長年にわたり投資家たちは、幅広い分散投資こそが市場において労せずして得られる「タダ飯」に最も近いものだと教えられてきました。ところが今、多くの投資家はまさにその正反対の行動をとっています。個別株式の短期的な価格変動を増幅させるように設計された、トレンド主導型で集中度の高い商品を買い漁っているのです。さらに、このような金融商品に内在するリスクについて、十分な認識を持たないまま投資しているケースが少なくありません。
この変化が最も顕著に表れているのは、香港における「個別株式レバレッジ商品」の爆発的な成長です。2025年10月に上場した「CSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ商品(CSOP SK Hynix Daily (2X) Leveraged Product)」(7709)は、上場から数ヵ月で香港ETF市場の残高トップに躍り出ました。2026年6月22日には約30年の歴史を持ち香港ハンセン指数に連動する「トラッカー・ファンド・オブ・香港(Tracker Fund of Hong Kong)」(2800)を一時的に上回りました(図表1)。
図表1:CSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ商品の残高は急増

目論見書によると、「CSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ商品」は、スワップやオプションなどの金融デリバティブを活用し、手数料・費用控除前で、「SK Hynix Inc」(000660)の1日あたりのパフォーマンスの2倍(2x)の動きとなることを目指す商品です。同ETFの資産の急速な増加は、メモリチップ製造を専門とする韓国企業であるSKハイニックスの株式の急騰と密接に関連しています。SKハイニックスの株価は、AI関連株式の活況を背景に過去6ヵ月間で5倍に上昇しており、投資家の需要がいかに対象株式の値動きそのものに突き動かされているかを浮き彫りにしています。
市場全体を見ても、レバレッジ型およびインバース型商品は、個別株式連動、指数連動を問わず、足元の数四半期において香港上場ETFへの資金流入を牽引する主要な要因となってきました。たとえば2026年第1四半期には、市場に流入した622億香港ドルのうち、これらの商品が3分の1近くを占めました。このような動向についてさらに詳しく知りたい方は、モーニングスター『APAC ETF資金フロー Q1 2026』をご覧ください。図表2は、香港に上場している資産残高上位5位のレバレッジ型およびインバース型商品を示しています。
図表2:レバレッジ・インバース商品は、費用が高く、大きな下落リスクを伴う

表面的な魅力の裏にあるリスク
テクノロジー株やAI関連株が急騰する中、レバレッジ商品の表面上のリターンは、当然ながら魅力的に映ります。本来であれば実現が難しい「賭けを倍にする」ことを、手軽に叶えてくれるからです。しかしレバレッジは諸刃の剣であり、潮目が変わったときには損失も同じだけ激しく増幅させます。
一方、インバース型商品は対象資産の下落局面で利益を狙う仕組みで、ヘッジ手段としても利用されますが、対象資産が上昇する局面では損失を被ることになり、本質的にマーケットタイミングのリスクを伴います。実際、「CSOPハンセン指数デイリー(-2倍)インバース商品(CSOP Hang Seng Index Daily (-2x) Inverse Product)」(7500)は苦戦を強いられており、この間ハンセン指数自体は上昇していたにもかかわらず、過去1年・3年のリターンは振るいませんでした(図表2)。
さらに、レバレッジ型やインバース型の商品は保有コストも割高です。レバレッジに伴うコストと高い運用費用は、伝統的なETFや分散投資型のオープンエンド型ファンドと比較して、長期的に見てリターンを著しく押し下げる可能性があります。総じて、これらの商品の多くは一般的な投資家には適さないものであり、投資を検討する前に知っておくべき主なリスクについて以下にまとめます。
投資家が留意すべきリスクと複雑性
個別株式レバレッジ型・インバース型商品は、その設計上、分散型の指数に連動する従来型のレバレッジの無いETFとは、リスクの性質が大きく異なります。これらのリスクの一部は商品名から推測できる場合もありますが、その仕組みは見た目よりもはるかに複雑であることが多く、目標とする値動きとの間に乖離や目減りが生じる可能性があります。
(1) 集中リスク
個別株式のレバレッジ型またはインバース型商品は、1つの原資産となる株式に連動したレバレッジ効果またはその逆(インバース)のリターンを目指す商品です。「CSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ型商品」の場合、連動対象はSKハイニックスの株価です。そのため、従来のETFが通常保有するような幅広い株式への分散投資とは異なり、この商品は個別株式に集中投資する形になります。
(2) レバレッジはリスクとリターンの両方を増幅させる
商品名に「レバレッジ」という言葉が大きく掲げられている通り、これは連動対象となる株式や指数の値動きを増幅させることを意味し、リスクとリターンの両面に影響があること、また、一部の局面では下落幅(ドローダウン)が極端に大きくなる可能性があることを、投資家は改めて留意すべきでしょう。例えば、「CSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ商品」は、2026年3月だけで52%の下落を記録しました。 一方、インバース商品は連動対象資産のパフォーマンスと逆の(一部は-2倍などの倍数)リターンを目指す設計であり、リスク・リターンの性質は完全に異なります。
(3) ボラティリティによるマイナス影響は、長期的にリターンを目減りさせる
「CSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ型商品」における「デイリー」(Daily, 日次)という言葉は極めて重要です。香港のレバレッジ型・インバース型の商品は、通常、手数料・費用控除前で、連動対象資産の「日次」リターンの2倍、-1倍、または-2倍のリターンを目指します。しかし、1日を超える期間では、連動対象資産の累積リターンは、記載された倍率とは大きく異なる場合があります。この現象は、一般に「ボラティリティ・ドラッグ」として知られています。
図表3の例は、個別株式を連動対象とするレバレッジ型・インバース型の商品において、ボラティリティがいかにリターンを目減りさせるかを示しています。長期的には、リターンが表示倍率どおり、あるいはそれを上回るためには、連動対象株式が継続的に上昇し続ける必要があります。しかし、ボラティリティが高く(値動きが激しく)、上下にジグザグに推移する相場では、表示倍率通りに運用成果を積み上げることが難しくなる可能性があります。もっとも、長期の保有期間において表示倍率を達成すること自体が、これらの商品の本来の目的ではありません。
図表3:レバレッジ商品・インバース商品におけるボラティリティ・ドラッグの図解

