投資商品にはリスクが伴います。それは驚くべきことではなく、市場は気まぐれだと誰もが知っています。上がったり、下がったり、正当な理由もなく変動することもしばしばあります。
上場投資信託(ETF)の長期的な評価する上で、これらの市場変動リスクにどう対処するかという戦略を知ることが重要です。適切に構築された投資戦略は、市場の動向に関わらず自らが負うリスクを意図的に利用して、適切な収益率で投資家に報います。しかし、すべてのETFがこの偉業を成功させているわけではありません。リスクを余計に取っていながら、期待を下回るリターンとなるETFが増えています。
一貫性が重要
優れた投資戦略は通常、目標とするリスクを一貫して維持する能力によって、劣後する投資戦略と区別されます。例えば、「iShares S&P 500 ETF」IVVのような広範な市場を対象としたインデックス運用のETFは、非常に一貫性があります。S&P 500が1%上昇すれば1%上昇し、S&P 500が1%下落すれば1%下落します。S&P 500に常に追随するので、このファンドについて、投資家は自分が取っているリスクを非常に簡単に把握できます。
モーニングスター・メダリスト・レーティングで「銀(Silver)」の格付けを獲得している「iShares Core S&P US Value ETF」IUSVは、リスクに関してさらに一歩踏み込んだETFです。米国市場の割安な株式の上位50%の中から数百銘柄を選択して投資を行うバリュー型のETFです。バリュー株寄りの企業群がグロース株寄りの企業群をアウトパフォームする市場環境では、市場平均を上回るパフォーマンスを示すはずです。市場が逆方向に動く場合には、市場を下回るパフォーマンスを示すでしょう。
このバリュー型の ETF は、一貫してその期待通りの結果を残してきました。以下の図表1 は、「iShares S&P 500 ETF 」 との相対的な成長率を示しています。グラフの折れ線が上向きのときは、「iShares S&P 500 ETF 」をアウトパフォームし、下向きのときは、アンダーパフォームしていることを示しています。折れ線が横ばいの場合は、どちらの ETF も他方に対して優位性がなかったことを示します。
図表1 「iShares S&P 500 ETF」対「iShares Core S&P US Value ETF」:成長率
IUSVとIVVの比較
「iShares Core S&P US Value ETF」は、2020年の新年から9か月間と2025年5月までの30か月間で「iShares S&P 500ETF」をアンダーパフォームしました。これらの期間では、Apple AAPL、Microsoft MSFT、NVIDIA NVDA のようなグロース寄りの超大型テクノロジー株式が勝者となり、割安な株式は苦戦しました。「iShares Core S&P US Value ETF」は、バリュー重視のポートフォリオとして想定した通りに、この時期は市場をアンダーパフォームしたわけです。
そしてこのETFの一貫性は市場が逆の局面の場合も有効に働き、アウトパフォームした期間にも引き継がれました。2022年には、市場全体が下落する環境で割安株式がより良く持ちこたえましたが、当ETFも「 iShares S&P 500 ETF」を12.8%ポイント上回りました。
行き過ぎた戦略、という懸念
バリュー重視のETFすべてがこうした期待に応えられるわけではありません。「iShares Focused Value Factor ETF」 FOVLがその一例です。先に挙げた「iShares Core S&P US ValueETF」と同様に、株式市場の中で割安な銘柄を保有していますが、保有銘柄数はわずか40銘柄で、「iShares Core S&P US Value ETF」のポートフォリオに含まれる数百銘柄よりもはるかに少なくなっています。これが「iShares Core S&P US Value ETF」とは大きく異なる点で、この銘柄集中がパフォーマンスに影響を与える可能性があります。
図表 2 は、「iShares Focused Value Factor ETF」と「iShares S&P 500 ETF」の相対的な成長率を、先の図表1「iShares Core S&P US Value ETF」のグラフと一緒に表示したものです。2つのバリュー型ETFを一緒に表示することで、それぞれのバリュー戦略の類似点と相違点がより明確に分かるでしょう。
図表2 「iShares S&P 500 ETF」対「iShares Focused Value Factor ETF」(赤)と「iShares Core S&P US Value ETF」(青)
