファンドの兄弟分と言えるよく似た存在で、基礎となる同種のローンを多数保有しているが、一般にセミリキッド・ファンドよりも高いハードルレートが適用されている。歴史的な低金利だった2021年には、ほぼ全ての上場BDCが成功報酬控除前の利回りにおいて、設定されたハードルをクリアしていた。もしそれらがより新しいセミリキッド・ファンドの形をとって一般的な5%のハードルを適用していたならば、はるかに容易にハードル超えを達成していただろう。実際、以下に挙げる12社の上場BDCのうち半数は、2021年に管理手数料以上の成功報酬を稼いでいる。 明らかに、低金利はこれらの成功報酬を課す際に大した脅威とはならないのである。

2021年は歴史的に低い金利水準にもかかわらず、上場BDCは依然として容易にリターン目標を達成しました。

半流動性版はさらに低いハードルレートと、投資家にとって不利な条項がより多く設けられています。

より良い手数料比較の方法

こうした異なる手数料体系や開示情報のため、セミリキッド・ファンド間の手数料は、提出書類を見るだけでは比較することが非常に難しく、場合によっては不可能である。では、投資家はどうすればよいのだろう?この課題に対処するため、モーニングスターは共通のグロス・リターン仮定に基づいて、異なる構造のファンドについて手数料を標準化する手数料算出法を設計している。

以下の例は、この手法をBlue Owl Credit IncomeとBain Capital Private Creditに適用したものである。Blue Owlは典型的なBDC手数料体系を採用している一方、Bainは独自の料金体系を持つ数少ないBDCの一つである。Bainは総資産に対して0.75%の運用手数料を課し、7%のハードルを上回る部分に対して15%の成功報酬を徴収している。

グラフの左二つが各ファンドの目論見書に開示されている経費率、中央の二つがグロスリターン8%のケース、右の二つが同10%のケースである。棒グラフの赤は運用手数料、緑はその他手数料、黄色は成功報酬を、ブルーの点が投資家のネットリターンを表している。

この例では、グロスのインカムリターンが8%および10%(キャピタルゲインなし)の2つの場合の手数料とネットリターンを示している。投資家はこの手法を活用することで、ファンド間でより実態に合ったネットリターンの期待値を設定することができる。例えば、Blue Owlと同等のリターンを達成するためには、Bainがグロスベースでどれほど高いリターン(つまり、どれほど高いリスク)を必要とするかを把握できるわけである。

モーニングスター手数料標準化:ブルー・オウル・クレジット・インカム対ベイン・キャピタル・プライベート・クレジット

手数料体系に適用されるグロスリターンの想定は、目論見書では容易に明らかにならない差異を浮き彫りにすることがあります。
ブルー・オウル・クレジット・インカムとベイン・キャピタル・プライベート・クレジットの異なる手数料体系を、一般的な総リターンの想定に基づいて示した棒グラフです。
Source: Morningstar Direct, SEC Filings. Example uses the D share class for each. Leverage and borrowing rates are based on the latest 10-K filings. Other fees are assumed to be the same as disclosed in the latest prospectus.

手数料は常に重要である

投資家にとって、支払う手数料は極めて重要である。モーニングスターの調査では、高コストの商品がそれに見合うリターンを投資家にもたらすことはほとんどない、という事実を繰り返し示してきた。成功報酬を考慮した実質経費率、つまり実際に徴収される費用が年率3%を常に超える(中にはさらに高いものもある)セミリキッド・ファンドが、流動性の高い公募ファンドの選択肢に勝つためには、極めて高い手数料のハードルを越えなければならないのである。

だからといって、それが不可能だと言っているわけではない。しかし、例として上場株式市場を見てみよう。2026年1月までの過去10年間において、モーニングスターの大型ブレンド分類に属する約300の運用中のファンドのうち、グロスベースでS&P 500を3%以上アウトパフォームしたファンド(つまり、3%の経費率を補うことができたもの)は、たった3本しかなかった。プライベート市場が公開市場を上回るリターンを提供する可能性はあるが、手数料が示唆するように、公開市場におけるトップ1%のパフォーマンスが、あたかもプライベート市場では構造的な特徴に過ぎないと主張するのは、やや現実味に欠けると言わざるを得ない。◇

※本稿はモーニングスターの「How Semiliquid Managers Can Hide Fees」 をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。

著者はこの記事で言及されたいかなる有価証券も保有していません。詳細はこちらをご覧ください: モーニングスターの編集方針