(4) 高い運用費用
図表2に示されているように、レバレッジ型・インバース型の商品の残高上位5ファンドは、年間1.05%から2.00%の運用費用を課しています。これは、従来のレバレッジ・インバース機能を持たないインデックス連動型ETFの運用費用に比べて、はるかに高額です。一方、「トラッカー・ファンド・オブ・香港」の運用費用は年率わずか0.06%です。レバレッジ型・インバース型商品の高い運用費用は、運用成績にさらなる足かせとなり、連動対象となる株式や指数のリターンの所定の倍率を実現する能力をさらに損なうことになります。
継続的な費用に加え、レバレッジ型・インバース型のエクスポージャーを確保するため、これらの商品は金融デリバティブを利用しています。これに伴い発生する費用は運用商品(ファンド)が負担し、ファンドの基準価額に反映されるため、トラッキング・ディファレンスおよびトラッキング・エラーに影響を及ぼします。これらの(間接的な)コストは市場の状況によって変動するため予測が困難です。極端な市場環境下では、これらのコストが大幅に増加する可能性がありますが、一方で、場合によっては「マイナス」となることもあり、その場合は当該商品のトラッキング・ディファレンスにプラスの影響を与えることになります。
これらのコストの規模を具体的に示すために、「CSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ商品」の商品概要からの抜粋と、2026年6月現在の同商品の日次トラッキング・ディファレンス(同商品のリターンと連動対象株式の2倍の日次パフォーマンスとの日次乖離)を以下に示します。これによると、複数の日において、日次で-1%を超える悪化が見られます:
「スワップおよびオプションにかかる費用は、スワップおよびオプションの想定元本の年率7.50%から20.00%の範囲になると見込まれます。すなわち、本商品が基準価額の最大49%をオプションに投資する場合、当該費用は本商品の基準価額の年率15.00%から40.00%の範囲となります。」
図表4:2026年6月のCSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ商品の1日あたりトラッキング・ディファレンス

(5) 市場取引において考慮すべき点
個別株式を連動対象とするレバレッジ型・インバース型商品は証券取引所で取引されており、その時点の基準価額に対してプレミアム(割高)またはディスカウント(割安)で取引される場合があります。プレミアムやディスカウントは、市場の需給動向、取引条件、タイミングの差異などによって生じることがあり、取引時間中に変動する可能性があります。その結果、流通市場(以下の商品の場合は香港証券取引所)で売買する際、投資家のリターンに影響を与える可能性があります。 図表5は、2026年6月現在の「CSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ商品」の終値ベースのプレミアム・ディスカウント水準を示しており、2026年6月にはプレミアム水準が最大12%まで急上昇しました。
図表5:CSOP SKハイニックス・デイリー(2倍)レバレッジ商品のプレミアム・ディスカウントは大きく変動

その他、取引に関連するものとしては、投資家の取引コストやビッド・アスク・スプレッドなどが挙げられ、これらはすべて投資家のリターンに影響を与える可能性があります。
(6) すべてを勘案すると - リターンの目減りに要注意
これまで見てきたリスクや複雑性、特にレバレッジ型・インバース型商品を長期間保有する場合の影響や、リターンの目減りに運用費用や取引コストの影響をさらに分かりやすく示すため、ハンセン指数を連動対象資産とするレバレッジ型(2倍)商品とインバース型(-2倍)商品のパフォーマンスを見てみましょう。この例は、時間の経過とともにパフォーマンスが目標とする値動きから、いかに乖離し得るかを示しています。図表6に示す通り、両商品の設定日から2026年6月22日までの期間で、2倍レバレッジ商品と-2倍インバース商品はいずれもハンセン指数を下回る結果となりました。この期間、2倍レバレッジ商品のリターンは-47%、-2倍インバース商品のリターンは-73%であった一方、ハンセン指数(プライス・リターン)は13%の下落にとどまっています。
図表6:真逆の動きを目指しているものの、両商品ともにハンセン指数を下回る

購入の際はご注意を
多くの投資家にとって、レバレッジ型・インバース型商品は基本的に「買って持ち続ける」タイプの投資には適していません。これらの商品は、その仕組みを理解した上で短期売買やヘッジ目的で活用する、アクティブなトレーダー向けと言えるでしょう。
今後について触れておくと、香港証券先物委員会(SFC)は2026年6月6日付で「上場ストラクチャードファンドに関する通達」を改定し、個別株式を連動対象とするレバレッジ型およびインバース型商品の対象範囲を、流動性の高い香港上場の大型株式にも拡大しました。これまでは、海外上場株式のみが対象となっていました。今後、個別株式のレバレッジ型およびインバース型ETFの新規上場がさらに増えると見込まれることから、投資家は購入前にこれらの商品の仕組みを十分理解し、慎重に判断する姿勢が求められます。◇
※ 本稿はモーニングスター(アジア)の「Record Demand, Recurring Pitfalls: The Truth About Single-Stock Leveraged and Inverse Products」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
※ 本稿は、情報提供のみを目的としており、特定の金融商品、銘柄などを推奨するものではありません。投資における判断は、ご自身の投資目的、投資期間、資金性格、投資への姿勢などを勘案して、ご自身の責任において慎重に行ってください。