FOVL、IUSVとのペース配分に苦戦
両者とも、バリュー・ポートフォリオとしての基本的な動きに従っていることは同じです。2020年の最初の9か月間はいずれも「iShares S&P 500 ETF」をアンダーパフォームし、2022年にはアウトパフォームし、2025年5月までの30か月間はふたたび市場に劣後する動きとなりました。
しかし、より短い期間では大きな違いが現れています。例えば、「iShares Focused Value Factor ETF」は、2020年の下落時に「iShares Core S&P US Value ETF」よりも23パーセントポイントも多く下落しました。その後の6か月間、「iShares Core S&P US Value ETF」が横ばいであったのに対して、「iShares Focused Value Factor ETF」は下落の一部を取り返しました。しかし、2022年には「iShares Core S&P US Value ETF」を3.9パーセントポイント下回りました。
別の言い方をすれば、「iShares Focused Value Factor ETF」のパフォーマンスは「iShares Core S&P US Value ETF」よりも不安定だったということです。「iShares Focused Value Factor ETF」に投資をした人は、より不安定な値動きに耐えたのに、その追加リスクに見合うだけの成果を得られませんでした。
「iShares Focused Value Factor ETF」が2019年3月に設定されてから2025年5月末までの期間において、「iShares Core S&P US Value ETF」は、年率換算で約2パーセントポイント上回りました。
アクティブ・リスクを意識する
「iShares Focused Value Factor ETF」のパフォーマンスは、重要な教訓を示しています。ETFが追加的なリスクを取るのは容易ですが、投資家にその分高い収益で報いるのは遥かに難しいという事実です。
「iShares Focused Value Factor ETF」は、ポートフォリオを40銘柄に絞り込むことで、より大きなリスクを取っています。そのリターン は、保有する個別企業の株式の成否に大きく左右され、割安株全体のパフォーマンスにはそれほど影響されません。「iShares Core S&P US Value ETF」は市場平均とは異なる(バリュー株式の変動を反映する)動きをしますが、「iShares Focused Value Factor ETF」は更に大きく市場とは異なる値動きをします。
アナリストは「アクティブ・リスク」という用語を、投資ポートフォリオ間の違いの大きさを広義に表現するために使用います。多くの場合、こうした差はトラッキングエラー(投資商品が、モーニン グスター指数などのベンチマークにどれだけ忠実に追従しているかを示す指標)を通じて表されます。
定性的に言えば、アクティブ・リスクが低いポートフォリオは、一般的にベンチマークに対するトラッキング・エラーが低くなります。一方、アクティブ・リスクが高いポートフォリオは、トラッキング・エラー が大きく、より頻繁に、より大きく、同じベンチマークからトータル・リターンがかい離します。
「iShares Core S&P US Value ETF」 と「 iShares Focused Value Factor ETF」 は、いずれも大型株と中型株を保有するバリュー戦略であるため、ラッセル 1000 バリュー指数はそのトラッキングエラーを評価するベンチマークとして適しています。
「iShares Core S&P US Value ETF」のラッセル 1000 バリュー指数に対するトラッキングエラーは、2025年5月までの過去5年間で2.3%でした。一方、「iShares Focused Value Factor ETF」のトラッキングエラーは、10.1%と非常に高い値を示しました。
「iShares Core S&P US Value ETF」は、ラッセル 1000 バリュー指数とほぼ同様のパフォーマンスを示す低アクティブリスクETFの一例です。一方、「iShares Focused Value Factor ETF」はアクティブリスクが高いETFであり、予測困難な形でベンチマークから離れた動きをする可能性があります。
FOMO:取り残されることへの恐怖
アクティブリスクが高いポートフォリオは、長期的な利益をもたらすのでしょうか?
2019年にモーニングスターが発表した「ポートフォリオの集中度はリターンにあまり影響しない」と題する論文では、アクティブ運用ポートフォリオの集中度とその後のパフォーマンスとの関係を調査しています。その結果、保有株式数が相対的に少ないファンドでは、最高値は高く、最低値は低いことが示されました。
さらに、集中度が高いポートフォリオがベンチマークを上回る確率は、より分散されたポートフォリオとほぼ同じでしたが、結果の上下幅ははるかに大きいものでした。大きく上回ったファンドもあれば、非常に貧弱な結果となったファンドもたくさんありました。
つまり、集中投資を行うポートフォリオは、より分散されたポートフォリオよりも遥かにリスクが高く、集中ポートフォリオは(平均的には)高いリターンという形で報われませんでした。この研究の分析対象はミューチュアル・ファンドだったので、指数連動型ETFは含まれていませんでしたが、ETFも同様の問題を抱える可能性があります。
アクティブ運用であれパッシブ運用であれ、集中ポートフォリオは少数の銘柄のパフォーマンスに大きく依存しています。そのため、集中ポートフォリオがベンチマークからいつ、どのくらい外れるのか、またそのかい離が投資家にとって有利に働くのか損失につながるのかを予測することは、不可能ではないにしても非常に困難です。市場が下落しても個別の株式が上昇することもあれば、市場が上昇しても個別の株式が下落する場合もあるからです。
近年人気が急上昇している「テーマ型」のETFは、アクティブリスクが高い投資の典型的なものです。2020年後半には、それらのETFの多くが目覚ましいパフォーマンスを上げましたが、その後すぐに凋落しました。
これらのETFは、技術革新、人工知能、ダイエット用サプリや薬品など、特定の経済テーマに何らかの形で関連する少数の企業の株式に投資をしているものです。魅力的な成長ストーリーと積極的なマーケティングで販売推進されることが一般的ですが、宣伝通りの成果を上げることは稀です。
とはいえ、時折こうしたETFの中には短期的に素晴らしいリターンを上げるものもあり、多くの投資家は「(自分だけが)絶好の機会を逃しているかもしれない」と心配するかもしれません。
しかし、高度に集中投資をするポートフォリオから得られるずば抜けたパフォーマンスは、長く続くことは滅多にありません。いずれ、何かの問題に直面することになるでしょう。そうしたETFのほとんどが、長期的なパフォーマンスが低迷して投機的な投資家の関心が薄れると、最終的に運用を停止することになります。
図表3は、モーニングスターによるテーマ型ファンドの分析調査、「グローバル・テーマ型ファンド・ランドスケープ・レポート」 (2024年版・英語。日本版はこちら)からの引用です。
これによると、長期で見たテーマ型ファンドの運用実績は、悲惨な結果となっています。運用開始から10年も経たないうちに、ファンドの半分弱が運用を終了(閉鎖、解散など)しており、世界の株式市場を上回る運用実績を達成したのは20%未満でした。期間を15年に延ばすと、成功率はさらに悪化しています。
Thematic ETFs Meet Their Maker
これらすべては、幅広く分散投資を行うETFの知られざる利点の一つを示唆しています。そのようなETFは、対象とする市場のあらゆる株式を少しずつ保有するように設計されています。そのため、機会損失——つまり適切な銘柄を適切な時期に保有しないことによってETFのパフォーマンスが低下するリスクを軽減することができます(訳注:銘柄数が多く、分散されているため、個々の株式の値動きの影響を受けにくいものの、個々の株式の値上がりによるリターンも薄まります)。
資産運用会社はここ数年、ますます多数の集中度の高いETFを導入しています。テーマ型ETFもあれば、「iShares Focused Value Factor ETF」のように戦略的ベータ型ETFもあります。共通点は、いずれも保有銘柄数が比較的少ないことです。
このようなETFの導入は、多くの場合、現在投資家が保有している広範な市場と連動するETFとは「異なる投資商品」を提供するための意識的な取り組みです。高い手数料を課すための言い訳にもなっています。
投資家は注意が必要です。保有銘柄数が100銘柄未満の株式ETFは危険信号です。また、たとえその基準を満たしているものであっても、詳細を良く調べる必要があります。集中度が高く、アクティブリスクが高いETFが存在するからと言って、必ずしもあなたが投資すべきだというわけでは無いことを、心にとめておいてください。◇
※ 本稿はモーニングスターによる「The Hidden Risks in New ETFs」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。原文と翻訳に相違がある場合は原文が優先されます。

